第42話★ 再会

「クソッ……、今日こそは」


 アルフレッドは、腰に下げた剣を握りながら誓った。今日こそは、モンスター達に一泡吹かせてやると。気合を入れる。


 しかし、彼の周りにいる仲間の2人や冒険者達は疲れ切ったような表情を浮かべていた。何日もダンジョンに侵入して、負けて何の成果も得られずに帰ってくるだけの繰り返しだったから。レベルも下がって、終わりも見えない。既に、何人か冒険者が逃げ出していた。


 周りの状況について全く気にしないアルフレッド。彼は諦めず何度もモンスターと戦い、敵を倒してダンジョンの最深部を目指して奥へ進もうとしていた。レベルが、201まで下がった今も投げ出そうとしなかった。


 ここに残っている冒険者達は、街を守るためという目的があるから協力していた。ダンジョンが起動した状態で放置していると、モンスターが溢れ出てきて街に危険が及ぶと聞かされて。危機的状況でなければ、協力者は既に居なくなっていただろう。


 初めは良かった。勇者という肩書を持つアルフレッドが、冒険者ギルドで協力者を募った時。レベル200を超える強者が味方に居るのだから、ダンジョン攻略なんて楽勝だろうなと多数の冒険者達は、そう考えていた。


 しかも、街を守るためにという大義名分もある。これに協力すれば市民から英雄と呼ばれ、協力しなければ逃げ出した者として非難される。そう言われて、協力しない冒険者は居ないだろう。


 勇者アルフレッドの指揮のもと、ダンジョン攻略が開始されたが、すぐに冒険者は面倒なことに巻き込まれた、と考えるようになった。


 全く、ダンジョンの攻略が進まない。ダンジョンに生息しているモンスター達が、強すぎる。歯が立たず、逃げ帰る日々。


 勇者アルフレッドは言った、このモンスター達が外に出てきた時に近くにある街はどうなるのかと。冒険者達は、必死でダンジョンを停止させようと最深部を目指して捨て身で進もうとしていたがダメだった。


 非難されようと、逃げ出す冒険者。請け負ってしまった手前、もう後には引けない冒険者達だけが残って勇者アルフレッドの協力を続けた。けれど、これ以上は限界に近かった。ギリギリのラインで成り立っていた協力関係は、、何かキッカケがあれば崩壊する。




 そんな時だった。今日も最深部を目指して侵入してきたダンジョンの奥から、人型の何かが勇者アルフレッド達の目の前に現れた。


「な!?」

「お久しぶりです。アルフレッド」


 アルフレッド達の目の前に姿を現したのは、死んだと思われていたシェアだった。仲間をかばってダメージを受けて、モンスターに囲まれ助からないと、置いていった彼女が元気な姿で立っている。


「生きて、いたのか!」


 シェアが生きていたことを知り、歓喜の表情を浮かべるアルフレッド。だがしかし仲間のヴィクトーリアやマルコルフは警戒して、同行している冒険者達は用心深く、シェアに向けて武器を構えた。


 そんな彼らの様子を横目でチラッと観察しながら、冷静な表情を浮かべてシェアは話を続ける。


「今日は、アルフレッドに知らせに来ました」

「え? なにを?」


「このダンジョンを攻略する必要はない、という事を」

「どういうことだ?」


 シェアは、アルフレッド達に説明した。このダンジョンは、人間の手によって管理されているので、危険はないということを。モンスターが溢れ出て、近隣の町に害を与える事はないと。


「皆さんが、今までダンジョンの中で死なずに生きてこれたのは、このダンジョンの管理をしている人が指示をして、生かしてくれていたからです」


 ダンジョンを管理している人物が、人間を殺さないようにモンスターに言い聞かせたから冒険者が生き残ることが出来ていた。モンスターがちゃんと、言うことを聞くという証明でもあると語るシェア。だから、このダンジョンの機能を停止しなくても大丈夫だと。


 そして、忠告する。


「もしもこれ以上、ダンジョンに侵入してくるようならば生きて帰れるという保証はないです」


 シェアは、アルフレッドだけでなく冒険者にも視線を向けて注意を促す。


「……話は分かった。王都に帰還し、今回の調査についてはそのように報告しよう。だから、君も一緒に帰ろう」

「それは出来ません」


「なぜ!?」


「私はもう、このダンジョンの住人になりました」

「君は何を言って」


「話すことは以上です。それでは」

「待ってくれ!」


 伝えることは伝えたと、それ以上は何も言わず背中に聞こえる呼ぶ声も無視して、シェアはダンジョンの奥へ歩いていき颯爽と姿を消した。


「アルフレッド、ダメ!」

「危ない、追うのは止めておけ」

「しかし、シェアが!」


 ダンジョンの奥へ行ってしまった彼女の後を追おうとするアルフレッドを、慌てて止めに入るヴィクトーリアとマルコルフ。今まで黙って会話に入らず、2人の様子を見ていたが追うとヤバいと感じていた。


「アイツが言っていた通り、この先に進むと本当に死んでしまうかも知れない」

「とりあえず先に王都へ帰還して、今回の事について報告をしましょう。それから、どうするのか考えましょうよ」


「……分かった」


 仲間2人の説得で渋々だが、納得をしてダンジョンから地上へ戻ることになった。彼の下した判断に安堵するマルコルフとヴィクトーリア。


 シェアが生きて目の前に現れて話した事は、本当なのかどうか分からない。けれどようやく、これで終われると。


 シェアが生きていたことを知って喜んだのに、別れを告げられたアルフレッド。

 地上へ戻るまでずっと、不機嫌な表情のまま黙ってダンジョンの中を歩いていた。周りにいる冒険者達の雰囲気も悪くなって、全員が気分を悪くしながら地上へ出ると街へ戻っていった。


 街へ来た時、アルフレッドが率いる4人組だった勇者パーティーは、ダンジョンの調査という任務を終えて王都へ帰還する。1人メンバーが抜けて、3人組となって。

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