第44話 ダンジョン所有権

「私は、ジリアン。王国から領地経営の権限を与えられている者だ」

「ダンジョンの管理をしているアランです。よろしくおねがいします」


 白髪交じりのヒゲを生やしていてる男が、席を立ち上がり握手を求めてきたので、握手し返す。僕が連れてこられたのは、何故か冒険者ギルドの建物の中にある会議室だった。そこで、話し合いが行われることになった。


「わざわざ、来てもらい申し訳ない」

「いえ。どういったご用件ですか」


 ジリアンと名乗る壮年の男性が席に座り直し、僕は向かいの席に腰を下ろす。その側に、一緒に街へ来たシェアが気配を消して立っていた。話し合いをジリアンと僕の2人がする。一体、何の話だろうか。


「先ほども名乗ったが、私は領地経営の権限を与えられている。王国から預かる領地が荒れないよう、しっかりと統治するように命じられているのだ。今回、そこにいる勇者アルフレッド様からダンジョンの報告を聞いて、話をしに来た」

「つまり、ダンジョンの管理を勝手にしてはダメだということですか?」


 丁寧な口調で話をする、ジリアン。見た目は老人のようにも見える歳のようだが、会話をすると覇気があって若々しく見える。ダンジョンについて話があるというから僕は、あまり良くない提案をされるのではないかと予想し、警戒した。


「いや、違う。正式にダンジョンの管理を貴方にお願いしに来たのだ。君の他には、ダンジョンを安全に管理が出来るような人間が居ない。勇者から報告を聞いたのだがモンスターも、自由自在に従えていると聞いた。手懐けているのだろう。我々には、その力はない。だから君に管理を任せる事を決定した。それを伝えに来たのだ」


 驚いたことに、ダンジョンの管理を僕に任せるとジリアンは言ってきた。何かしら介入してくるつもりなのか、と思って構えていたけれど予想外だった。話はトントン拍子で進んでいきそう。


「ちょっと待って下さい!」

「何だ、ギルド長?」


 しかし突然、会話に割り込んでくる男が居た。ギルド長だった。不愉快そうな表情になっているジリアンを気にせず、ギルド長は無遠慮な物言いで話を続けようとしていた。


「その男は、冒険者です。ならばダンジョンの所有権は、冒険者ギルドにあります」

「なに? 君は、冒険者ギルドに所属しているのか」


 ギルド長が僕をビシッと指差し、そう訴えてくる。しかし残念ながらその言葉は、間違っている。


「確かに僕は冒険者でした。ただ数ヶ月前に除名処分を受けて、今は元冒険者です」

「彼はこう言っているが、本当なのか?」


 ジリアンは冷静に、僕とギルド長2人の話を聞いてから公平に判断してくれようとしていた。だから僕は落ち着いて真実を話す。


「ぐっ……、あ、いや、しかしダンジョンを発見したとギルドへの報告がなかった。冒険者はダンジョンを発見したのならば、必ず報告するようにという義務があるぞ。ダンジョンを発見したという情報を隠して、ギルドを辞めるなんて悪質な行為だ!」

「そんなルールが有るだなんて知りませんでした」

「嘘だ!」


 冒険者の活動をしていて、未探索のダンジョンを発見するなんて事は稀だったから報告する義務があるとは、本当に知らなかった。


「ちょっといいですか?」

「シェア、今は黙っていたほうが……」

「君は、勇者パーティーの一員だった者か。なんだ?」


 今まで黙って側に立っていたシェアが、会話に混ざってきた。止めようとする勇者アルフレッドを無視して、意見を述べる。


「アランにお聞きするのですが、ダンジョンを起動したのは除名される前ですか? 後ですか?」

「冒険者ギルドを除名された後、だった」


 質問をするシェアに、僕は本当の事を答えていく。


「それならば、やはりアランにダンジョンの所有権があると思われます。冒険者ではなかったアランが、ダンジョンを起動したのですから。冒険者ギルドは、この時には無関係でしょう」


「ダンジョンが起動していようが、停止していようが関係ない!」

「いいえ、ギルドに発見の報告をする義務があるのは危険なダンジョンです。停止をしているダンジョンについては、報告する義務はありません」


 否定するギルド長に、反論するシェア。


 ジーッと何か確認するような目を僕とシェア、ギルド長というような順番で向けるジリアン。僕は、視線を向けてくる彼に何も恐れず目を見返す。


「っ! そいつの話が本当、だという証拠はないではないか! ダンジョンは我々、冒険者ギルドの物なのだ!」

「いや違う。既に、彼の物となった。今も冒険者だったのならば、話は変わってくるだろうが元冒険者ならば確かにギルドは関係ないのだろう。そもそも、彼に代わって問題も起こさずダンジョンを管理できるというのか?」


 ジリアンが聞いた証言に基づき、判断を下す。贔屓されなくてよかった。証言だけでなく、僕とギルド長の反応の差も明らかだっただろう。落ち着いて発言する僕と、汗を流し焦ったり怒ったり、感情的になっているギルド長とを比べたら、誰が見ても明白だろうと思う。


「うぅ……」


「それでは、よろしく頼む」

「はい。よろしくおねがいします」


 何も反論ができず黙り込むギルド長を尻目に、僕とジリアンはダンジョンの管理についての契約を交わした。お互いに協力関係を結ぶという簡単な契約内容。注意して何度か読み込み確認してみたが、罠のような文言も入っていないし大丈夫だろう。


 冒険者ギルドに僕が呼び出されたのは、ダンジョンや冒険者、モンスターに関する話し合いをするのに色々と都合が良かったからだという。


 なのにダンジョンに関する話し合いに無理やり割り込んできて、意図せずギルド長という問題ある人物が発覚した。ジリアンは、この街の冒険者ギルドについて詳しく調査を行うと言っている。


 それから、王国と契約を交わして正式に僕が管理を任されて所有するダンジョン、ということになった。

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