閑話03 アランの冒険者活動・前編

 これはまだ、アランが冒険者ギルドから追放される前のお話。



 アランは、モンスターの素材を抱えて冒険者ギルドの建物を訪れていた。そこで、集めてきた素材を換金をしてもらうために。


 持ち込んだ素材は全て、アランが倒したものではなくて森の中で死体になったまま放置されたモンスターから集めたものだった。しっかりと供養して、有効活用させてもらっていたのである。


「はい、確かに受け取りました。こちらが、採取依頼達成の報酬です」

「ありがとう」


 ずしりと重みのある金貨の入った袋を、受付嬢から受け取った。この報酬だけで、しばらくの間は贅沢な暮らしをしていける。なかなかの稼ぎだった。これだけ稼げるのに、他の冒険者はあまり素材採取の依頼を受けたりしないので、アランは不思議に思っていた。


 そんな事を考えつつ、次は何の素材を持ってこようか思案していると受付嬢から、護衛任務の指名があるという話をアランは聞いた。


「指名? 僕をですか」

「はい。アランさんを是非、おねがいします」


「なるほど、依頼の内容は? 目的地はどこですか?」

「説明しますね」


 受付嬢から任務の内容について、詳しい説明を受ける。依頼主である商人と、彼が運ぶ荷物を隣街まで守るというシンプルな仕事。日程は、明日の朝から。


「わかりました。その依頼、引き受けます」

「ありがとうございます、アランさん。では、よろしくおねがいしますね」


 なぜ、わざわざ指名なのだろうか疑問に思う。まぁ、日程が明日からという急ぎの依頼だったから、比較的暇で時間の余裕もある僕にお願いするのが、都合良かったのかもしれない。


 それから、僕もそこそこ護衛依頼を受けてきて評判もいいようで、今回の依頼主も誰かに伝え聞いたのかも。


 とにかく、僕はその護衛任務を引き受けることにした。受付嬢から、依頼主と合流する場所と時間を聞いてから、用事を終えてギルドの建物から出る。



 本日の仕事を終えて、街で拠点にしている宿に戻ってきてから、借りている自分の部屋に篭った。明日の護衛任務に備えるために。



 身に着けていた防具と武器を体から外して、部屋の床の上に並べて置いていく。

 仕事の終わりに、武器と防具のメンテナンスするのがアランの日課だった。


 アランの武器は、剣である。一般的にロングソードと呼ばれるような、真っ直ぐに伸びた両刃。刀身は、白く輝く金属に青い縦線が入った見た目にも美しい外見をしている。


 まるで、新品のようにキレイだった。というのも、アランはこの剣を冒険者として活動している時にほとんど使用しないから。本来のモンスターを倒すという目的ではまったく使わない。


 アランが剣を持ち歩いているのは冒険者として振る舞うため。そして、襲ってきたモンスターを追い払うときに使うぐらい。


 毎日のように剣を丁寧に手入れしているので劣化もしない。そんなわけでアランの装備している剣は、新品のようにキレイなままだった。


 前世では触れる機会もなかったアランにとって、剣というのは物語の中だけの存在だった。それが今世では、当たり前のように身近にあるものに変わった。


 しかし、アランの意識は前世から変わらず。今でも剣を特別なものだと感じるので大事に取り扱っていた。武器って、なんだかカッコいいしキレイに使いたいよね、とアランは常々思っていた。


 武器と同じように、アランは防具の手入れも怠らないようにしている。こちらは、臭くならないように。一日中、身につけることになるので臭いなんてことになったらテンションが下がるから。男の冒険者にしては珍しく、身嗜みに気をつけていた。


 武器と防具のメンテナンスを終えると、次は明日の護衛任務に備える。


 目的地は1日も掛からない距離なので、持っていく食料は緊急分だけで大丈夫だ。装備も、いつもので大丈夫だろう。ひとつひとつ慣れた手付きでチェックしていく。


「それから、これは必ず持っていく物、っと」


 アランが護衛任務に必ず持っていく道具があった。モンスター避け、という効果のある匂い袋である。


 この匂い袋の中には、人間に感知できない、モンスターだけが嫌がる匂いを発する物質が入っている。


 アラン特製のものだ。正確に言うと、アランの仲間であるモンスター達に協力してもらって作ったもの。


 これがあれば、大抵のモンスターは近寄ってこない。護衛任務にも最適な道具だ。


 モンスターの襲撃を恐れながら旅をする商人にとって、喉から手が出るほど求める道具だろう。ただ、アランはこの道具の存在を他の人間には隠していた。


 モンスター避けの匂い袋を作るためには、モンスターの協力が必要不可欠であり、製造方法も特殊で1つ作り出すのにも大変な労力を要するから。


 それに、冒険者の仕事の1つである護衛任務の需要も下がることになるだろうからと考え、モンスター避けの効果がある匂い袋という道具の存在を世間に公表するのは控えていた。


 ただ、モンスターを倒したくないと思っているアランにとっては、モンスターとの戦いを避けるために非常に便利なので、護衛任務の時とかにはいつも、匂い袋を携帯していた。


 こうして、しっかりと準備を整えたアラン。明日の護衛任務に備え、ベッドに入り睡眠をとった。これで、準備は万端だった。

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