第35話 冬が終わって
寒さが完全になくなって、良い感じで地上も暖かくなってきた。積もっていた雪も溶けて無くなり、森の中も明るくなって、ダンジョンの外に出ても辛くなくなった。
「ダンジョンの中の生活は快適だったけど、やっぱり地上はいいなぁ!」
太陽に手をかざしながら、僕は季節が変わって心地よくなった地上の良さを存分に感じていた。
「ワシは、もう少しダンジョンに篭って鍛えておきたかったのう」
「まだ足りない?」
一緒に地上へ出てきたアズーラは、まだ冬の期間を堪能したいようだった。地下のダンジョンに篭って訓練を続けたいという。
「全然、足りんのう。ずっと訓練して、レベルを上げたい」
「それは、とんでもない修行馬鹿だな」
ずーっと戦闘訓練していたアズーラが、まだまだ全然足りないというような感想を述べるので、少しだけ辟易する。仲間の皆が居てくれて本当によかった。僕一人だけでは彼女の相手役として、訓練に付き合いけれなかっただろうから。
「私も、師匠と一緒にダンジョンに篭っておきたかった」
「ローズマリー。君もアズーラと同じように、修行馬鹿になってしまったのか……」
アズーラの横に並んで立ちながら、彼女と同じような事を言うローズマリー。冬のダンジョンにいる間、ずっとアズーラと戦闘訓練を行っていた。その結果、どんどんレベルアップをして成長していたローズマリー。成長期だった。
レベルだけではなく、戦い方や技術もアズーラに習うようになって、2人の関係は師匠と弟子というような、つながりになっていた。本当に、ローズマリーはみんなと馴染むのが上手だった。
いつの間にか、アズーラの事を師匠と呼ぶようになっていたローズマリー。そして師匠と呼ばれて嬉しそうな表情を浮かべるアズーラがいた。
今まで僕が、アズーラに習ってきた数々の戦い方について、ローズマリーも教えを受けるようになった。いつの間にか僕と彼女は、兄弟子、妹弟子というような関係となっていた。
「でも、ローズマリーの成長は早いねぇ。日に日に強くなっていってる」
「いえいえ、全然だよ」
毎回会うたび、レベルがどんどん上っていた。その成長スピードは驚異的だった。
「それは謙遜だな。僕が、君と同じぐらいの年頃だった時のレベルを優に超えているから、鍛えていけば、あと2、3年ぐらいでレベル1000に到達できると思うよ。いや、もっと早いかもしれないな」
「本当!?」
「うん。本当、本当」
「よしっ。がんばろっ」
僕の経験から考える予想。まだ、16歳だというローズマリー。1年前に冒険者の活動を始めたという。
そして僕もローズマリーと同じように、15歳ぐらいから冒険者ギルドに所属して活動を始めた。
冒険者の活動を始めた頃の僕のレベルは、250ぐらいだっただろうか。その時、ギルドに所属している者達の中では一番レベルが高かったと思う。
それから5年間、冒険者の活動を続けながら仲間と一緒に戦闘訓練を積んできた。それで何とか、この前レベル1000に到達することが出来た。
ローズマリーは、強くなる事に意欲的で訓練もきっちりこなすので、僕なんかよりもっと早く成長していけそうだった。ざっと計算して、2、3年ぐらいだろう。
ただ、レベルが上がるにつれてレベルアップに必要な経験値も多くなってくるから成長の速度は徐々に緩やかになっていく。その時、強くなることへのモチベーションが保てるかどうか。ローズマリーだったら、問題ないとは思うが。
そんな事を考えていると、雪が溶けたばかりの森の奥からラミアのラナが下半身をくねらせ、地面を這ってきた。
「アラン!」
「どうした、何があった?」
「このダンジョンに近づいてくる人間が居るの。来て」
「人間が、拠点に近付いてきている? わかった確認しに行こう」
報告を聞いて、ラナの後に続いて向かおうとすると、ローズマリーも一緒に来ようとしていた。
「ローズマリー、君は来てはダメだ。ダンジョンの中に戻って」
「なんで!?」
「一応、僕らが囚えている身だからね。外へ、逃げないように」
「……了解」
何か、協力してくれようとしていたのだろう。だが、僕の指示に不満そうな表情を浮かべながら、しぶしぶ言うことを聞き、彼女はダンジョンの中へと戻っていった。
もしかしたら、近づいてくる人間というのが街の住人かも知れない。その人に顔を見られたら街へ戻れなくなる可能性があるから、ローズマリーは引っ込めた。
今は僕らが囚えている彼女も、いつの日か開放して街へ戻れるように。
僕は顔を見られて、街に戻れなくなっても問題ないから。ダンジョンの中で快適な生活を送れる環境があるので。
「アズーラは最深部に行って、万が一の場合の迎撃準備をお願いできる?」
「うむ、わかった。システムを起動してこよう」
「お願い、頼んだ」
一緒に居たアズーラと、ローズマリーの2人に指示を出してから、僕たちは偵察に向かう。
「ラナ、案内して。拠点に近付いてきている人間は、どこに?」
「こっち」
冬が終わって早々に、面倒なことが起きそうだった。
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