第16話 素材換金

「それでは、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 世間話を終えて、ロレッタさんは気持ちを切り替えて商業ギルドの受付嬢としての仕事を始めた。


「モンスターの素材と鉱石を持ってきたので、それを買い取ってもらいたいんですが可能ですか?」

「はい、買い取りですね。素材は何処に?」


 僕が手に何も持っていないので、不思議そうな表情を浮かべて彼女は聞いてきた。とりあえず、持ってきた物は買い取ってもらえそうな感じだった。無駄足にならずに済んでよかった。


「買い取ってもらいたいモンスターの素材と鉱石は、ちょっと数が多いので建物の外に置いてます」

「なるほど。確認させてもらいますか」


 そう言って、カウンターから出てくる受付嬢。彼女が鑑定してくれるのだろうか。一歩先を歩いて、後ろにロレッタさんを引き連れて建物から出る。


「これです」

「なっ!?」


 建物の中には持ち込めなかった、荷車に積み込んだ素材と鉱石の前まで案内すると彼女は驚き、口をパカッと開けて荷物を見上げていた。ちょっと量が多かったのかもしれない。


「これは、貴方が1人で持ってきたのですか?」

「えーっと。そうですね。街の外から運んできました」


「……ここ一ヶ月ほど、アランさんを街で見かけませんでしたが、もしかしてずっと街の外に居たんですか?」

「そうですね。この街には一度も戻ってきてませんね」


 街の外にある森の拠点でモンスター達と生活していて、訓練したり、ダンジョンを探索したりしていたけれども、それは詳しく話すことは出来ないな。だから、正確な情報は話さずに少し濁して伝える。それで言えない内容だと察してくれたのだろう、それ以上は彼女も質問してこなかった。


「鑑定をお願いするスタッフを呼んでくるので、しばらく待っていてもらえますか。すぐに戻ってくるので」

「はい、いいですよ」


 そう言うと、ロレッタさんは慌てて建物の中に戻っていった。どれぐらい待つかなと思う間もなく、彼女は本当にすぐ戻ってきた。3人の男性を引き連れて。


「これは、すごい量ですね」

「こんな量があるのなら、すぐに鑑定額は出せんぞ」

「見積額を出すのも難しそう」


 鑑定してくれるというスタッフに持ってきた荷物を見せると、驚かれた。

 量が多いということで、今すぐには換金できないらしい。なので、ここまで必死で運んできたモンスターの素材と鉱石については、一旦商業ギルドに預ける事にした。3人の男が協力して、荷車を動かして運んでいく様子を見送る。


「申し訳ありません」

「いえ、僕の方こそ持ち込みすぎたようです。ごめんなさい」


 横に並んで立っていたロレッタさんに、再び謝られる。換金が遅くなってしまう事についての謝罪だろう。


 しかし、謝らないといけないのは僕のほうなのかもしれない。一回の往復で全てを済ませようと思って、限界ギリギリの量を持ってきてしまったけれど多すぎだった。冷静に考えると、こんなに沢山持ってくるなんて迷惑だっただろうな。


「ところで、アランさん」

「え? なんですか?」


 反省しているとロレッタさんが急に体を寄せて小声になって、耳元で囁いてきた。思わずドキッとするが冷静を装い、聞き返す。


「換金したい荷物は、これだけですか?」

「あー、えっと。外の拠点に保管してあるので、運んできたらまだ沢山あります」


「是非、買い取りは商業ギルドでお願いします。なるべく高く買い取るように、上と交渉しますので」

「たくさん持ってきても、迷惑じゃなかったですか?」


「とんでもないです。今、この街はモンスターの素材不足で需要が非常に高くなっているので、いくらあっても助かります」

「それは良かった」


 迷惑ではないようなので、一安心する。素材不足というのは、さっき彼女と話した冒険者ギルドで誰も採取依頼を受けたがらないから、なのかな。


 それに、街での需要が高くなっているそうなので買取価格も期待できそうだった。商機を逃さないように、ロレッタさんも商業ギルドに持ってきて下さいと、アピールしてくる。


「アランさん、商業ギルドに加入してみてはどうですか? これだけの量を取り扱うのなら自分で売買したほうが得をしますよ。なんでしたら、商人を雇って売り買いは任せて、仕入れだけ自分で行っても利益を出せます。私も、手続きなどは可能な限りお手伝いしますが、どうでしょう?」

「うーん……。しばらくは、ギルドに所属するのはやめておこうかな」


 少しだけ考え込んでから、僕は答えた。商業ギルドに所属したほうが、お金を稼げるようだが僕は商業ギルドへの加入は遠慮した。冒険者ギルドでの件が、どうしても脳裏をよぎって。


 それに、まだまだモンスターの素材と鉱石の蓄えは沢山あるので必死になってお金を稼ぐ必要もないから。今は、商業ギルドに加入しなくても問題はない。


「差し出がましいことを申しまして、申し訳ありません」

「いや、良いんだ。アドバイスしてくれてありがとう。ためになったよ」


 彼女は僕のために助言してくれたのだから、責めたりはしない。そんな話を交わしながら商業ギルドの建物に戻った。


 持ってきたモンスターの素材と鉱石の換金が完了するまで、しばらく時間が掛かるというので商業ギルドの建物の中で待つことになった。

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