第43話 呼び出し
勇者パーティーと冒険者によるダンジョン攻略が収まってから、1ヶ月が過ぎた。シェアが話をしてから、アルフレッドや冒険者は一度も姿を見せないようになって、ダンジョン防衛の為に待機していたモンスター達は、再びダンジョン内の拠点作りに戻り働いていた。
外からダンジョンの内部に誰も侵入してこようとしないので、静かに過ごせていると思っていたら。その頃になって急に、外部から誰かがやって来た。
「このダンジョンの管理者に、お願いがあって参った! 姿を見せてくれないか」
そう言って、ダンジョンの入口付近で大声を出している男。1ヶ月前、ダンジョンの攻略をしようと必死だった勇者アルフレッドが居た。
外の監視をしていて発見したラナから、彼の様子を聞いた。たった1人で、周りに誰も居ないという。仲間が隠れている様子もない。ラナ達が発見できない、という事は本当に誰も居ないのだろうと思う。
彼の要求はダンジョンの管理者に、お願いを伝えること。
ダンジョンの入口で大声を張り上げて、何度も繰り返し要求を伝えてくるらしい。そのままで放っておくと、ずっと居座りそうなので、仕方なく確認しに行ってみる。すると、シェアも一緒に行くと言う。
「彼の要求は、ダンジョンの管理者だけのようだが」
「前回、私が行って話し合いをしたのにアルフレッドは再び帰ってきました。私が、彼の説得を失敗したせいで、また現れるようになった。だから、見届けたいんです。なにか手伝えることがあれば、手伝いたいんです」
「……そうか。わかった。一緒に行こう」
必死に訴えかけてくるシェアの熱意に押されて、彼女も一緒に連れて行くことに。別に話し合いが失敗したとは、思っていないが。とりあえず、2人で向かう。
「君が、このダンジョンの管理者なのか?」
「そうだが。何の用だ?」
ダンジョンの入口付近で、武器も持たずに立って、待ち構えていたアルフレッド。目の前に姿を現すと、上から下までジロジロと観察された。呼び出した用事は何か、すぐ問いかける。
一瞬だけ、同行していたシェアの方に視線を向けていたアルフレッド。だがすぐに僕の方へ視線を戻して、彼は言った。
「ダンジョンの扱いについて、話し合いの場を設けた。ぜひ一緒に、来てくれないだろうか」
「扱い?」
「そこに居るシェアから話を聞き、俺達は王都に帰還して任務の報告を終えてきた。王国は、このダンジョンを人間が管理している場所である、と認めた。王国の認識を伝えるために、近くの街に王国の人間が来ている」
どうやらシェアが彼と話をした後、しっかりとダンジョンの事について報告されたらしい。そして、人間が管理している事も王国に認められたという。
そして今日は、王国からの使者としてアルフレッドがダンジョンにやって来て、僕を呼び出そうとしているらしい。王国の認識とは何だろうか。なぜ近くの街に王国の人間が来ているのか、分からなかった。ダンジョンの扱いとは何か。
「近くの街に担当者が待っている。とにかく一度、その担当者と話し合いしてくれ。申し訳ないが、そこまで一緒に来てくれないだろうか」
「……まぁ、わかった。話を聞きに行こう」
ダンジョンの今後をどうするのか。外部との関係は、どうなるのか。それらを把握するためにも、一度話し合いをしておいたほうが良いと僕は考えた。アルフレッドに案内された先に向かうことにする。
「チョット待ってくれ、街へ行く準備をしてくる」
「わかった」
アルフレッドを待たせて、街へ行く準備を済ませる。
数カ月ぶりに街へと戻る。冬が終わって、勇者達がダンジョンを攻めてきて、今はダンジョン内部の拠点づくりに集中していたから、街へ行く機会がなかった。
「何かあるかも知れないから、注意しておいて」
「わかったわ」
「ダンジョンの防衛は、ワシらに任せておけ」
ラナとアズーラに後を任せて、何か仕掛けてきたら遠慮なく反撃していいと許可を出す。何か企てているようなら、返り討ちにしていいと。警戒しておく。
「私も、一緒に行く」
シェアは、街まで一緒に付いてくると言う。アルフレッド達が関係する出来事は、自分の問題でもあると言うので共に来てもらうことにした。
一ヶ月ほどローズマリーと訓練をして、レベルを219まで上げていたので戦闘の足手まといにはならないぐらいに成長していた。連れて行っても大丈夫だろう。
「待たせた。行こうか」
「シェアも、一緒に来てくれるのか」
「……」
準備を終えて、再びダンジョンの入口で合流する。声を掛けてきたアルフレッドを無視するシェア。
目的地である近くの街まで、森の中を3人で一緒に歩く。チラチラとシェアの方に視線を向けるアルフレッド。その視線を無視して、僕の隣を連れ添って歩くシェア。気まずいな。
「街に戻るのは久しぶりですか?」
「え? 僕は、そうだね」
シェアに話しかけられて答えた。前を歩いているアルフレッドが、チラリと視線を向けてくる。
「ダンジョンの外に出たことがあるのか」
「もちろん。というか、僕は冒険者ギルドに所属していて冒険者としての活動をしていたから。数ヶ月前にギルドから除名処分を受けて、今はもう元冒険者だけどね」
「そうだったのか」
アルフレッドの疑問に答える。ずっと、ダンジョンの中に居ると思われていたようだった。元冒険者だと伝えると、驚いた表情を浮かべる彼。
「アランさんほどの実力者が、なぜギルドから除名されたのでしょうか?」
「討伐依頼を受けなかったから。モンスターを倒せなかったからね」
「なるほど」
ダンジョンでモンスター達と戯れている姿を彼女にも見せていた。だから、納得をしたのだろう。そんな会話を交わしながら、街へ向かう。
「シェアは、仲間に戻ってきてくれないのか?」
「……」
街へ向かって歩いている途中、アルフレッドが弱々しく確認する言葉も完全に無視するシェアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます