第5話 秘密の拠点
冒険者ギルドのギルド長から除名処分だと聞きショックを受けた後、僕は冒険者の活動をするために借りている宿には戻らず、街の近くにある森の中に人知れず構えた秘密の拠点に戻ってきていた。
自分のことだけども、幼い頃からずっと人から離れて森の中で過ごしているな、と思う。
ここは、街の中には一緒に入ることが出来ないようなモンスターの仲間達が生活をしている場所だった。
「どうしたのじゃ、アラン? 今日は街に泊まってくる日じゃなかったのか」
「冒険者ギルドをクビになっちゃった」
大きな湖のほとりに建っている小屋の中に入ると、床の上に寝転んで、くつろいでいる幼女が居た。彼女は、僕が予定外で帰ってきたことに驚き、問いかけてきたので正直に答える。冒険者ギルドを除名処分されて、仕事がなくなったという事を。
「なに? お主のような優秀な人間を群れから追い出すとは、人間も愚かよのう」
「仕方ないよ。冒険者なのにモンスターを殺さない、って言って活動してたから」
愉快そうに笑う幼女。反対に、僕の表情は沈んでいるだろう。装備していた武器や防具を外して身軽になってから、彼女と一緒になって床の上に寝転んだ。横に並んで横たわった態勢で一緒に小屋の天井を見上げる。
冒険者ギルドに所属して5年ぐらい活動をしていた。当初から、モンスターの討伐依頼は絶対にお断りだと言って活動を続けてきた。
それでも仕事は沢山あって、冒険者として働く毎日を過ごしてきた。基本的にソロで活動していたけれど、同じ冒険者仲間から誘われたりお願いされた時は一緒に仕事を手伝ったりもして、上手くコミュニティに馴染めていたと思っていた。
最近ではモンスターを一匹も倒さない冒険者として、冒険者以外の人達からも名を知られるようになってきた事は知っていた。モンスターを殺さないとは冒険者として失格だとか、臆病者だとも言われていたみたいだけれど、依頼を受けると失敗もなく遂行してきたので特に気にしていなかった。
それが突然、何の前触れもなくギルド長から除名処分だと言われて僕は混乱した。理由は、討伐依頼を拒否してモンスターを殺さないから、だと言われて何故急にそうなったのかという疑問。
混乱している間に、有無を言わせず無理やり両脇から2人の男に掴まれて、ギルドの建物から外に追い出された。建物の中から他の冒険者に向けられた視線は、突然の出来事とゴチャゴチャになった感情とが合わさってトラウマだった。
「あー、嫌だ嫌だ。しばらく街には近づかないようにしよう」
「なら、しばらくの間はココに居るという事じゃな!?」
街に戻って他の冒険者達と顔を合わせるのが嫌だったから、しばらくの間は街には近づかないようにしようと呟く。すると、横で寝転がっていた彼女が上体を起こして僕の顔を確認するように、満面の笑みを浮かべて覗き込んでくる。
「ワシと一緒に、暮らすんじゃな」
「うん、そうだね。仕事がなくなって、仲間だと思っていたら仲間じゃなかったって勘違いしていた事が分かって、受けた精神的ショックから立ち直るまでは人里離れて生活しようかな」
「やったぁ!」
「ちょっと、抱きつくな」
小さな体で、寝転がる僕の頭に抱きついてきた。
「そんなに嬉しかった?」
「最近は、仕事仕事でコッチに寄り付かなかったじゃろ」
「そうだっけ」
「他の皆も寂しがっておったぞ」
「それは申し訳ない」
「それじゃあ早速、訓練をしようではないか!」
「えー」
「最近、お主が仕事ばかりで戦えてなかったからワシも鈍っておる。ここしばらく、レベルアップも出来ておらぬ。ワシは強くなりたいんじゃよ」
「もう十分、強いと思うけど」
「まだ全然足りぬ。もっと強さが必要じゃ」
「分かった、付き合うよ。やろうか」
「それでこそ、じゃ!」
僕は気合を入れて立ち上がり、置いてあった防具を身に着けて、武器を手に取る。万全な戦闘態勢になってから小屋を出た。先に小屋から出ていった彼女は、何も身に着けず手ぶらなままだった。
「よし、いつでも来るが良い」
「いくよ」
幼女相手に本気で挑む。というのも、彼女は見た目通りの存在ではなかったから。彼女の名前は、アズーラ。彼女の本来の姿は、もっと巨大な体で全身を真っ赤な鱗に覆われていて、鋭い爪と牙をそなえて口や鼻から炎の息を吐く、いわゆるドラゴンと呼ばれるようなモンスターだ。
アズーラも他のモンスター仲間と同じ様に、知り合って一緒に過ごすようになった仲間の1人だった。そして、仲間の中では一二を争うぐらいにレベルとステータスが高かった。強くなりたい、という意識も強い。
今のような幼い人間の娘にしか見えない姿になっているのは、人化しているから。だが油断してはいけない。その体に秘めているパワーは、姿を変えてもステータスに変化はない。だから本気で立ち向かわないと、下手すると死んでしまう。
こうして僕は冒険者ギルドから除名処分された直後にドラゴンと、訓練だが戦いを繰り広げることになった。
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