第23話 冒険者ギルドの問題
「ご用件のほうは、以上でよろしいでしょうか」
「いえ、実は今日も荷物を持ってきたので鑑定をお願いします」
前回、預けた分についての換金は無事に終わったけれども、拠点に蓄えていた分を荷車に沢山載せて商業ギルドに持ってきていた。その分の鑑定を、お願いする。
「え!? ほんとうですか?」
「はい。前回と同じ様に、建物の前にある荷車に載せてます」
買い取りは商業ギルドでお願いします、とロレッタさんに言われたのでその通りにしようと思ったのだけれど、凄く驚かれた。この前の言葉は、社交辞令で言っただけなのかもしれない。と思っていたら、どうやら違うらしい。
「よく手に入りましたね。最近、街の周辺に生息していたモンスター達が姿を消したと聞いていたんですが」
「あ、いえ。今日持ってきたのは、過去に取っておいたモノを保管していて、それを持ってきたんです」
「なるほど。少々お待ちいただけますか」
「はい、大丈夫ですよ」
それだけ言いロレッタさんは、僕を席に座らせたまま、1人でスタッフ用の部屋に入っていった。どうやら、前の時と同じ様に鑑定をお願いする人達を呼んできてくれるようだった。
それと、やはりモンスターが姿を消した状況について街の人々は把握しているようだった。まさか、僕が指揮をしてダンジョンに移住させたという事は知られていないだろうが。
しばらく待って、ロレッタさんが鑑定をしてくれるスタッフを連れてきた。前回は3人だったのに、今日は10人も連れてきた。
「前回、アランさんが大量に素材をギルドに持ち込んでくれたので。今回はなるべく待たせないようにと思って、鑑定のスタッフには呼び出したらすぐ来てもらえるよう知らせておいたんですよ。無駄にならずに済んで良かったです」
その10人が協力して、荷車に載せた素材を次々と降ろしていく。作業スピードが速くて確かにこれなら、さほど待たなくてよさそうだ。
「ところで、街の周辺にモンスターの姿が消えたという話は、街の中でも噂になっているんですか?」
ロレッタさんと会話しながら、街の状況について探りを入れてみる。
「えぇ。クエンテインさんが強力なモンスターと出会い、命からがら街に逃げてきたと先ほど話しましたが、その頃から他のモンスターは姿を消したようです」
「モンスターが姿を消した……」
「どうやら、クエンテインさんが出会ったという強力なモンスターが出現したことによって、もともと生息していたモンスターが危険を察知して、住処から逃げ出したんじゃないだろうか、と言われています」
「なるほど、モンスター同士で縄張り争いが起きている、という事ですね」
「おそらく、そのようですよ」
事実を知っている僕は、知らないふりを続けながらロレッタさんと会話を続ける。街では、モンスターが姿を消した理由がそんな風に噂されているのか。
「そういえば、ちょっと前に街の周辺や森の中辺りで冒険者達が大勢、モンスターと戦っている場面を目撃したのですが、あれは何だったんでしょうか?」
ロレッタさんと会話して、更に情報を探ってみる。
「あぁ。それは、どうやら冒険者ギルドが出している採取依頼の報酬金を値上げしたからだと思いますよ」
「値上げ?」
「えぇ。通常に比べて、3倍も高い報酬金を渡しているようです」
「なぜ、そんなことを?」
「最近、色々と冒険者ギルドでは問題があって。離れていった冒険者達を呼び戻そうとして、誰もが受けたいと思うような魅力的な依頼を用意したんだと思います」
「割高な報酬金を受け取れる。だから、冒険者達がモンスターの素材を求めて狩りに出た、ということか」
冒険者達がモンスターを虐殺していた理由が分かった。採取依頼を受けて、大金を稼ぐためにモンスターを狩っていた、そして素材を入手して持ち帰ろうと、そういう事だったのか。
「ただ、アレだけ報酬金を渡すとなると採算が取れないでしょう。ギルドからお金を出して値上げしているようなので、予算が尽きればすぐに通常の報酬金に戻すことになると思いますけどね。そうすると、また冒険者が離れていく」
「なるほど。冒険者ギルドも大変そうですね」
冒険者ギルドから追い出された身として、僕は他人事として感想を述べる。同じく冒険者ギルドで受付嬢をしていたが、辞めて商業ギルドに移ってきたロレッタさんも冷めたような目をして、冒険者ギルドの現状について語っていた。
しかし、大体の情報が分かった。冒険者達がモンスターを虐殺して回っていたのはギルドが出していた高額報酬金の採取依頼が原因だった、という事らしい。
原因が分かり、とてもスッキリした。
ダンジョンに避難させているモンスターを、今すぐに地上へ戻すと、素材を求めた冒険者に狩られる事になるだろう。
ただ、モンスター達を地上に帰さないと冒険者が街の周辺で素材を入手できない。そうすると、高額報酬金の採取依頼がいつまで経っても取り下げられない、かもしれないな。
困ったことに、モンスター達を地上に戻してあげられるようになるのは、しばらく先の事になりそうだった。
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