第34話★ 勇者達の動向

「ダンジョンのある場所、見つけてきた」


 勇者パーティーの一員であるシェアが、ボサボサ頭や肩の上に雪を積もらせたまま酒場へやって来て、そう言った。


「ありがとう」


 酒場のテーブルに座っていたアルフレッドが、シェアを労う。だがしかし、感謝の言葉を掛けられた方は、ソレがおざなりで薄っぺらい言葉にしか聞こえなかった。


 そんな事を言うのなら、自分たちだけぬくぬく暖かい室内で快適に過ごしていないで、少しは手伝ってくれたら良いのにと思っていたから。


 だが、そんな不満がある事をシェアは口に出さなかった。


「もう見つけてきたの」

「早かったな。場所は、間違いないのか?」


 アルフレッドと一緒のテーブルに並び座っていた美女のヴィクトーリアと、向かいに座って温かい料理を美味しそうに食べる野獣のマルコルフ、2人が疑うような目でシェアを見ていた。言葉にも問い詰めるような鋭さがあった。


「間違いない。ここにあった」

「ちょっと、冷たいわよ!」

「料理に雪が、かかるだろう!」


 シェアが懐から取り出した地図をテーブルの上に置き、アルフレッドに報告する。その時、雪の降る外へ出ていたシェアの体に付着していた雪がテーブルの上に落ち、座っていたヴィクトーリアとマルコルフにかかった。


 もちろん、シェアはわざとだった。文句を言ってくる2人を無視する。


「いつ行くの?」

「危険がないように万全を期して、春が来てから仕事をしよう」


 シェアの問いかけに、アルフレッドが答えた。そんな彼の答えを聞いて、シェアは眉をひそめる。


「……せっかく、僕が寒い雪の中を必死で調べてきたのに?」


 雪の中を探索に行かせて、自分たちだけ宿と酒場の中であったかくて快適な生活を送っていたのに。ちゃんと調べてきた情報は疑われ、色々と文句を言われてシェアも少し苛ついていた。


「まさか、こんなに早く発見してきてくれるとは思ってなかったから。これで調査の準備を整える時間を十分に稼げた。ありがとう」

「なら、僕も冬が終わって雪が溶けてから偵察に行かせてくれれば、よかったのに」


 シェアは情報収集が得意だけれど、寒い環境に強いわけではない。なるべく急いでダンジョンのある場所を突き止めてくれとアルフレッドに言われたので、その通りに頑張って働いてきたのに。


「一刻を争う事態なんだ。起動したダンジョンを放置しておけば、この辺りで生活をしている人達にも後々、迷惑をかける事態になるかもしれないだろう。そうならないようにする為にも、俺らのような勇者パーティーが居るんだ」

「……」


 ならば、早く戦う準備を終えてダンジョンに突撃すればいいのにと思ったシェア。少しズレたような回答で、有耶無耶にされてしまう。追求していこうと思ったのだがこれ以上は、アルフレッドに何を言っても色々と言い訳をするだけだろう。春になるまで、彼らはダンジョンに行く気が無いようだと理解してしまった。


「……はぁ。なら、僕は先に休ませてもらう」


 ため息をつくシェア。調べてきた情報をアルフレッドに渡すと、自分の取った宿の部屋の中にこもることにした。


「あ、シェア! 一緒に夕食はどう?」

「……」


 アルフレッドの呼ぶ声を無視して、シェアは1人で酒場から出ていった。


「ねぇ、ちょっと。パーティーの一員として今の態度はどうなの?」

「和を乱していると思うが」

「まぁまぁ」


 ヴィクトーリアとマルコルフの2人が不満を口にする。その2人をアルフレッドがなだめる。


「みんなの役に立っている。疲れてもいるだろうし休ませてあげようじゃないか」

「まぁ、アルフレッドが言うのなら」

「仕方ないか」


 パーティーメンバー間の関係はあまり良くはなかったが、勇者でありバーティーのリーダーでもあるアルフレッドが、なんとか繋ぎ止めていた。


「それよりも、ダンジョンの出現と共に出現した強力なモンスター、どう思う?」


 シェアへの不満を意識外に追いやろうとして話題を変える。この街にある、冒険者ギルドの長から話を聞いて知った情報について。


「どのくらい、モンスターとレベル差があるのかしら」


 ヴィクトーリアの疑問。ギルド長から得られた情報は少なくて、強力なモンスターとやらのレベルや強さについては不明だった。この街の実力者が返り討ちに遭った、とだけ聞いていた。


「今の俺がレベル168,ヴィクトーリアがレベル162だったか」

「えぇ、そうね」


 マルコルフが自分たちのレベルについて、再確認する。彼に続いて、アルフレッドもレベルを確認した。


「そして俺が、レベル266。シェアは、戦闘要員じゃないから数えるべきじゃないが、一応レベル99はある。何かあった場合には、自力で逃げられるレベルだと思うから大丈夫だろう」

「アルフレッドが居たら、何とかなりそうね」


 勇者アルフレッドへの信頼が非常に高いヴィクトーリアは、レベル266と聞いて安心していた。


「とりあえず、春になるまで待つかな」


 そして彼ら勇者パーティーは、季節が春になるまでダンジョン調査のための準備をじっくりと整えた。

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