第28話★ 失敗失敗失敗
「クソッ……」
なぜ失敗するのか。ギルド長は、冒険者ギルドの建物の中にある執務室にある席に座り、1人きりになって頭を悩ませ考え込んでいた。
せっかく採取依頼の報酬金を値上げして、冒険者達が戻ってきたと思っていたのにしばらくすると、街の周辺からモンスターが姿を消してしまった。報酬金の値上げは全くの無駄になってしまった。
それだけでなく、モンスターが居なくなって討伐の依頼すら出せなくなったので、冒険者がする仕事を用意できなくなってしまった。
ギルドに復帰してきた冒険者達が、仕事を用意しろと要求してくるが無理だった。モンスターが居ないのだから。また、ギルドから冒険者が離れてしまいそうだった。今度は、手を施しても戻ってこないかもしれない。
今にして思うと、採取依頼の報酬金を値上げしたタイミングは完全に失敗だった。街の周辺からモンスターが姿を消すだなんて、予想できない出来事だったけれども、ギルドから離れていく冒険者達を、もうしばらく静観しておくべきだったとギルド長は後悔していた。
無理をして報酬金を値上げして、冒険者達をギルドに呼び戻そうとしたけれども、それも無駄な人員を増やしてしまうだけだった。素材も手に入らないし。
唯一、救いがあるとするならば、モンスターが居なくなって素材が手に入らずに、冒険者は採取の依頼を達成できなかった。それで値上げした分の報酬金は支払うことなく、私財を無駄にせずに済んだという事ぐらいだろうか。
失敗は、それだけではなくクエンテインの事も間違いだったとギルド長は考える。目を掛けていた、彼らを自由に行動させすぎてしまった。まさか、レベルを落として命からがら街に戻ってくるとは予想外だった。
そんな危険を冒してモンスターと戦う奴だったとは、思っていなかった。もっと、思慮深い冒険者だと思っていたのにレベルを下げてくるなんて。
ギルド長のクエンテインに対する評価が、一気に下がっていた。
彼らの報告によれば、強敵のモンスターが近くの森の中に現れたという。しかし、その報告は曖昧で本当なのかどうか、少し疑わしかった。面倒だから、信じたくないという気持ちも強かった。
だが、クエンテインの報告は本当のことだったらしい。
それ以後、他の冒険者からも同じような強敵なモンスターに関する報告がされた。街の住人や旅をする商人の安全を守るために、然るべき対処を取る必要が出てきた。だが、どの報告も曖昧で強敵のモンスターは神出鬼没のために、討伐依頼の出し方も難しかった。
実力者が揃っているクエンテイン達のパーティーでも命からがら街へ逃げてきたというような強敵だから、戦力を整えてから討伐に出てもらう必要がある。だが、それだけの実力者を集めるのだから、無給では動いてくれない。動かすためには前払金、討伐が成功したなら、更に追加で高額な報酬金の用意が必要だった。
だからまず、強敵モンスターがどこに生息しているのか、捜索隊を出して居場所を見つける必要がある。見つけたら、揃えた戦力で討伐に出てもらうという順番。
それなのに、捜索隊により3度の捜索が行われたが森の中に強敵モンスターの姿を発見できなかった。本当に居るのかどうか。もう、別の場所に移り住んでいるのではないだろうか。
放置することは出来ない。クエンテインを倒すほどの力を持つモンスターを見逃していたと知れたら、ギルド長である自分の責任問題になる。何かしら、対処していたというアピールが必要だった。
せめてクエンテイン達がレベルを落としていなかったなら、捜索から討伐まで全て任せられていたのかもしれないが。
とりあえず今は、討伐するのが目標ではなくて、強敵のモンスターが存在している事を認識していて、必死に対処しているということで、責任を逃れようとしていた。
そしてなによりも大きな失敗は、奴を冒険者ギルドに引き戻すことが出来なかったという事だ。部下に任せて、謝らせに行かせたのが間違いだった。
商業ギルドに大量の素材を換金しに戻ってきた、という奴の情報を聞いて、すぐにギルド長は自分の代わりに部下の男を行かせて謝罪させた。そして、ギルドに戻って来るように説得しろという指示を出した。
だが、作戦は失敗した。冒険者ギルドから追放した奴は、戻るつもりはないと言い放ったという。
部下には、冒険者ギルドの建物に連れてこいと指示するべきだった。そして、自ら謝罪をすれば戻ってきただろうと後悔した。ギルド長のプライドを捨て、謝っていたなら奴も冒険者ギルドに戻ってきたのだろう。
奴の蓄えているという、モンスターの素材は商業ギルドの方に奪われてしまった。ギルド長は、こんな事になるなら奴をギルドから追放するべきではなかったと何度も後悔をしていたが、過去の間違いを正すことは出来ない。
「クソッ……、何故だ……」
何もかも上手くいっていない。ギルド長は頭を抱えて悩んだが、解決方法は何一つ思い浮かんでいなかった。
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