第3話 モンスターとの絆

 モンスターを殺せないと思った僕は、他に経験値を稼いでレベルアップする方法は無いのか聞いてみた。


「無いこともないが、面倒だぞ」

「どうやるの!?」


 村の人から聞いた話によれば、モンスターを倒さなくても戦闘訓練やトレーニングをすると、僅かに経験値を得ることも可能らしい。しかし、その方法で稼げる経験値量というのは、とても少ないという。一番の方法は、やはりモンスターと戦い倒して経験値を得ること。


「どうしても、倒すしか方法はないの?」

「強くなるためには必要だ。お前が、モンスターの命であっても大切にする心意気は非常に素晴らしいと思う。無闇な殺生をしちゃ駄目だと、よく理解しているな。だがモンスターは、野放しにしておけば村に住む人達に危害を加えるような存在だから。駆除しておかないと、増え続けるからなぁ。だから皆の暮らしのために危険がないように倒して、経験値を貰ってレベルアップまでさせてもらう、と考えたら良い」

「……うん」


 村一番の猛者であるトーマスさんも、色々と考えモンスターと戦っているらしい。

彼の教えを聞いて、理解はする。ただ、やっぱり納得はできない。


 そこで僕は、戦って納得して倒せるようなモンスターを探しに森の中に向かった。あんなに可愛い見た目をしたスライム系とは別に、倒しても心が傷まないような見た目や姿の敵を探す為に。


 それなのに、出会うモンスターのどれもが可愛く思えて倒せそうにない。しかも、森の中を敵を探して歩き回っている間にモンスターと仲良くなってしまった。


「キューキュー!」

「駄目だ、可愛すぎる。倒せない」


 初めて出会ったアイツとは違うが、同じ緑色をしたスライム系のモンスターが僕の足元で鳴き声を上げている。その様子を見て、僕の胸の中に可愛いという感情が沸き起こっていた。


 最初、コイツは僕の姿を見て突進してきた。身体に当たったのだが、何のダメージもない。同年代の女の子から叩かれた時の方が痛い、と思うぐらいの衝撃しかない。流石、最弱と呼ばれているモンスターだなと思いつつ倒さず適当に相手をしていた。繰り返し、体当たりされながら森の中を歩く。その後を付いてきて、体当たりをしてくるモンスター。


 慣れてきたのか、次第に体当たりの衝撃が大きくなってきた。まだまだ全然、痛くはないけれど。


「お! いい感じの体当たりだ。衝撃が大きくなってるよ」

「キューキュー!」


 やはり、モンスターも生きて感情もあるようだ。僕が褒めると、喜ぶような鳴き声を上げている。ような気がする。


「いつか、僕もモンスターを倒す日が来るのかな?」

「キュー?」


 森の中を散策して見て回った結果、僕はモンスターを倒せずにその日は終わった。それどころか、モンスターとの間に絆を育んでしまったようだ。より一層、倒すのが心苦しくなりそうだ。近い将来を考えて憂鬱になっていると、足元にいるスライム系モンスターが懐いて絡んできた。


「ごめんね、僕は村に帰らないと」

「キューキューキュー?」


「一緒には連れていけないんだ。だから、ここでお別れ」

「キューキュー!」


 村にペットとして連れて帰ったら、殺されてしまうだろう。だから、ここで別れを告げる。理解しているのか、別れを惜しむように僕の足元に絡みついてきた。


「ごめんね。だけど君を連れて帰ると、トーマスさん達にモンスターとして駆除されてしまうよ。だから僕の後を追ってきたりして、村には絶対に近づかないでね」

「キュー!」


「折角だから、名前も付けてあげよう。うーん、そうだなぁ……」


 僕は腕組みをして、しばらく考える。そして、その緑色の見た目をしたスライム系モンスターに相応しいと感じた名前を思いついたので、名付けてみた。


「今日から君の名前は、”メラルダ”だよ。僕の名前は、アランって言うんだ。改めてよろしくね」

「キュキュキュー!」


「名前も付けてあげたんだから、簡単に死んじゃ駄目だよ。絶対に村には近づかないでね。危なくなったら逃げるんだよ」

「キュッキュッ」


 理解しているかどうかも分からないし、自己満足だけどもメラルダに忠告してからその場で別れを告げて1人で村に戻った。




「お! ようやく、モンスターを倒せたのか。アラン、よくやったな」

「え?」


 村に戻るとトーマスさんから突然、そんな事を言われた。心当たりがなくて、僕は戸惑う。


「どうして、僕がモンスターを倒したって思ったの?」

「お前のレベルが上っているからな」


「えぇ!? ホントに?」

「レベル1から6に上がっている。モンスターを倒して経験値を得たんだろう?」


「僕のレベルって、見て分かるの?」

「あぁ。スキルでな」

 

 どうやら、見ただけでレベルが分かるスキルというのがあるらしい。トーマスさんの話が本当ならば、僕は知らぬ間に5もレベルアップしていたらしい。だがしかし、モンスターは倒していないのに経験値はいつ得たのだろうか。疑問に思う。


 考えてみた結果、僕がレベルアップしたのは森の中を歩いたからだろうと思った。モンスターを倒して経験値を得なくても、戦闘訓練やトレーニングでも微量の経験値が得られるという話を聞いていた。


 つまり、森の中を歩くことが身体を鍛えるトレーニングとなって経験値を得る事になったんじゃないだろうか、と考えた。モンスターを倒さなかったとしても経験値は稼いでレベル上げができそうだ、と僕は思った。


 絶望を味わっていた僕の人生に、希望が湧いてきた。

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