第27話★ レベルダウン
「何が、どうなった……?」
目を覚ました時、クエンテインのレベルは大幅にダウンしていた。直前までの記憶を思い出そうとする。
モンスターと戦っていたような記憶があったが、一瞬で意識を失って、気が付くと森の中で横たわっていた。近くには仲間達と、狩りに連れてきた荷物持ちの冒険者も倒れている。
急いで自分の状態を確認する。怪我は負っていない。武器も持っている。周りに敵の姿は見えなかった。レベルを確認してみると、152あったレベルが一気に112にまで下がっていた。
「クソッ! なんでこんな事にッ……」
レベルは、怪我をしたり病気にかかったりすると下がることもある。しかし、なぜ急激にこんな下がってしまったのかクエンテインには理解不能だった。モンスターはトドメを刺さずに、全員を地面に放置したまま去ってしまったのか。それも、理解ができなかった。
生き残れたことに安心したが、レベルが下がってしまった事でクエンテインは最悪な気分だった。
「おい目を覚ませ、ルーヘン! エルナ! ダニー!」
地面に倒れている仲間達を雑に起こしていくクエンテイン。全員が目を覚ました事に安堵しながら、状況を説明していく。レベルが下がったこと、モンスターが居なくなっていることを伝える。
「本当だ! レベルが急激に下がってるッ!」
「なんで!?」
「そんな、せっかく今まで苦労して上げてきたのにッ!」
自分のレベルが下がっていることを確認して本当だと驚くルーヘン、嘆くエルナ、激怒するダニー。
「一体何があったんだ」
自分が気絶した後、とは言葉に出さず尋ねるクエンテイン。ルーヘンが説明する。
「クエンテインさんがやられた後、あなたを助けるため皆で一気に攻撃したけれど、ダメでした。一匹のスライム型モンスターに全員が反撃を喰らい、倒されました」
「スライムが全員を、だと……!」
スライム型なんて最弱と呼ばれているようなモンスターのはずなのに、仲間全員が打ちのめされたとは、信じられなかった。
「とりあえず、街に戻ろう。ここは危険かもしれない」
「早く戻りましょう」
「そうだな」
再び、スライム型なのに強力な力を持つ正体不明のモンスターと遭遇する事になるかもしれないと恐れたクエンテインが、早くその場を離れようと提案する。同じ様に怖がって、その場から離れたがるエルナ。いつもは、好戦的なルーヘンさえも提案に同意する。
「荷物持ちに雇った冒険者も、起こしましょう」
「あぁ、そうだね」
少しずつ落ち着いてきた、クエンテイン。ダニーの申し出を受け入れて、荷物持ちとして連れてきた新人冒険者10名も起こした後は、すぐにその場を離れることに。
(なんで、こんな事に……。ギルドの採取依頼なんて受けるべきじゃなかった)
クエンテインは街に帰るまでずっと強く後悔しながら、強敵モンスターとの再遭遇に怯えつつ、恐る恐る街へ戻る道を進んでいった。
そして無事に皆、街へと無傷で帰還することが出来た。レベルは大幅に下がった、けれども生き残ることは出来た。
***
街に戻ってきたクエンテインは、ギルドに強敵モンスターが出現した事についての報告をした。ただ、スライム型のモンスターに負けたと本当のことを言えば、不名誉すぎて威厳を失ってしまう可能性が高いと考えた。なので、あの場に居たメンバーに口外を禁止した。
皆も、最弱のモンスターとして知られているようなスライム型のモンスターに負けたと報告するのが嫌だと言ったので、口裏を合わせて、正体不明の強敵モンスターで姿は確認できなかったという風に、全ては話さずにギルドへ報告する。
ギルドに報告された情報については、すぐに街全体へ伝えられた。街を出る冒険者や商人にも警戒するようにと、警告を一緒に出した。
「クエンテイン様、早く元のレベルに戻るようにモンスターを狩りに行きましょう」
「いや、しかし」
下がった分のレベルについて、再び上げに行こうと積極的に提案してくるダニーに、気後れするクエンテイン。
街の外へ、レベル上げの為にモンスターを狩りに行かねばならないと分かっているけれど、強敵なモンスターと遭遇して一気にレベルを下げられたという経験で、心が怯んでいた。
「仲間を。もっと仲間を増やそう」
「一体、誰を新しく勧誘するんつもりですか?」
皆のレベルが下がった分、戦力を補強するために新たな仲間を加入させようと言うクエンテイン。誰を仲間にするんだと、問いかけたのはルーヘン。
「ローズマリーを」
「あの、新人の娘ね」
新たに加える仲間候補として、クエンテインが口に出す名前を聞き、不快な表情を浮かべて、そう吐き捨てるエルナ。実力があり、顔も良い。自分の立場を脅かされると感じていた。
そんなローズマリーは、有名になったり大金を稼ぐよりも、強くなることを求めて活動をしている、というような冒険者だった。
彼女とは以前に何度か、パーティーを組んで討伐依頼を受けた経験があった。その時に、正式に俺たちの仲間にならないかとクエンテインは勧誘したが断られていた。
どうやら、彼女の興味はアランという名の冒険者の方に向いていた。モンスターを一匹も倒したことのない軟弱な冒険者に興味を持っていた。
何故、そんな奴に興味を向けていたのか理解できなかったクエンテインだったが、彼女の興味を自分の方へと向けるために、ギルド長を誘導してアランを冒険者ギルドから追放した、という経緯があった。
その後も、ローズマリーはアランへの興味を失うことはなかった。もうダメだと、彼女のことは諦めたクエンテイン。採取依頼を達成して大金を手に入れて、別の街へ移る計画を立てていたのに。
レベルが急激に下げられて、レベル上げが必要になった。そのために、パーティーの補強もしておきたい。そう考えて、一度諦めていたローズマリーを仲間に勧誘してみようとした。だが、勧誘はすべて断られた。
「ごめんなさい。貴方の強さには、もう興味がないの」
そう言って、こちらに振り向かない。何度もアタックするが、クエンテインの仲間にはなろうとしなかった。どんなに金を用意しても、彼女は頷かない。
そして結局、クエンテインはいつものメンバーで、あのスライム型のモンスターが目の前に現れないようにと祈りながら、レベルを上げることにした。
だが、街の周辺にモンスターの姿が全く見えなくなった。生息していたモンスターが居なくなってしまった。これでは、モンスターを倒して経験値を稼ぐことが不可能だった。倒せるモンスターが居ないのだから。
「クソッ! ダニー、近くにモンスターが居ないか探してこい!」
「はい、クエンテイン様」
クエンテインは腹を立てて、仲間の1人であるダニーに八つ当たりをするけれど、気分は晴れなかった。モンスターも見つからなかった。
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