閑話04 アランの冒険者活動・中編
朝。目を覚ましてすぐに保存食で空腹を満たしてから、荷物をもう一度確認をして外へ行く準備を手早く済ませるアラン。
武器と防具を装備して、食料の入ったバッグを背負って、匂い袋を腰に装着する。宿から1人きりで出てくると、早足で依頼主と合流する予定の場所へと向かった。
そう言えば最近、拠点に戻っていなかったから、そろそろ戻らないとメラルダたちが拗ねていそうだな。今回の依頼が終わったら、一度戻ってみようかな。そんな事を考えながら、朝の街を歩く。
合流予定の場所に到着すると人通りが少なく静かだった。まだアラン以外には誰も居ない。冒険者ギルドで聞いた予定よりも少し早く来てしまったようなので、依頼主が来るのを待つことになった。
目を閉じ腕を組みながら、アランは依頼主の到着を静かに待った。
「貴方が、冒険者アランさんですか」
「えぇ、そうです。そういう貴方は、今回の護衛任務の依頼主ですね」
待っていると、声を掛けてきたのは中年男性。商売人らしい、貴族等も着るような立派な衣装を身に着けている。そして、表情には満面の笑みを浮かべていた。ただ、少し表情に嘘くささのある営業スマイルのようだとアランは感じていた。
同じように、アランも作った笑顔で対応する。
「はい、商人のアドリアンと申します。本日はどうぞ、よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします」
アドリアンが挨拶しながら手を差し出してきたので、アランは握手に応じた。
握手を交わすとアランの手はギュッと、力強く握られる。相応の力でアランが握り返すと、アドリアンがニコッと笑って反応した。初対面の人だった。
アランは目の前の男と出会うのは初めてだったが、噂を少し聞いたことがあった。アドリアンというのは最近、勢いのあるという商会の名前だった。
遣り手の商売人らしい、とアランは目の前にいる男性について、聞いた話を思い出していた。
しかしなぜ今回、初対面の人間にわざわざ指名依頼をしてきたのだろうか。アランは疑問に思った。
今まで彼は、顔見知りの商人から指名されたり、冒険者ギルドの紹介で護衛任務を受けたりしてきたが、初対面の人間に指名されたのは初めてだったから。
何か理由があるのか、理由を聞き出すのはマズイだろうか。理由を聞くかどうかを迷って、今は聞かないことにした。
「今回の依頼、アランさん以外にもう一組の冒険者パーティーにも護衛をお願いしているんですよ」
「そうなんですか」
「まだ来ていないようですが、もうすぐ来ると思われますよ」
自分以外にも依頼を受ける冒険者が居るのか、と驚くアラン。
事前に聞かされていなかった、メンバーが居るという。また、しばらく待たされることに。
予定時間より早く合流場所に待っていたのは自分が悪いが、予定時間よりも遅れて来るという冒険者の到着を待たされるのは、なんだかなぁ、と思いつつアランは静かに黙って来るのを待った。
「すまない、遅れた。今回の護衛任務を受けたアレックスだ。よろしく頼む」
「申し訳ありません、うちのリーダーが。魔法使いのスザンナです。よろしくおねがいします」
「すまんねウチのが。俺の名はカラム。戦士だ。よろしくな」
少し遅れてやって来たのは、3人組の冒険者パーティー。遅れてきたという謝罪もそこそこに、商人と挨拶を済ませている。
彼らが、今回の任務に同行するという冒険者たちなのか。ギルドで見かけたことがあるような気もするが、仕事を一緒にするのは初めてだった。
商人アドリアンとは初めてだったし、3人組の冒険者パーティーとも初めてだ。
格好や装備、見た目では中堅ぐらいの冒険者に見えるが、果たしてどうだろうか。アランは、彼らの実力を確認してみることにした。
レベル81、76、69と高いというわけではなさそうだと判明。
「君がアラン君か。噂は聞いているよ。とりあえず、よろしく頼むな」
「えぇ。どうぞ、よろしくおねがいします」
商人と挨拶をしている冒険者のパーティーを、傍から眺めていたアラン。
そんなアランに、アレックスが気さくに声を掛ける。
噂とは、どういった内容の物だろうか気になったアランだったが、これも聞かずに無難に返事をするだけ。
「ちなみに、君の事を推薦したのは俺なんだよ。感謝してくれてもいいぞ」
「そうなんなんだよ。アランさんの事は、コチラのアレックスさんから聞きました」
「……なるほど、ありがとうございます」
「良いんだ、気にするな」
別に仕事で困っていたわけでもないので、勝手に紹介なんて余計なお世話だな、と思ったが一応、冒険者としての先輩みたいなのでお礼を言っておく。
恩着せがましく言ってくるのも気に食わないが。アランは表面上だけでも親しげに、今回の任務に同行するという3人組のパーティーに挨拶した。
護衛任務を務める冒険者が集まったので、商人アドリアンの案内で馬車が置かれた場所に移動する。
「これから運ばせる荷物に、傷一つつかないように護衛をお願いします」
「わかりました」
商人が指をさす先には、大きめの木箱が載せられた馬車が停車していた。馬を操作する御者もいる。商人アドリアンの従者だった。
護衛任務の内容は隣街まで運ぶ荷物と商人たちの護衛。アドリアンが念を押して、大切な荷物なんだと説明するのを聞いてから、アレックスが冒険者を代表するように返事をする。
「では、出発しましょう」
依頼主であるアドリアンの一声で早速、目的地へ向かう護衛任務がスタートした。
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