閑話05 アランの冒険者活動・中編2
護衛する対象の、荷物を積んだ馬車と商人を真ん中にして、前方は3人組の冒険者パーティーである彼らが担当をする。アランは1人で後ろの警戒を任された。黙々と任務を遂行する。
基本的にアランはソロで冒険者活動をしているので、パーティーを組んでいる彼らを羨ましく思う時もある。ただ、仲間であるモンスターを連れてくるというわけにもいかないだろう。万が一、バレたときの対応が面倒だし。
まぁ、匂い袋を装着しているのでモンスターが近寄ってくることは無いだろうなとアランは思っていた。今回も簡単に終わる仕事だろうな、と考えていた。
しばらく一行が森の中を進んでいると、異変が起こった。
「モンスターが近寄ってきている?」
「なに? どこだ」
匂い袋をちゃんと腰に装着しているというのに、モンスターが近寄ってくる気配を察知したアランは困惑する。彼の呟いた声を聞いて、前方を進んでいたアレックスが振り返り問いかけてきた。
「あっちの方向から、すごい速さで近寄ってくるのが見える」
「あっちか? どこにも見えないが、モンスターがいる……って本当だな。あれは、ワーウルフか!」
隣街へ行くために通っていた道の先に、チラッと見えた影。進行方向から少し横にズレた方向で、木々の奥を指さしてアランは皆に報告した。
アレックスは一瞬、モンスターの姿を見つけることは出来なかった。その数瞬後に、猛スピードで森の奥から突撃してくるモンスターの姿を捉えた。
「突っ込んでくるぞ、みんな戦いの準備を」
「おう」「はい」
3人組の冒険者パーティーがそれぞれ武器を構えて、迎撃の態勢に入る。
襲いかかってきたワーウルフの戦力を、確認するアラン。レベル80と、66か。素早く敵戦力の確認を済ませて、レベルが低い方を担当することに。
「こっちは任せて、そっちのを3人で」
「しかし、君は」
「僕のことは、お構いなく」
「……、そうか任せた!」
手伝いに入ろうとするアレックスの言葉を拒否して、アランは1人離れて戦った。その方が、やりやすいから。もちろん倒すつもりはない。追い払うだけで十分だと。
アランが1人で対応しようとしたのも、モンスターが諦めて森の中に逃げて帰れるようにしたかったから。しかし。
(おかしいな。このワーウルフは、なぜ逃げない……)
威圧をかけたり、致命傷にならないように気を付けながら攻撃したりする。敵からの攻撃は全て避け、全然当たらない。実力の差をハッキリと見せつけた。
なのに、目の前のワーウルフは全然逃げようとしない。アランたちが、護衛任務で守っている商人と馬車に手を伸ばそうと必死だった。
こうまでして逃げ出そうとしないモンスターと遭遇したのは、初めてのこと。倒すことはできないし、どうしようかとアランは悩む。
「キャァァァァッ !?」
「スザンナ! ぐあっ!?」
「大丈夫か、スザンナ、カラム!」
アランがワーウルフを逃がそうとしているうちに、3人組の冒険者パーティーの方が崩れた。レベル的には拮抗しているが、3対1で当たれば負けることはないだろうと思って任せたアレックスたちが膝を屈していた。
魔法使いのスザンナは攻撃を受けて負傷。スピードで翻弄されていた戦士カラム。アレックスも、なんとか持ち堪えようとするが突破されて馬車に乗る商人たちの方へ1匹のワーウルフが突っ込んできた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!?」
情けない声を発して、その場にうずくまる商人アドリアン。
(マズイな)
馬車に猛スピードで近寄ってきた一匹のワーウルフの攻撃を、アランが商人の前に飛び出て、剣で受け止めた。
すかさず、もう一匹のレベルが低いワーウルフが攻撃を仕掛けてくるのでアランは片腕で防御する。
「「キャウン!?」」
防御していた腕に力を込めて、2匹のワーウルフを吹き飛ばした。木にぶつかり、鳴き声を上げるワーウルフ。態勢を立て直して前傾姿勢。逃げ出そうとしなかった。
なぜ逃げ出そうとしない。なぜ、こんなにもワーウルフたちは必死なのだろうか。匂い袋も効果がなかった、実力を見せつけて力づくで追い払おうとしても、逃げようとしない。
モンスター仲間であるメラルダや、その他に人化したモンスターがいれば、彼らの言葉を通訳してもらって原因を探れるのだろうが。残念ながら、今は近くにいないので理由は謎のまま。
アランはワーウルフを牽制しながら、もう一度観察して彼らの目的を探る。
逃げ出さないで、馬車に突っ込んでくる。いや、奴らの狙いは荷物か。運んでいる荷物に、何らかの原因がありそうだとアランは気付いた。
「アドリアンさん、あんた一体何を運んでいるんだ?」
「い、言えない!」
ストレートに問いかけてみると、商人は口を固く閉ざして黙秘するという。やはり原因は、商人の運ぶ荷物なのだろうと確信する。そしてアランは、一芝居打つことにした。
「ぐあっ!?」
「アランさん!? ひ、ひぃぃぃ!?」
ワーウルフの攻撃を受けて、吹き飛ぶアラン。モンスターからダメージを受けた、ように見せかける。
それを見て、商人は最後の希望が消えたというような絶望の表情を浮かべていた。慌てて、馬車に乗せていた荷物の木箱を開く。中には、鉄製の檻が入っていた。
「やはりか……」
アランは小さく呟いた。予想はしていた。
商人アドリアンが運んでいたのは、ワーウルフの子供だった。襲撃してきた2匹のワーウルフは、親なのだろうか。我が子を取り返すために必死で商人に襲いかかってきた、ということか。アランは、ようやく事態を把握した。
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