第17話 帰り道
結局、持ち込んだ物の量が多すぎたので全部を換金してもらうには時間が足りなくなってしまった。残りのモンスター素材や鉱石は預ける事にして、ちゃんと鑑定してもらってから、次に商業ギルドを訪れた時にお金を受け取るという約束をする。
換金できないからといって、拠点に持ち帰るのも面倒だったから。冒険者の頃から付き合いのあるロレッタさんを信頼して、持ってきた物は全て任せることにした。
街でモンスター素材の需要が高まっているらしくて、すべて預けると言うと彼女からもの凄く感謝された。鑑定金額も割増しで支払うように交渉してくれるなど、色々と優遇してくれるらしい。
「それじゃあ、おまかせします」
「はい。ありがとうございます、アランさん。またのお越しをお待ちしております」
商業ギルドの受付嬢となったロレッタさんと別れて建物を出てきた。短時間で鑑定が終わっていた分の金額だけ多少受け取っていたので、そのお金を持って次はお店へ買い出しに向かう。冬を過ごすために保存食となる食料と、暖を取るための薪を買い込みたい。
「いやー、この量を今すぐに用意するのは難しいですね」
「なるほど、そうですか」
冒険者の活動をしていた時にも時々お世話になっていた、顔なじみの商人を訪ねて商品を注文しようとすると、そんな答えが返ってきた。
「今すぐウチで出せるのは、これぐらいが限界です」
「これだけじゃ、足りないかな」
今までは、もう少し早めの時期に越冬の準備を進めてきた。けれど今年はいざこざがあって、準備を始めるのがちょっとだけ遅くなってしまった。
商人は、僕が冒険者を辞めて街から離れたと思って、買い手の居なくなった商品を他の人に売り出してしまったという。
いくつか残っているが、それだけでは少々足りない。
「アランさんには、色々とお世話になっているし支払いも遅れたことがない信頼感があります、なので何とか全力で商品は用意します」
「よろしくおねがいします」
他の店に行こうかと思ったが、用意してくれるということなので、お願いすることにした。ということで、後日改めて商品を用意してもらって街に買いに来る、というような予定となった。
商業ギルドにも日を改めて行かないといけないし、どちらにしろ、もう一度用事で街に戻ってこなくてはならなくなった。
僕は商人から、買える分の食料だけ買い込んでから荷車に載せると、街での用事も終わって、その日のうちに拠点へ帰ることにした。
***
「もうちょっと、ちゃんと予定を立ててから街へ行くべきだったかな」
予定では、持っていった荷物を全て換金してもらってから、商人から越冬に必要な物を買って、すぐに拠点へ戻ろうと思っていた。けれど、色々と段取りを失敗して、もう一度街へ行く必要が出てきた。商業ギルドに行って、商人のところへ買い出しに行かないといけない。
まぁでも、一回は街へ戻れたので次は、今よりも少しは気持ちもマシになるだろうと思う。
ただ、街中で注目されているのが少しだけ気になっていた。
街に入って商業ギルドに辿り着くまでは、荷物の多さで驚かれ注目されていただけだと思う。
しかしその後、商業ギルドを出て移動をし、商人とやり取りしている間、それから用事を終えて街から出て、今は森の中で荷車をひきながら1人歩いている。その間、ずっと観察されているような視線を背中に感じていた。
(いつまで付いてくるつもりだろう……)
街中では複数人の視線を感じていたが、今は1人だけになったようだ。
その1人が、街を出て森の中に入ってもしつこく後ろをついて歩いているようだ。荷車をひいて森の中を移動してきているので、土の地面に車輪が通った痕跡が残ってしまう。それを辿ると、何処までもついてこれるだろう。
森の中までついてくるという事は、冒険者なのだろうか。ロレッタさんから聞いた話によれば、冒険者ギルドが色々と大変らしい。その原因が、僕を冒険者ギルドから追放した事だという。いきなり除名処分を受けて迷惑したのは僕の方なのに、逆恨みされて狙われているという可能性を僕は考えた。
それとも、全く別の理由なのだろうか。分からない。
しかし、このまま謎の追跡者を連れてモンスター達の生活している拠点に帰るのはマズイだろうから、どこかで追っ手を振り切る必要がある。人間の僕とモンスターの仲間達が生活している拠点のある場所が知られて、報告されたら困るから。
「……」
黙々と、荷車をひいて森の中を1人で進んでいく。少しだけ、拠点のある方向からズレて歩いていった。
どんどんスピードを上げていって、追っ手との距離を徐々に離していく。歩きから速歩きになって、走るぐらいのスピードに変えていった。
凸凹の地面で暴れる荷車を抑えつつ、なんとか前進していく。しばらく険しい道を進んでいくと、背中に視線を感じなくなったので一旦そこで立ち止まった。
「よいしょっと」
荷物を載せた超重量の荷車を、そのまま担ぎ上げる。普通の人間なら無理な重さだけれど、レベルでステータスが上がっている僕だから可能なことだった。
「ほいっ、っと!」
そのまま荷車を担いだまま木の上までジャンプして、車輪の跡だけではなく足跡も残らないよう注意して拠点に帰る。
これで追っ手の目は誤魔化せるだろう。少し警戒しすぎかもしれないが、見つかるわけにはいかないから。
しかし、追っ手は一体誰なのか、目的は何だったのだろうか。
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