第26話 冒険者ローズマリー

「彼女、ここでしばらく面倒を見てもいいかな」

「えぇ。アランが決めたことなら、誰も文句は言わないと思うわよ。モンスター達に危害を加えなければ、拠点に人間が居ても何も問題は無いんじゃないかしら」


 ラナと相談をして、拠点について知った初めての人間であるローズマリーの処遇についてを決める。特に文句も無いようだったので、安心した。




「申し訳ないけど、君を街に帰す事は出来なくなった」

「分かりました。私が勝手についてきて、貴方達の隠していた秘密を知ってしまったので。誰にも言わないと約束しても信用は出来ないと思うから、ここに居ます」


 ローズマリーは文句や言い訳もせず状況について受け入れると、あっさり納得して拠点で囚われる事を了承した。逃げる素振りを全く見せない。


「それでいいかな?」

「逃げ出そうとしたなら、すぐに捕まえられるので大丈夫です」


 再び、ラナに視線を向けて問いかけると、そう言って彼女も了解する。ここから、逃げ出したとしても捕える自信があるようだった。それならば、大丈夫か。


「ここに居れば、強くなれそうな気がします。この辺りから出ていかなければ、中を見学をしてもいいでしょうか? ダメだと言うところには絶対に立ち入らないと約束します。だから、お願いします」


 こんな状況になっても、まだ強さを求めようとする彼女。拠点で生活している者達に何かを感じたようで、様子を観察して強くなる方法を探るつもりのようだった。


 街に戻って、冒険者ギルドの人間に僕たちの拠点がある場所など知らせなければ、特に問題はなかった。だからローズマリーには、拠点の中で自由に過ごしてもいい、という許可を出す。


「えぇ、まぁ。そうですね。ここから出ないのであれば自由に過ごしてもらっても、構わないですよ」

「分かった。ここから出ないで、貴方の強さの秘密を探らせてもらうわ」


 こうして、ローズマリーが僕らの拠点の場所について漏らさないように囚える事になった。とはいえ、拘束はせずにある程度は自由に行動させることになった。


「ところで、ずっと気になっていたんだけれど、彼女たちはモンスター? そっちの女性は人間? ここで一緒に生活しているの?」


 上半身は美しい人間の女性なのに、下半身は長い蛇という形をしている、見た目で人外であることが分かるラナ。人型なのに、犬耳と尻尾を生やしているコニー。人化していて、見た目は人間であるメラルダの3人を順番に眺めていく。


 困惑した顔で、頭にハテナマークを思い浮かべている様子のローズマリー。


「私も、モンスターだよ」

「!?」


 メラルダが人間だった姿から、スライム型のモンスターに戻る瞬間を見せる。その様子を見て、目を大きく見開いて驚くローズマリー。


「スライム? でも、ただのスライムじゃない。レベルが見えない……」


 目の前で起こった状況に戸惑いつつ、理解しようと考えをめぐらせているようだ。そして、メラルダのレベルを確認しようとするが、見えなくて狼狽している。


 相手のレベルを確認しようとしても、レベルに大きな差がある場合には、レベルを見る事が出来ない。つまり、ローズマリーとメランダのレベル差は大きく離れいてるという事だった。


 ローズマリーは、顔を青ざめて黙り込む。メラルダの実力を理解したようだった。この世界では、弱いモンスターの代名詞とされているスライム型モンスターの姿形をしているけれども、敵わない。正確なレベルは分からないけれど、格上であることは間違いないだろうと知ったようだ。


「彼女は、ここで一番強いの?」


「いいや、その逆。回復させることが得意で、戦闘はあまり得意ではないかな」

「!?」


 僕の言葉を聞き、衝撃の事実を知ったという風に驚いているローズマリー。そして側に居た、コニーが付け加えて言った。


「この場で一番強いのは、アラン様です」

「……そう、なのね」


 自信満々に僕が強いことを発表するコニー。ローズマリーが、驚いた目を僕に向けてくる。ちょっと恥ずかしい。


「強いのは僕だけじゃない。他にも、僕以上に強いモンスターが居るけどね」


 アズーラとかのレベルを聞いたら、ローズマリーはどんな反応を見せるのだろうか興味がある。


「強さにも驚いたけど、モンスターと一緒に普通に過ごしているのね」

「ここでは、これが当たり前の光景だよ」


「なるほど。ここに居れば、私も強くなれるかしら?」

「どうだろう」


 今まで拠点に人間は、僕一人だけだった。ここに居るモンスター達はみんな、強くなっていった。しかし人間はどうなるのか分からない。


「私も強くなりたいです。鍛えて下さい、お願いします」

「……うん、わかった。出来る限り、君の要望を叶えよう」


 そう言ってローズマリーは僕に向かって頭を下げ、必死にお願いしてきた。強さを求めて、一生懸命に懇願される。


 先ほどの冒険者ギルドの者だと名乗る中年男性に懇願されたときには感じなかった誠意を感じるので、ローズマリーのお願いは聞いてあげようと思えた。


 ただ、前にも強くなる方法について聞かれて、僕の方法を教えたけれども彼女には効果がなかったらしい。ここに生息しているモンスターを倒すことは出来ないから、どうやって経験値を得ればいいのか。


「ありがとうございます。よろしくおねがいします!」


 喜んでお礼を言ってくれる彼女だったが、どうやって強くすればいいのだろうか。新たに頭を悩ませる問題ができてしまった。

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