第22話 再び、街へ

 街の周辺や、拠点の周りに生息していたモンスターのダンジョン内への受け入れが完了した。


 冬が来る前だった事もあって、モンスター達も冬を迎える準備をしていて保存食を用意していた。それをそのままダンジョン内に持っていって、しばらくは食料に困ることはないようだった。


 しかし保存食にも限界があるので、ダンジョン内でも食料を安定供給できるような環境を、なるべく早く整えなければならないだろう。


 冒険者の脅威から守っただけでは、ダメだろうから。保護すると言って移住させた僕が、モンスター達に問題なく生活できるような場所というのを用意してあげないといけないと思う。


 1人だけでは出来ないだろうから、アズーラやラナ、他の仲間達にも助けてもらう必要があるだろうけれど。


 冒険者ギルドから除名されて、冒険者を辞めさせれられて暇になるかと思いきや、以前に比べてみてもかなり忙しくなっていた。ただ、嫌な気分ではなかった。助けるために必死で、みんなと一緒に協力して慌ただしく活動していた。



***



 モンスター達のダンジョンへの移住が完了して、僕は再び街へと戻ってみることにした。今回は、素材を持ち込み換金してもらうのと、食料の買い出しだけではなく、情報を得るためにも行ってみる。


 なぜ冒険者達がモンスターの虐殺を行っていたのか、その理由を調べに行く為に。今回も一人旅だった。どうやら今は、モンスターが冒険者達と出会うのは危ないようだったから。


 街に到着するまでの道中、本当に静かだった。いつもなら、しばらく歩いているとモンスターと遭遇するような場所だったが、今はここに居ない。ダンジョンに連れていって、冒険者には見つからないように避難しているから。


 前回と同じ様に、荷物を載せた荷車を自力でひきながら、森の中を、どんどん突き進んできた。街に到着するまでの間には本当に、何事もなかった。


 街の中に入ってみる。様子に変わったところはない。見た所、普通のようだった。それとなく周囲の観察を続けながら、僕は商業ギルドに向かった。




「アランさん!」

「え?」


 商業ギルドの建物の中に入ると、急に名前を呼ばれた。受付嬢のロレッタさんが、心配そうな表情を浮かべて僕の名を呼びながら、走り寄ってきた。思わずのけぞり、何事かと困惑する。


「無事でしたか! 良かったです」

「えっと、どうしたんですか?」


 何故か、無事だったのかと確認して安堵している彼女。一体、どういう事だ。

 戸惑っていると、ロレッタさんが事情を教えてくれた。


「冒険者であるクエンテインさんについて、何か聞いていませんか?」

「え? いや、知りません。えっと、クエンテインさんって確か、冒険者ギルドではトップと呼ばれている人でしたよね」


 同じ冒険者ギルドに所属しているのは知っていたが、一緒に仕事をしたり、会話を交わした事のないような人だった。なぜか時々、視線を向けられる事もあったが無視して関わらないようにしていた。


 向こうは討伐依頼を受けた数がナンバーワンで、ギルド内ではトップの実力者だと呼ばれているのは知っていた。レベル150を超えていて、冒険者ギルド内では僕を除くと一番の実力者だったと思う。


「えぇ、その人です。先日その実力者であるクエンテインさんが、モンスター達との戦いから、命からがら逃げてきたそうです」

「えっ?」


「冒険者ギルドではトップと呼ばれているような実力者でもかなわなかったという、手強いモンスターが街の近くに現れたそうなんですよ!」

「へ、へぇ……」


 ロレッタさんの話を聞いていて、なんとなく心当たりがあるような話だった。いやいや、もしかして。それって、メラルダが話していた出来事なのだろうか。彼女が、強かったと評するような相手。レベル的にもクエンテインさんだった、という可能性が非常に高いような気がする。


 メランダは、冒険者ギルドのトップと呼ばれる実力者を撃退してしまったのか。


「それで、もしかするとアランさんも襲われているんじゃないかって。かなり心配をしてたんですよ。冒険者ギルドでトップの実力者っていう人でも、なんとか死なずに逃げ出すことで精一杯だったって聞いたので。アランさんも、もしかして危ないかもしれないって、心配していたんですから」


「なるほど。心配してくれてありがとう」

「無事で良かったです」


 僕の考えが正しければ、何も危ないことは無いだろう。しかし、彼女に事実を話すわけにもいかないので、ロレッタさんには心配してくれた事に感謝の言葉だけ伝えておく。


「あ、ごめんなさい。用事があって商業ギルドに来たんですよね」


 そう言って、仕事に戻ったロレッタさん。商業ギルドのカウンターに移動をする。僕も後ろを付いて歩き、カウンターを挟んで会話を再開した。


「ご用件を伺ってもよろしいでしょうか?」

「あー、えっと。この前お願いをした、素材の換金は終わっていますか?」


 まずは表向きの目的を果たすために、自然を装いながら、前回預けたモノについて尋ねた。


「はい。前回お預かりした物の換金は、このようになりました。ご確認下さい」


 素材の鑑定額が提示されたので確認してみると納得のいく金額だったので、それで処理をお願いする。


「はい、大丈夫です」

「ではコチラを、お受取り下さい」


 僕は、カウンターの上に置かれた大金の入った袋を受け取った。手に持ってみると、ずしりと重たい。

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