第37話★ やむを得ない犠牲
準備を整えてダンジョンに入り込んだアルフレッド達は、その瞬間にいつもと違う何かを感じ取っていた。
「妙だな」
「なんだろう」
「おかしいわね」
「でも、何がおかしいのか分からない」
アルフレッドが口を開くと、他の3人も違和感があると声に出して言う。しかし、辺りを見渡して観察してみても違和感の正体をつかめない。いつも調査するような、ダンジョンと似たような場所にしか見えなかった。
いつもと違う、というような箇所は見当たらない。
「うーん。とりあえず先に進もうか。シェア、いつものを頼む」
「はい」
違和感の正体は気になるが、ダンジョンの調査も進めないといけない。ということで、最深部に行くことを優先してシェアにいつもの道案内を頼む。
指示されたシェアは、懐から筆記帳を取り出して確認する。今まで調査をしてきたダンジョンに関する情報が書き記されている。その手元にある情報を参考にしながら今、この場所のダンジョンがどんなタイプなのかを分析して、最短ルートを探ろうとしていた。
再び、シェアが先頭を歩き進みながらダンジョンの最深部を目指していく。だが、早速いつもとは違う状況に気が付いた。
「モンスターが居ない」
「ダンジョンが起動したばかりだから、じゃないか?」
シェアの気付きに、アルフレッドが意見を述べる。だが、アルフレッドの考えに、シェアは納得がいかなかった。
「楽だから良いじゃないの」
「違和感の正体は、モンスターが見当たらないからなのか?」
「……」
他の2人も、モンスターが少ないことに関しては気にしていないようだった。彼らの言う通り、戦闘が少なく奥に進めるのは確かに楽だった。引っかかりを感じながらシェアは奥に進んでいった。
「順調だな」
「いや、モンスターだ」
「シェア、下がってなさい」
「はい、わかりました」
アルフレッドが言った直後に、マルコルフが気が付き武器を構える。モンスターを確認したヴィクトーリアが、シェアを後ろに下がらせる。素直に指示を聞き、後ろに下がって戦闘の邪魔にならないように離れる。
「スライム?」
「気をつけろ、こいつらレベルが高い。油断すると危ないぞ」
「魔法で駆逐するわ」
複数体のスライム型モンスターが、地面をズルズルと這ってアルフレッド達の足元に近付いてきていた。マルコルフがモンスターのレベルを確認すると、その場にいる個体全てがレベル100を超えていた。
まだ、勇者パーティー3人よりもレベルは下だったけれど、レベル100を超えているスライム型のモンスターを見るのは、今回が初めてだったマルコルフは目の前に居るモンスターに脅威を感じていた。
「危ないッ、ヴィクトーリア!」
「っ!?」
ヴィクトーリアが魔法を唱えようと集中した瞬間だった。洞窟の暗闇の中から突然不意打ちを受ける。目の前に居るモンスターとは別のスライム型モンスターが攻撃を仕掛けてきた。
アルフレッドが気付き、ギリギリでヴィクトーリアの助けに入った。
「何かヤバいぞ。こいつら」
「モンスターが連携を?」
「集まってきてるわ」
気付くと、どんどん個体の数を増やしていくスライム型モンスター。ダンジョンのあちこちから集まってきているようだった。
「アルフレッド! 撤退しよう」
シェアが1人だけ離れた場所から提案する。だがしかし、アルフレッドは首を横に振った。
「何も情報を得ていない。せめて、もう少し何か成果を」
「無理だよ。危険だ!」
留まろうとするアルフレッドに、シェアは必死になって訴えかけるが彼は聞く耳を持たない。
「そうよ。まだ、負けたわけじゃない」
「気合を入れろッ! 怯んだら負けるぞ!」
アルフレッドの勇気に影響されて、残り2人も留まろうとしていた。スライム型のモンスターに果敢にも攻撃をして、戦闘を続けようとしていた。
その時だった。ダンジョンの奥から身の毛がよだつようなモンスターのうなり声が聞こえてきた。
「なっ! レベルが見えない」
「ヤバいぞ」
「これは……」
3人の目の前にオーク型のモンスターが現れた。そのモンスターを目にした瞬間、彼らは同じ感想を思い浮かべていた。アレには勝てない、と。
「早く、撤退を!」
シェアの叫び声を聞いて、意識を取り戻したアルフレッドが指示を出す。
「ッ! 撤退だ!」
3人はモンスターに背を向けて、一気に来た道を戻ろうと走り出した。けれども、その判断は遅すぎた。
「危ないッ!」
「なっ、シェア!」
「ぐぅあぅっっ!?」
アルフレッドの背中にスライム型のモンスターが飛びついてきた。先ほどの出来事の再現。だが、今度はアルフレッドが助けられた。代わりにかばったシェアが攻撃を受けていた。一撃で大ダメージを受けて、地面の上を転がっていく。
「ぅ……ぁ……」
攻撃を受けたシェアは呻き声を上げて、起き上がる様子を見せなかった。
「シェアを助けなければ」
「無理だ、アルフレッド! この数を突破して、アイツを助けるなんて不可能だ」
「このままでは、全滅してしまうわ! 早く撤退しないと」
モンスター達の数が、どんどん増えていっている。確かに、ヴィクトーリアが言うように、そのままこの場所に居たら全滅してしまう。ダメージを受けて意識を失ったシェアを担いで、モンスターから逃げ切ることはできそうにない。
アルフレッドは苦悩の表情を浮かべ、難しい判断を下した。
「……ッ! 撤退する」
「了解。モンスターを蹴散らす。そのスキに、地上へ続く道を戻ろう」
「大きいのを一発、モンスター共にお見舞いするわ! そのうちに逃げましょう」
そう言って、彼らは地上へ戻る方向に意識を向けた。ヴィクトーリアが牽制で魔法を使い、近寄ってくるモンスター達を威圧して逃げるスキを生み出す。
「ぅ……ぁ……、……っ……て」
身動きが取れない。地面の上に転がっていたシェアが、なんとか力を振り絞り手を伸ばそうとしたが、仲間だった筈の彼らはすぐにその場を離れて行ってしまったので届かない。置いていかれた、という事なんだと理解したシェアは絶望する。
「急げ!」
「死ぬんじゃないぞ」
「死にたくないっ!」
「ぅ……」
段々と意識が遠のいていくシェアをその場に置いて、アルフレッド達は地上へ帰還するために来た道を急いで戻っていった。
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