第38話 残された者

「アレン」

「ローズマリー、彼女が目を覚ましたのかい?」


 ラナ、アズーラとでダンジョンの今後についての話し合いをしている最中だった。ローズマリーに呼ばれたので、僕は返事をする。用件に察しはついている。


「うん、そう。今なら話を聞けると思うから、来て」

「わかった。行こう」


 先ほど、ダンジョンを襲撃してきた人間。その1人が取り残されてしまったので、メラルダに回復させて、ローズマリーに看病をさせていた。その少女が目を覚ましたらしい。


 本当は4人全員をダンジョンの中から追い払う予定だったのだが、仲間をかばってダメージを受けた1人が予定外に気絶をしてしまった。しかも、もうダメだと諦めて残った3人は見捨てて逃げてしまった。そこまで追い詰めているつもりもなかった、のだが。




「あ」

「はじめまして、僕の名はアラン」


 寝具の上に座りながら部屋に入る僕に視線を向けてきて、やや困ったような様子の表情を浮かべながら声を漏らした、ボサボサ頭の少女。そんな彼女に僕は自己紹介をして挨拶する。


「気分はどうたい?」

「え? あ、えっと、だいぶ楽になりました」


「それは良かった」


 彼女は、モンスターの攻撃から仲間の1人を無理やりかばって受けたダメージだけではなく、ストレスやら疲労が溜まっていて体が限界だったようだ。


 むしろ受けたダメージよりも、それ以前に蓄積されていたストレスやら疲労の方が深刻だった。安静にして、休息をとらないとまずいような状況だった。本人によると楽になったようなので、良かった。


「私の名は、シェアです」

「ローズマリーとは? もう話をしたのか」


「えぇ。彼女が目を覚ました時に、少しだけ話をしたわ」

「ここがダンジョンの中だと聞きました。それで、貴方がここのリーダーだと」


「うん、そうだ。モンスター達と仲良くなって、ダンジョンを発見して、成り行きでここに住むモンスター達みんなの指揮を執ることになった」

「人間、なんですよね?」


「人間だ」

「人が、ダンジョンを管理している……」


 シェアと名乗った少女の質問に答えていく。すると、呆然とした表情で呟く彼女。僕がダンジョンを管理しているという発言に、驚いているようだった。正確に言うと管理をしているのは、アズーラなんだけれど。


「シェア。ところで君は、なぜダンジョンを攻略しに来た?」


 僕は、シェアに優しく問いかける。どうやら、彼女たちは普通の冒険者パーティーではないようだったから、何が目的なのか慎重に探りを入れる。


 普通にダンジョンの中に攻略しに入ってきたのなら、危険を察知したらすぐに撤退するのが常識である。


 それなのに、仲間の1人が”何も情報を得ていない”と言って撤退を渋っていた。何かを探ろうとダンジョンの中に立ち入ったようだが、目的が何なのか問いただす。


「実は、私達は王都から派遣されてきた勇者パーティーです。起動されたダンジョンを停止させる、という任務を受けてやって来ました」


 シェアはあっさりと、僕の質問について答えてくれた。


 王都には、世界各地にあるダンジョンの起動と停止状態について観測できる装置があるらしい。それで数ヶ月前に、今まで停止状態だったはずのダンジョンが急に起動したので調査しに来たという。


 僕たちがダンジョンを探索して、最深部でアズーラに起動してもらった。その時の出来事が王都で察知されていたようだ。


 ダンジョンの調査に来たメンバーの1人が、勇者という称号を持つアルフレッドという名の男性だという。確か、4人組パーティーの中で1人だけ飛び抜けてレベルが高かった人物が居たのを思い出しながら、僕はシェアの話を聞き続ける。


 そして、勇者パーティーの一員であったシェア。彼女の役割は、情報収集だった。このダンジョンがある場所を突き止めたのも彼女らしい。


 シェアが案内をして、ダンジョンに侵入してきた勇者パーティー。彼らの目的は、ダンジョンを停止させる事だったらしい。


「話は分かった。でも、こんな大事な話を僕らに明かしても良かったのか?」


 王都にあるという装置については、初めて聞くような話だった。僕が知らないだけだろうか。だが、機密のような話でもある。そんな情報を僕らに隠さずに、語ってもよかったのだろうか。シェアは首を縦に振った。


「問題ありません。アルフレッド達には愛想が尽きました。攻撃をかばって、倒れた私をすぐに置いて撤退していきましたから。あんなにもあっさりと見捨てられるとは思っていなかったけれど、今までの仕打ちを考えたら納得です。だから私も、彼らを見捨てて貴方に情報を打ち明けました」


 シェアは話しているうちに、どんどん怒りが湧いてきたらしい。ストレスや疲労が溜まっていたのも、今まで彼らから色々と仕事を押し付けられ、パーティーの雑用係として働いてきたから、だそう。


「あー、そうだったのか。話してくれて、ありがとう。とりあえず、君はまだ安静にして休んでいて」

「はい、ありがとうございます」


 色々な話を彼女から聞き出せた。


 シェアと別れてから、いま聞いた情報をラナ達にも共有しに行く。今後、どうするのか相談したほうが良いだろうから。

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