ギルドを追放された不殺元冒険者~モンスターは倒さずとも、経験値が得られます~

キョウキョウ

第1話 ギルド追放

「アラン、お前は本日をもって冒険者ギルドから除名する」

「は? アンタ、何を言ってる?」


 ギルド長から言われた、突然の言葉に僕は唖然として聞き返してしまった。


 僕は今、任務完了の報告をするために冒険者ギルドの建物にやって来た。そこで、受付嬢から用事があると言われ、応接室へと案内されたら1人きりで待たされる事になった。


 かなり長時間、呼ばれた理由も分からず誰が来るのかも分からないまま、待たされ続けた。ようやく部屋に入ってきたのが50代後半の男性、ギルド長だった。


 そして彼は部屋に入ってくるなり席にも座らず、不機嫌そうな表情を浮かべて僕を見ながら扉の前でそんな事を言ってきた。


「伝えたからな」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 背を向けて、さっさと部屋を出ていこうとするギルド長の背中を呼び止める。僕は言われたことについての理解が追いつかない。何故、突然、本気なのだろうか。


「理由は? ギルドから除名される、理由は何なんですか?」

「お前が、冒険者なのにモンスターを倒さないからだ」

「は?」


 理由を問いかけると、そんな答えが返ってきた。しかし、たったそれだけの理由でギルドから突然、除名される事になるとは思ってもみなかった。


「たった、それだけの理由で?」


「冒険者なのにモンスターを殺せないなんて、そんな軟弱な人間はギルドに必要ないからな」

「殺せないんじゃなくて、殺さないんです! それに、ギルドの仕事はモンスターを倒す事だけじゃないでしょう? 僕は、他の仕事でギルドに役立っています」


 僕は冒険者ギルドに所属してから今までずっと、モンスターを一匹も殺さずに活動を続けてきた。モンスターの討伐依頼だけは断って、素材回収の任務やダンジョンを攻略して財宝をギルドに持ち帰ったり、商人や要人の護衛任務等の仕事を成功させてきた。冒険者ギルドの一員としてかなり役立ってきたという自覚がある。それなのに突然のこの仕打ち。


「ふん、そんな仕事は他の誰でも出来るだろう。お前は、冒険者として一番の役割を全く果たせていない。そんな人間が、冒険者ギルドの一員だと名乗っている現状が

許せない」

「そんな」


 しかし、ギルド長から僕の実績や信頼を一蹴されてしまった。


 ギルド長から、そんな事を思われていただなんて知ってショックだった。しかも、それを直接そのままストレートに伝えられて僕は動揺する。


「モンスターも殺せない、その手に剣ではなくクワでも握って農業を始めればいい。その方が街に住む人間の役に立てるし、お前の為でもあるからな」


 口元を歪めて嘲笑する、心の底から馬鹿にしたような言い方でアドバイスしてくるギルド長。なぜ僕は、目の前の中年男性からこんな言われ方をされなくちゃいけないのか。思わず、拳を強く握りしめてしまう。この拳を思いっきり、目の前の男の顔面にぶち当てたい。


「おい、誰か! コイツはもう冒険者じゃなくなったから、この場所に立入禁止だ。追い出してくれ」

「はい!」「おう!」


 ギルド長に呼ばれ即座に男が2人現れると、応接室の中に入ってきた。部屋の前で待機していたのだろうか。


「ちょっと待って下さい、話し合いを!」


 座っている僕の腕を掴んで強く引っ張り、椅子から無理やり立ち上がらせられた。彼らの掴む腕を振り払うことは簡単な事だけれど、まだ僕は冷静に対処しようとしていた。だが、ギルド長は聞く耳を持たない。


 2人の男に両腕を掴まれたまま、ギルドの建物から外へと出る扉の前までズルズルと引きずられていく。その間も、僕はずっとギルド長に呼びかけたが反応はない。


「冒険者ギルドの建物内から出ていけ!」「もう入ってくるなよ、元冒険者」


 ドン、と強い力で僕は胸を突き飛ばされた。彼らに言われる筋合いなんて無いのにと思いながら、建物の外に出された。ギルド長の決定だから、僕が元冒険者になってしまったというのは事実なのか。


 その時、建物の中に居た他の冒険者達から向けられている視線に気づく。今まで、一緒に色々と仕事を手伝ってきた彼ら彼女ら、なのに誰も助けに入ってくれようとはしていなかった。むしろ、ギルド長と同じように馬鹿にしたような、蔑むような視線を向けてきている。


「やっと、アイツは辞めさせられたのか」


 誰かの呟くような小さな声が聞こえてきた。その瞬間に、僕は理解してしまった。僕だけが認識していなかった現状。


「っ……!」


 今まで冒険者の間では、そこそこの関係を築いて慕われてきたと思っていたけれど勘違いだったようだ。任務を手伝ったり、素材の回収等を手伝ったりしていたのに、実際は体よく利用されていただけ。


 そうでなかったなら、この騒動に顔見知りである彼らの中の誰かが手を差し伸べてくれるだろうと思うけれど、誰も動こうとはしない。


 見世物を見るような、好奇の視線を向けてくるだけだった。


 冒険者の仲間だと思っていた今までの関係は、勘違いだったという事が分かった。思い違い、勘違い、その恥ずかしさで顔が熱くなった。赤面しているのだろう僕は、慌ててその場から立ち去る。もう二度と、彼らと顔を合わせたくないと思った。


 そして僕は、冒険者ギルドから除名処分を下され元冒険者となった。

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