第4話 殺さなくても、強くなれる
モンスターとは一生、戦わないと誓った。可愛い見た目をしていて殺すことなんて出来ないと思ったから。他人に強要したりしない、僕だけのルール。
だけど、本当は生き物を殺すことが怖いと思ったから。前世の日本では戦いなんてなかった、平和な世界で生活をしてきて何十年も生き物を殺さない人生を送ってきたから。今更になって、敵だから殺すと割り切ることが出来なかった。
結局、僕はモンスターを殺さないというルールを決めて現実逃避したという自覚はある。まぁ、敵を殺して経験値を稼ぐ方法以外にもレベルを上げる手段が見つかったので良かった。トレーニングを積み重ねていけば、強くなれるらしい。
これで僕も強くなって、危険なファンタジー世界でも生き残っていけそうだった。
「メラルダ、居るかい?」
「キュー!」
翌日になってから、僕は緑色のスライム型モンスターであるメラルダと別れた場所に再びやって来ていた。そこで名前を呼びかけてみると、森の奥から飛ぶようにして体当たりをしてきたモンスターが現れた。
「キューキューキュー」
僕の足元に絡みついてきて可愛く鳴き声を上げる。おそらく昨日別れた同一個体のモンスターだと思う。ただ、見分けがつかないから確信が持てないな。
でも、僕が名付けたメラルダという名前を呼びかけると反応している。その様子を見ると同じ個体なのだと分かり、人間の話す言葉も理解しているような感じだった。モンスターに対して頭が良いというイメージや印象は無かったが、実際に接してみるとそんな事は無いと思うようになった。モンスターは、意外と頭が良い。
「今日は、昨日に引き続き山の中を散策してみようかな。トレーニングしてレベルも上がれば最高なんだけど」
「キューキュー!」
メラルダと一緒になって一日、野山を駆け回った。そして、同じ場所で別れてから僕は1人になって村に帰った。
「トーマスさん、僕のレベルどうですか?」
「ん? 変わらずレベル6のようだが」
「あれ……?」
村に帰ってきて、見ただけでレベルが分かるトーマスさんに尋ねに行くと予想外の答えが返ってきた。同じ様にトレーニングして経験値を稼げると思ったら、思い違いだったのか。僕は再び焦った。
野山を駆け回ってみたが、予想に反してレベルアップ出来ていなかった。
6から7にレベルアップするために必要な経験値が足りていなかったのだろうか、それとも経験値稼ぎの方法が間違っていたのだろうか。
1から6までは、すぐにレベルが上がった事から考えると次のレベルまで遠すぎるような気がする。急に必要経験値が増えることも無いとは思うのだが、僕はまだこの世界に対する理解度が足りていない。知らないことが多すぎるから、どれが問題で、どこを修正すれば良いのか分からない。
それから僕は日々、モンスターを倒して経験値を稼ぐ以外の方法を見つけるために色々なことを試して経験値を稼ぐ方法、レベルアップする方法を探っていった。
***
そうしているうちに、僕は年齢を重ねて子供から青年へと成長していった。
村の近くにある森の中にメラルダ以外にもモンスターの仲間が沢山、増えていた。狼のような姿をしたモンスター、植物形態のモンスター、大きなトカゲのような姿をしたモンスター等など。
モンスター達は最初、僕の姿を見ると殺意を持って襲いかかってくる。だが僕は、反撃したりせずに攻撃を避け続ける。防御して攻撃をノーダメージで受け止めたり、掴まえて投げ飛ばしたり拘束したりする。相手が次第に戦意を失っていって、時間が経てば戦いは終わる。
その後は、メラルダと出会った時と同じように懐かれて、自然と仲間のような絆が生まれていた。こうしてモンスターの仲間が増えていった、という訳だった。
そして、判明した経験値についての事実。
どうやらモンスターを殺して経験値を得る必要なんて無い、という事が分かった。
相手を屈服させて、参ったと思わせた瞬間には既に経験値を得ることが出来ている。ただ鍛えるために野山を走り回ったりするだけでは不十分、モンスターと模擬戦して降参させると経験値が得られるということらしい。
ちなみにモンスターにもレベルがあって、模擬戦をして経験値を稼がせてレベルを上げることが出来るようだった。村では最弱と呼ばれているメラルダも、なかなかの強さを手に入れていた。
まるで、育成シミュレーションゲームをプレイしているような感覚でモンスターの仲間と模擬戦を繰り返して、一緒に強くなっていった。
「まさか、そんな方法は聞いたこともないが」
「え? 本当に?」
トーマスさんに僕の調査した結果、判明した経験値の事実について教えてみると、そんなことは有り得ないだろうと否定されてしまった。模擬戦闘して経験値を大量に得られるなんて今まで聞いたこともない方法だと、トーマスさんは語る。
実際にトーマスさんや、村に住んでいる他の皆も僕の発見した方法について試してみたけれど駄目だった。普通にトレーニングをして得られる、微量の経験値しか得られなかった。人間同士の模擬戦は駄目なのか、それとも何か他に必要な要素があるのだろうか。
僕の発見した方法は村の誰にも信じてもらえず、僕は普通にモンスターを討伐して経験値を稼ぎ、レベルアップしているのだろうと思われていた。だが事実は、一度もモンスターを討伐したことがない。
しかし僕は確かに、モンスター仲間との模擬戦闘を繰り返し得た経験値でレベルを6から126まで上げていた。レベルアップしたことによりステータスを確認できるようになるスキルも取得出来たので、わざわざトーマスさんに確認してもらわずとも自分でレベルを確認できるようになった。
ちなみに、村一番の猛者であるトーマスさんはレベル51だった。村に住む大人達の平均レベルは32。村の大人の中でもレベルが低い人は、21だったことを考えると僕の異常性が分かる。おかしいと思われないように、スキルでレベルステータスを偽装して、今の僕はレベル25程度に偽っていた。
偽装スキルがある事を知って早めに対処出来ていたのは良かったけれど、そろそろ隠し通すのも限界のようだった。近くの村に隠れてもらっているモンスターの仲間も数が増えてきて、潜ませ続けるのは無理そうだった。
その後、色々な理由もあって僕は村から出ていく決心をした。村の近くに潜ませていたモンスター仲間も引き連れて、村から旅立って新天地を目指す。
***
村から旅立ち、道中はモンスター仲間の存在について隠しながら進む一人旅。
道中も色々な出来事が有りながら、新しい出会いを経て街に到着する。そこで僕は生活費を稼ぐために早速、冒険者ギルドの一員となった。
そして、数年後。僕はモンスターを殺せない、という理由でギルドから除名処分を受けることになった。
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