第24話 面倒な謝罪
今回は、その日のうちに鑑定が終わってお金を受け取ることが出来た。
「それでは」
「ありがとうございました、アランさん。またのお越しをお待ちしております」
商業ギルドから出ると、受け取った大金を持ってお店へ買い出しに行く。この前、商品を用意しておいて下さいと約束を交わした店に。
「お待ちしておりました、アランさん」
「商品、用意できましたか?」
「はい! コチラに、ご用意しております」
「ありがとう」
お願いした食料など、きちんと用意してくれていたので、お礼を伝えながらすぐに買い取りお金を支払う。商業ギルドで受け取った金額で十分、支払うことが出来る額だった。
「ところで最近、街の周辺でモンスターを見ないようになったね」
「そうですね。私達、商人としてはモンスターの危険が無くなって、安全に他の街へ商品を運ぶことが出来るようになって、有り難い事ですよ」
商人とも何気ない会話をしながら、ロレッタさんと話をして知った情報についての裏取りもしておく。
「モンスターが居なくなったのは、強力なモンスターが出現したからだと。もともと生息していたモンスターが追い出された、と聞いたけれど本当かな」
「そのようですね。冒険者ギルドから、強力なモンスターが出現したようだから注意をするように、と警告を出されているようです。私達も、他の街へ商品を運ぶ時には万が一の場合に備えていますね」
ロレッタさんと話していた事とも一致する。どうやら街の中で、そう話されているという事がわかった。
「ただ、気になることが」
「気になること?」
「冒険者以外には、強力なモンスターの姿を見たという目撃証言がないんですよね。商人の仲間達と話したんですが、誰も見た人が居ない。そもそも、そのモンスターがどんな姿をしているのか、情報も曖昧ですし本当にいるのか、半信半疑ですよ」
「そうなんですね」
そんな会話をしながら商品を受け取り終わって、お店を出る。街に来たことにより色々と情報も手に入れた。
***
目的も果たして、拠点のダンジョンに戻ろうとした時だった。
食料など沢山積んだ荷車をひいて、もうすぐ街から出る、というところで目の前に中年の男性が立ち塞がった。横に避けて進もうとすると、目の前に移動してきて僕の目をジッと見つめてきた。
「なんですか?」
「私、冒険者ギルドのスタッフです」
冒険者ギルドの人と名乗るので、もしかすると知り合いなのかなと思い、もう一度目の前に立っている男性を確かめてみた。けれども、やはり見覚えのない人だった。
「その、冒険者ギルドの人が、何の用ですか?」
「冒険者アランさん」
「いや、僕はもう除名処分を受けて冒険者を辞めさせられましたが」
「もう一度、ギルドに戻ってきてもらえないでしょうか」
名前を呼ばれたが正しくはないので訂正をすると、目の前の男は頭を下げてそんなお願いをしてきた。
「いやいや、除名を言い渡してきたのは貴方達の方でしょう? 今更ギルドに戻る気なんて、これっぽっちも無いですよ」
「申し訳ありませんでした」
「貴方に謝られたって、意味ないです。本気で謝る気持ちがあるのなら、ギルド長を連れてきて下さいよ」
「本当に、申し訳ありません」
僕に除名処分を言い渡して、暴言を吐き追い出した本人ではなくて、代理の男性に謝られても何の意味もない。ギルド長から直接、謝罪されたとしても冒険者ギルドに戻る気なんて無かったけども。
しかも目の前の見知らぬ男は、僕の話には聞く耳も持たずに謝罪を続けるだけだ。ここが日本であったならば、土下座しているのだろう。それぐらい深々と頭を下げて謝り続けているが、僕の気持ちには何の揺れもない。
「何度、謝られても冒険者ギルドに戻る気はないです」
それだけ言って、押し通ろうとしたけれど男が阻止してくる。
「ギルドが大変なんです。貴方の手助けが必要です。どうか、お願いします」
男性は僕の足にすがりつき、歩こうとするのを邪魔してきた。そうして、ギルドの危機を訴えながら、同情を引いて冒険者ギルドへ戻るようにと懇願してくる。
「大変だってことは聞きましたが、無理です。嫌です、離して下さい」
強く拒否して、足から男性を離そうとすると今度は別の物に取り付いた。
「おい、ちょ、危ないって!? 離れろ!」
「ギルドに戻ってきて下さいッ!」
男性が大量の荷物が載った荷車にしがみついた。下手したら、その下敷きになって死んでしまう。
荷車にしがみつく男性を引き剥がして、羽交い締めで荷車から遠ざける。その間も喚き散らして、僕がギルドに戻ってくるように訴えてくる。そんな事をされて、より戻ろうという気持ちが失われていくだけなのに。
「何度言おうが、ギルドに戻る気はないよ」
「こうなったのも、貴方のせいですよ」
「は?」
「アンタが、ギルドから出て行ったせいで大変なことになった。アンタの責任だ!」
「いやいや。出ていったと言うが除名処分を突きつけてきたのは、ギルド長だろう」
「責任を取るために、ギルドへ戻るべきなんだ!」
今度は、責任をなすりつけようとしてくる。大変な事になっているというギルドが現在のような状況になったのは、僕が冒険者ギルドから出ていった事が原因なのだと言って。
男性は、どんどん語気が荒くなっていき、僕の言葉にも耳を貸そうとしなかった。何度も、ギルドに戻れと怒鳴るだけ。話も通じないようだし、もう無視するべきか。
大声で責めてくる男性を無視して、僕は前に歩き出した。大量の荷物を載せた荷車をひく。まだ、前に立ちふさがり邪魔しようとする男性を道端に押し倒した。そしてようやく、街から出た。最後に、面倒な事に巻き込まれてしまったなと思いながら、拠点に戻る。
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