第36話★ 不穏なダンジョン調査
「こっちで間違いないのか?」
「……そっち」
シェアの案内で、アルフレッド達はダンジョンに向かって森の中を歩いていた。冬が終わってすぐ任務を開始したので、森の中は雪が溶けたばかり。まだ肌寒かった。
起動を察知したダンジョンについて、調査を行うのが彼らの任務だった。そして、ダンジョン最深部まで進んで、起動しているのを確認したら再び停止させるまでが、任務の内容である。
ダンジョンを起動したままにしておくと危険だから。
過去に、起動したダンジョンの中からモンスターが溢れ出てきて近隣にあった村や街を滅ぼした、というような事例がある。
勇者という称号を持つアルフレッドは、王都にある特別な装置によって各地にあるダンジョンの起動が確認された時に、そこへ出向いて調査を行う。危険がないように後処理をする。それが勇者の仕事だった。
「本当にこっち?」
「まだ、到着しないようだが道を間違えていないか?」
街を出て、しばらく森の中を歩いてきたのに、まだ到着しない事に不満たらたらなヴィクトーリアとマルコルフ。モンスターと遭遇せず、戦いはなく森の中を歩くだけだったので暇を持て余していたから。
モンスターの気配すらないので、ヴィクトーリアとマルコルフの2人は気が緩んでいるし、アルフレッドですら緊張感が欠けていた。パーティーの中で、シェアだけが気を張って働いている。
「もうすぐ到着します」
ぐちゃぐちゃと文句を言うな、という気持ちを口に出したい思いを抑えてシェアは静かに告げた。
「シェアを信じよう。もうすぐ到着するのだろう?」
「えぇ、もうすぐ近くです」
アルフレッドは、文句を口にする2人に信じようと言う。なのに、何度も確認してくる彼の言葉を聞いたシェアは、どうやらアルフレッドにも信用されていないみたいだな、と感じていた。
シェアは、勇者パーティー3人に対してずっと昔から不信感を抱いていた。だが、これも仕事だから人間関係が合わないと感じても仕方がないと割り切って任務を忠実に遂行しようとする。
ほどなくして到着したダンジョン。シェアの言った通りの場所に、ちゃんと入り口があった。しかし、仲間達はまだ文句を言う。
「これだけ離れていたのなら、事前に教えといてもらいたかった」
「近くにあるって言ってたけど、全然近くなかったわね」
「……」
シェアがダンジョンの場所を探したのは、雪山の中。ある程度、事前に場所の情報があったから目星はついていたけれども、暗くて寒い雪の中で必死に探して発見するまで非常に苦労した。その時に比べたら、すぐに来れたと思った。
そんな苦労を知らないヴィクトーリアとマルコルフの2人は、好き勝手に言う。
2人を無視して、ダンジョンに入る準備を始めるシェア。
「アルフレッド、ダンジョンに入る前に皆に緊急用の食料を渡して下さい」
「あぁ、分かった」
シェアに言われて、アルフレッドはアイテムボックスから食料等を取り出してから地面の上に置いた。アルフレッドは自由にアイテムボックスという空間魔法を使えるので、どんな時にも荷物を取り出したりしまったり自由にできる。だが他の3人は、使えないので、緊急事態に備えて食料を各自で携帯する。
ダンジョン内でアルフレッドとはぐれてしまったり、アイテムボックスが使えないような状況になっても、食料や回復薬を持っていたら生き残れる。逆に言うと食料等がないとヤバいので、そんな危険な場合に備えて、毎回のように各自で荷物を持って行動しようと、シェアは何度も提言していた。
だがシェアの意見に毎回、反対する2人。素直に賛同せずに、反論する。
「今回も、こんな大荷物を持ってダンジョンに入るのか?」
「荷物が多ければ、戦闘の邪魔にもなるし。こんなの、無駄じゃないかしら」
「万が一の場合に備えて、です」
「シェアもこう言っているし、危険に備えて準備はしておこう」
「……えぇ、わかったわ」
「了解」
アルフレッドに言われたから仕方なく、という感じで不本意そうに地面の上に置かれた緊急用の食料と回復薬を各自で携帯する。シェアは、仲間のために思って言っているのではなくて、生き残るために、死にたくないからダンジョン内で戦力を失わないように支援を続けていた。
仕事じゃなければ、すぐにこんな面倒なパーティーは抜け出すのだろうな、と思いながらシェアはダンジョンに入る準備を終える。
「さぁ、みんな。任務遂行の時間だ。全員、死なないよう注意をして。ダンジョンに入ろうか」
「はい。頑張りましょう」
「今回は、一日で終わるか?」
「どうだろう。このダンジョンが深ければ、無理そうだが」
「早く、仕事を終わらせて宿に帰りたいわ」
「とりあえず、ダンジョンに入ってみようか」
アルフレッドが仲間を鼓舞して気合いを入れ、ダンジョンの中に突入していく。
一歩後ろにシェアが、勇者パーティーの輪に加わらずダンジョンの中に踏み込んだ瞬間から周囲への警戒を強めていた。
「シェア。今回も道案内を頼む。戦闘になったら、すぐ後ろに下がっていいから」
「……はい」
レベルも低く、戦闘要員ではないシェアは、ダンジョンのルートを探索する役割を任されていた。モンスターと遭遇したら、すぐに退避するようにと言われてから一番前を進んでいく。
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