第41話 停戦交渉
「勇者と、話し合いをしに行かせて下さい」
「話し合い?」
眉間のシワを深くして僕の目を真っ直ぐ見つめながら、真剣な表情を浮かべつつ、シェアがそんなお願いをしてきた。
「はい。戦いを止めるように、アルフレッドを説得しに行きます」
シェアのお願いとは、勇者であるアルフレッドと話し合いをさせて欲しい、ということだった。話し合って、彼らに戦うのを止めさせるという。
今の所、僕らダンジョン側には問題がなかった。毎日のように襲撃してくるのは、少し面倒だけど。モンスター達は、彼らと戦って、レベルを上げて強くなっていく。戦いを止める理由がない。
だけど、シェアは戦いを止めたいと言う。
「なぜ、戦いを止めたいと?」
「このままでは、この国に住む人間が困ってしまいます」
勇者の任務は、各地にある起動したダンジョンの調査である。最深部まで行って、機能を停止させ危険がないようにすること。
起動したダンジョンを放置しておくと、内部に大量のモンスターが生まれてきて、それが溢れ出てくると近隣にある村や街に襲いかかる恐れがある。そうなる前に対処するのが勇者の仕事だった。
「しかし、ここにあるダンジョンに固執してレベルを下げ続ければ」
「仕事をする人間が居なくなる、ということか」
アルフレッドが勇者としての仕事が出来なくなるまでレベルが下がってしまうと、困るということ。
「はい、その通りです。だから私が説得しに行って、ここにあるダンジョンの攻略を止めさせます。このダンジョンは、アランさんが管理していて安全だと知ったので」
「戦いを止めさせたい、という理由は分かった。だけどいいのか? 彼らとは、顔を合わせたくないと言っていたけれど」
この前、聞いた時には二度と顔を合わせたくはないと言っていた。どういう心境の変化なのだろうか。
「そうしないと、アルフレッドは諦めないと思うので。どんなに失敗しても、周りに迷惑を掛け続けても止めようとしないでしょう。だから仕方なく、私が生きていると伝えます。そして、このダンジョンが人間の手によって管理されている、という事を彼らに知らせて、ダンジョンの攻略は必要ないと伝えます」
「うん、わかった。任せるよ」
本当に嫌そうな表情を浮かべて、彼女は勇者との話し合いを提案した。
勇者アルフレッドが、ダンジョンに侵入してくるのを止めようとしないのは、任務があるという理由以外に、仲間を奪った恨みを晴らすため。シェアが生きていると、姿を見せないと戦いを止めようとしないだろう、と考えたらしい。
確かに、このまま続けてもレベルが下がっていく冒険者達が可哀想だった。勇者に付き合わされるのは、見ていて気の毒に思えたから。ここら辺りで、終わらせておくのがいいだろう。
それから、もう一つのお願い。
「説得するために、このダンジョンはアランさんという人間が管理をしているということを打ち明けさせて下さい。アランさんの正体は隠します」
「それは問題ない。僕のことは、自由に話してくれていいよ」
管理しているのが人間、だという情報は今まで誰にも知られていない事実だった。まだ僕は彼らに姿を見せていないから。でも、隠しているという事でも無かったので話されたとしても問題はない。
「それなら、僕も一緒に行ったほうが」
「いえ。話し合いは、私一人で行かせて下さい。アランさんが彼らに姿を見せると、面倒なことになりそうな予感がするので」
「そうか。わかった、彼らの説得はシェアに任せよう」
シェアを1人で行かせたとしても問題はない。逃げ出す、ということはないだろうから。逃げ出したとしても、特に問題はないから大丈夫。
「彼らを説得した後は、どうする? 街に戻るのかい?」
「いえ。ここに戻ってきます。ダメですか?」
「いいよ。君の自由にしてくれて問題ない」
どうやらシェアは、ダンジョンでの生活が気に入ったようだった。彼女を看病したローズマリーと仲良くなって、モンスターとも親しくなって楽しそうに過ごしていたから、戻ってきてくれてもよかった。
「私の願いを聞いてくださり、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
「そんな大げさな! 気にしなくても大丈夫だ」
深々と頭を下げて、お礼を言ってくるシェア。そんなに気にしなくても、と言って下げていた頭を上げさせる。彼女は、笑顔を浮かべて嬉しそうだった。
そして今日も、ダンジョンを攻略しに勇者パーティーと冒険者が現れた。
「では、行ってきます」
「任せた。行ってらっしゃい」
シェアは勇者アルフレッドの説得に行った。実は、彼女はローズマリーと戦闘訓練を一緒にしてレベルを上げていた。僕と同じ特性を彼女も身につけていて、経験値を大量に得ることが出来ていた。
だから勇者の前に姿を表しても大丈夫だろう、と思う。
「ラナ、彼女の護衛を頼む」
「わかったわ」
念の為、シェアの後ろに隠れながらモンスターの護衛を付けておく。大丈夫だとは思うけど、万が一の場合に備えて。
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