第15話 久しぶりの街へ

「そろそろ到着か。気持ちを、ちゃんと切り替えないとな」


 手作りの荷車にモンスターの素材や鉱石など収穫物を乗せて、街の近くまで人力でひいてきた。


 かなり大量に載せて運んできたが、まだまだ余裕はあった。だが、これ以上載せて運ぼうとすると森の中を通ってくることが出来なくなるし、荷車が積載重量を超えて潰れてしまう可能性もあるので、1人で運べる限界ギリギリ分だけ持ってきた。


 こういう時に僕は思う。アイテムボックスと呼ばれている空間魔法が使えればいいのにな、と。残念ながら、僕はアイテムボックスの魔法を使うことは出来なかった。使えたなら、今のように森の中を荷車をひいて苦労する必要もないまま、大量の素材や鉱石を楽々と運んで来れるのに。


 その魔法を使えるのは限られた人間だけ、ごく一部の人にしか使うことが出来ない特殊能力だという。


 そんな事を考えながら、1人で森を抜けて街の近くにまでやって来た。まだ少し、街に入っていくのは気が進まないのだが、ここまで来てしまったので何もせず拠点へ戻る訳にはいかない。


「はぁ……」


 ため息をつきながら、街の中に入っていく。久しぶりに自分以外の人間を見た気がする。最近はずっと、一緒にモンスター達と暮らしていたからな。でも人化していて見た目は人間と少し違うだけで、生活はそんなに変わっていないのか。


 街中の道を歩いて、向かう先は商業ギルド。森の中から苦労して運んできた素材を換金してもらいに行く。


 ただ気になる点が一つ。今までずっと冒険者ギルドに納品をして、依頼の報酬金を受け取ってきた。飛び入りで、商業ギルドに持ち込んで素材を換金してもらえるのかどうかについて知らなかった。ギルド員じゃないと、換金してもらえないかも。


 またギルドに所属しないといけないとなると、嫌だな。冒険者ギルドで突然、除名処分を受けた時の事を思い出す。


 商業ギルドの一員じゃなくても、素材の買い取りはしてもらえる、と聞いた覚えがあった。一縷の望みにかけて行ってみる。ダメだったなら、商業ギルドに所属させてもらうかな。



 今のところ、ありがたいことに知り合いの冒険者に出会うことなく、商業ギルドの建物がある場所まで来ることが出来た。ここから、冒険者ギルドがある建物まで遠いのでこのまま知り合いの冒険者とは出会うことも無く、目的を果たせそうだ。


 素材を載せた荷車を建物の前に置いて、商業ギルドの中へと入っていく。初めての建物内は、冒険者ギルドの内装に似ているような気がする。


 受付嬢が座って待機をしているカウンターまで歩いていき、話しかけようとすると逆に向こうから話しかけられた。


「お久しぶりです、アランさん」

「え?」


 商業ギルドを訪ねるのは初めてのはずだけれど、なぜ僕の名前を知っているのか。受付嬢の顔をよく見てみると、見覚えのある顔だった。


「あれ、ロレッタさん?」

「冒険者ギルドで受付嬢をしていたロレッタです。お久しぶりですね、アランさん」


「えーっと、そうですね。お久しぶりです」


 まさかここに居るとは思っていなかった人と予想外の出会いに、驚いてしまった。ロレッタさんから改めて丁寧に挨拶をされたので、僕も頭を下げて挨拶を返す。


 でも何故、商業ギルドに居るのだろうか。僕が、そんな疑問を思い浮かべているのが明らかだったのだろう、彼女はココに居る理由を説明してくれた。


「実は、冒険者ギルドの受付嬢から商業ギルドの方に移籍してきました」

「どうして?」


「アランさんが除名処分を受けて、冒険者ギルドから居なくなった後の事なんですがギルドに色々な問題が発覚したので、あそこに居続けると危ないと思ったからです」

「問題? 何か、あったのかい?」


 一ヶ月ぶりに街に戻ってきたので、冒険者ギルドに何があったのか全然知らない。その間に何か事件があったのだろうか。僕が除名処分される前には、特に危なそうな感じはなかったけれども。


「アランさんが請け負っていた任務を代わりにする冒険者の人が居なくなって、素材の納品数が激減しました。それで、他ギルドとの取引するための量が足りなくなって取引は打ち切り。冒険者ギルドの収入も落ち込んで、ギルド長は何とか取り戻そうと大変みたいですよ」

「そんな事になっていたのか」


 確かに、採取依頼を受けるような冒険者は僕の他には居なかったっけ。稼げるから何の依頼でも受けた方が良いのにと思いつつ、討伐依頼を受けない僕が採取の仕事の大半を独占していた。


 いや、でも最近は他の冒険者も採取依頼を受けていたと思うけど。それにギルドの収入が落ちて混乱するほど、僕の働きが大半を占めていたのか。実は、素材採取とかモンスターの仲間にも協力してもらっていたからなぁ。


「ごめんなさい」

「え?」


 昔のことを思い出していると、ロレッタさんに謝られた。何か、謝られるような事をしたのだろうか。身に覚えがなくて焦る。


「アランさんが冒険者ギルドから除名処分を受けた時、2人の冒険者達に掴まえられ建物から追い出されていて。あの時に、私が呼び止めて事情を聞けたなら」

「あぁ。いやいや、ロレッタさんが謝ることじゃないですよ」


「……アランさんは、冒険者ギルドに戻りたいと思いますか?」


 真剣な表情を浮かべたロレッタさんから、そんな事を問いかけられた。僕はすぐに答えた。


「いや、もう勘弁。戻りたくはないです」

「私も、アランさんは絶対に戻らないほうが良いと思います」


 ロレッタさんから、そんなアドバイスをされる。彼女も冒険者ギルドから移籍して商業ギルドに来ている。そういう事なのだろう。


「でも良かったです。アランさんはもう、愛想を尽かせて別の街に行ってしまったのかと思っていました。また会えて嬉しいです」


 冒険者の活動をしていて、受付嬢のロレッタさんには色々とお世話になっていた。そのロレッタさんから、そんな風に思われていたとは知らなかった。街に戻ってきてちょっとだけ良かったかな、と思えた。

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