第32話 冬が来た

 雪が降り始めた。森林は雪で閉ざされるので太陽光も当たらない、寒くて暗くなるから生活するには非常に厳しい環境に変わる。生き物たちは、春が訪れるまで厳しい日々を必死に耐え忍ぶ。


 そんな状況の中、ダンジョン内部はものすごく快適だった。春のように暖かくて、今の季節が冬だという事を忘れてしまうぐらい心地よい。


 これもダンジョンにある機能のお陰らしい。アズーラが調べてくれた方法で内部の環境をシステムで調整し、快適に過ごせるように気温に保っているらしい。他にも、各場所で自由に水を汲める水源管理の機能がある。


 そして、ダンジョン内でも光や空気、他にも魔法的な様々な技術を駆使して植物を育てられるようになる環境も作れるようになったらしい。これで、ダンジョンの中に畑を作って食料を育てられる。妖精種や植物種のモンスター達も不自由なく、快適に住めるように環境を整えられるようだ。


 ダンジョン内で、どんどんモンスターの住みよい環境を整えていくことが出来る。アズーラが調べてくれて見つけた方法。彼女には、凄く感謝をしていた。


 地上から、最初は避難するために移住してきたモンスター達にも、ダンジョン内は非常に好評だった。この場所を知ってしまった今は、もう元の生活していた場所には戻れないと言っているらしい。


 元々ここに生息していたモンスターからも感謝されていた。ダンジョンが停止状態だったのを、アズーラが起動をしてくれたから今のように色々な機能が使えるようになっていた。以前のダンジョン内は、こんなに過ごしやすくは無かったそうだ。


 これだけ色々な機能が問題なく使えたのに、停止していて無用の長物となっていたのは本当に勿体ない。ダンジョンを僕らで発見して、アズーラと一緒に最深部に行けて良かった。


 とにかく皆、このダンジョンと言う居場所を気に入ってくれたようで良かった。




 ただ定住するためには、食料を安定して確保できるようにすること、ずっと住める家を用意する必要があった。


 ということで、地上では雪が降り積もっている間にダンジョンの中でモンスターの皆が活動していた。


「ここも、だいぶ村っぽくなってきたねマレーラ」

「そうですね。みんながよく働いてくれて、かなり作業が進みました」


 オーク系モンスターの集団をマレーラが指揮して、理想の住処を創り上げていた。地上から運んできた丸太を木材に加工して、慣れた手付きで家を建てたりしている。もともと、彼女達は非常に好戦的な種族だったので、僕と出会う前は闘争に明け暮れていたらしい。


 それが今では家を作ったり、今度は畑を耕したりして、ものづくりにハマっているらしい。訓練で戦ったり、鍛えたりはしているけれど、以前ほどの本気の殺し合いは止めている。それで不満もなく、ここでの生活に満足してくれていた。




 そして冬になる前にダンジョンの一員に加わったというのか、囚われる身となったローズマリーは、早くもモンスターの輪に溶け込んでいた。


 ただ、問題が一つ。彼女の住む場所をどこにするのか。


「しばらくは、アランと一緒の家でもいいよ」

「え?」


 唯一の人間であった僕が生活している、ダンジョンの中に作った即席の小屋で良いとローズマリーは言う。他はモンスター達が自分たち用に住処を作っているけれど、人間が住むには少し合わない。仕方がないのかもしれない。


 けれども、異性なのに大丈夫なのだろうか。


「私も一応、冒険者だからさ。討伐依頼に他の冒険者達とパーティーを組んで一緒に活動していたから、男女一緒に夜を過ごした事ぐらいはある。だから問題ないよ」

「んー、本人が納得しているのなら大丈夫なのか」


 これは即急に、彼女が生活するための家を建てないといけないだろうな。マレーラに協力をお願いしようか。


「ただ襲ってくるつもりなら、返り討ちにするので気をつけてね」

「わかった」


 そのつもりはないので、頷く。ローズマリーに女性としての魅力がない、という訳ではなくて、メラルダとかアズーラとか、他にも沢山のモンスターが人化した美しい女性の姿に囲まれて生活をしてきたので、自制心を極限まで鍛えられてきた。だから大丈夫だった。


「とは言っても、本当に来たら私じゃ勝てないと思う。アランは、レベル1000を超えてるんでしょ?」

「あぁ、うん、まぁ。誰から聞いたの?」


「アズーラから聞いたんだ。実は、とんでもないレベルだったんだね。数値を聞いた時は驚いた」

「冒険者だった頃は、討伐依頼が回ってこないようにレベルは偽装してたからね」


 冒険者の活動をしている傍ら、アズーラとかモンスター達と戦闘訓練を積み重ね、みるみるうちにレベルが上っていった。ギルドに居る時は、スキルでレベルの偽装をしていたので誰にもバレていないだろう。


「でも、ローズマリーもココに来てからどんどんレベルを上げてきているから、すぐ僕を追い越すよ」


「いや、それは無理だと思うな」

「キッパリ言い切るなぁ」


「だって、アランは今もずっと訓練を続けて鍛えてるでしょ?」

「うん。鍛えるのが習慣になっているから」


「だから、まず私の目標はアランと同じようにレベル1000に達すること。ひとつ上のケタに上がれるように訓練を続けていこうと思う。だからアランも、おそらくは人類が前人未到のレベル2000を目指して、一緒に頑張りましょう」

「ハハハッ。そんなに強くなって、どうするつもりだよ」


 僕は笑った。レベル2000に到達しようという、呆れるぐらい大きな目標を僕の代わりに、僕の目標として立てられてしまったから。


 こんな風に楽しく会話を交わせるぐらいには、僕とローズマリーは馴染めていた。

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