第25話 苛立ちの失敗
イライラしていた。街を出る前に出会った冒険者ギルドのスタッフだと名乗る中年男性に、ギルドへ戻ってきてくれと懇願されて。嫌だと拒否すると、冒険者ギルドが大変な状況になっているのは僕のせいだと責められた。
突然、除名処分をしてギルドから追放したのは向こうなのだから、冒険者ギルドに戻る気なんて全く無い。そもそも僕が冒険者ギルドに登録したのは、ファンタジーな世界で生きているのだから、せっかくなら一度は冒険者になってみようかな、という気持ちがあったから。それと、仕事してお金を稼ぐのにちょうど良さそうだと思ったから。
5年間も冒険者となって活動を続けてきたけれど、もう十分に堪能したと思った。あのタイミングでギルドから除名処分されて、追放されたというのは、逆に良い機会だったのかもしれない。だから、もう未練はないので僕は冒険者ギルドに戻るという気は全く無かった。
それなのに、何度もしつこく縋り付いてきて冒険者ギルドに戻るように言われて、凄くイラッとした。更に、責任をなすりつけようとしてくる言葉を聞いて嫌な気分になった。
「僕のせいじゃなくて、自分たちのせいだろうに」
そう言いつつも、ちょっとだけ気になってしまう。もしかしたら、僕がまだ冒険者ギルドに所属していたならば今のように大変なことには、なっていなかったのかも。状況は、変わっていたのかもしれない。
僕が何も知らないままギルドに居たなら、他の冒険者のために色々と手助けをしていただろうから。それが出来るだけの能力を、持っていると思うから。もしかしてを考えてしまう。
「あー、考えるのは止めよう。気にするだけ無駄だ」
口に出して、気持ちを切り替える。ダンジョンに移住させた、モンスター達の事について考えよう。
街で聞いた情報によると、しばらくは地上に戻さないほうが良さそう。ダンジョン内部で快適な生活ができるように、環境を整えてあげる必要があった。
ダンジョンのことについて調べてくれているアズーラと相談をして、ラナと会議をして、どうしていけばいいか今後の計画を立てる。まず、食料を安定して供給できるようにする。
そんな事を森の中で、ひとり歩きながら荷車をひいて考えている間に、無事に拠点へ戻ってこれた。
「おかえり、アラン!」
「おかえりなさいませ、アラン様」
「ただいま、メラルダ、コニー」
拠点に到着すると、元気な2人に出迎えられた。
「アラン」
「ラナ、ただいま。ん? どうした」
ラナも出迎えてくれたと思ったら、厳しい表情を浮かべて僕の目の前に立つ。何か問題が起こったのだろうか。
「この娘が、アランの後ろからついて来ていたみたいだけれど、気付かなかった?」
「なに?」
ラナが、配下のラミア種であるモンスターに指示を出して誰かを引っ張って連れてきた。両手を後ろ手に縛られ、猿ぐつわをされて拘束した人間の女性だった。
「彼女は!? いや、ごめん、気付いてなかった」
怒りで、周囲への警戒が薄れていたようだ。まさか、誰かに尾行されていたとは。前回のことを思い出して、もっと警戒するべきだった。
「ここの場所がバレてしまった。どうする?」
「っ!? 彼女と話をさせてくれ」
ラナに判断を迫られるが、その前に確認しておきたい。
「私達も、話を聞いていい?」
「もちろん、一緒に居てくれてかまわない。彼女の拘束を外してくれ」
その人間の女性のレベルをスキルで確認してみると、122だった。この場にいるモンスターの中で、一番レベルの低いメラルダでも223はあるので脅威ではない。だから、拘束を外してもらった。それから話をする。
「アランさん……」
「こんにちは、ローズマリーさん」
その女性とは顔見知りだった。ローズマリーという名前の、まだ若い新人の冒険者である。年齢は16歳ぐらいだと聞いていたが、その年齢の割には、かなりの実力者だった。
何度か、一緒に依頼をこなした経験もある知り合いである。そんな彼女がなぜ僕の後をつけてきたのか、それは分からないけれど。
「ごめんなさい、街から出ていく貴方の尾行をして、ここまで来てしまいました」
「なぜ? 目的はなんですか」
偶然、森の中とかで見かけてついてきたという訳ではなく、街から拠点までずっとついてきたらしい。その目的は何なのか、問いかけると彼女は答えた。
「貴方の強さの秘密について探りたかったから。何か、秘密の特訓をしているんじゃないかって思って」
「以前、話した通りですよ。日々、戦闘訓練を積み重ねているだけだって」
ローズマリーは、強くなる為の方法を日々模索していると、冒険者ギルドでも有名だった。
そして彼女は、偽装した僕のレベルについて怪しいと疑ってきて、実は強いのではなかろうかと、僕の実力について探りを入れてきた事があった。強さの秘密についてを、直接聞かれたこともある。
その時、僕は本当のことを彼女に話した。モンスターは一匹も倒さずに、戦闘では見逃しても経験値を得られると。僕の話を聞いて彼女も実践してみたようだったが、結果はダメだったみたい。
それ以降は、僕への興味も失ってクエンテインというギルドでトップの実力があると言われていた冒険者の方に興味が移ったと思っていた。それがなぜ、今更になって再び探りを入れてきたのだろうか。
「クエンテインは、金で仲間を雇ってモンスターを倒しまくってレベルを上げているだけで、戦闘能力はそんなに高くなかったわ。けれど、貴方は戦闘に慣れているようだった。そして少し前から、商業ギルドに大量のモンスター素材を換金しに行って、やっぱり強いんじゃないかって思い返したの」
「あー、なるほど。それでか」
モンスターの素材を大量に手に入れて、商業ギルドに換金しに行っている僕の姿を見て、モンスターを大量に狩って生き残れる実力者であると思ったのか。
しかし困った。僕の不注意で、尾行されていた事に気付かず拠点の場所を知られてしまった。
彼女の扱いをどうしようか、迷う。拠点の場所を知られた。言いふらすような人ではないと思うが、可能性はゼロではないと思う。今は特に拠点の場所も、僕の居場所についても冒険者ギルドの人間に知られると色々と面倒なことになりそうで、彼女を街に帰すわけにはいかなかった。
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