第46話・トプン・コプンと流す黒の涙は大きな星になりました。
ザバッ!!
ポンポンたちは、全員そろって無事に離れスミレ諸島に到着することができました。
いつも通り、ギムナージュの泉から出た後はやっぱりびしょ濡れです。
離れスミレ諸島は、とってもとっても小さい島の集まりです。誰か一人が小さい島に立ったら、もう一人は立てないくらい小さい島です。
なので、ピョンピョンを抱っこしたポンポンが立っている島と、ポンポンの頭をおさえているロロさんはとなりの島に立っています。
バェェは、海でまた小さくならないように、ポンポンとロロさんのグルグル巻きをほどいてから5つの顔に力をこめて、汗をいっぱいかいてギュッと体とかたくしました。
ポンポンもピョンピョンを一度地面においてから、頭に巻いているマフラーをはずしてカバンにしまいました。
離れスミレ諸島は、どうやら満潮の時間のようで、水かさがどんどん上がっていって、あっという間に小さな島は海の中に入って見えなくなって、今、ポンポンのひざまで海がきています。
ピョンピョンもバェェと一緒で海がこわいのか、ポンポンの頭の上によじ登って、ガタガタと震えています。
「うわわ。ピョンピョンちゃん、じっとしてて!危ないよ!」
ポンポンはバランスを崩さないように、なんとか自分でも頭をおさえていますが、海水がどんどん増えていくので、どうにもうまくいきません。
「ピョンピョンさんは、バェェさんに乗ってください!そうすれば、ポンポン様は頭をおさえなくても立っていられるはずです!」
ロロさんに言われて、ピョンピョンはバェェに飛び乗りました。ロロさんはポンポンの頭から手をはなし、増えていく海水で、先代の色の魔法使いの伝記が濡れてしまわないように両手を目いっぱい上にあげました。
ポンポンもロロさんみたいに両手を目いっぱいあげて、杖を持ち上げようとしましたが、それよりもはやく海水がいっぱい増えてしまい、ポンポンは全身が海水につかってしまいました。
トプン・コプン
海の上はとっても波立って騒がしかったのに、いざ中に入ってしまうと、とっても静かで、ただ、トプン・コプンという音が小さく響いて、その音に合わせて大きい泡と小さい泡がプカップカッと浮かんでは消えています。
ポンポンは不思議と、息はできないのに呼吸はちっとも苦しくないので、静かに目をあけて見ました。
すると、ずーっと向こうの方になにか黒い点が見えてきて、ずっと見ていると、それはだんだんポンポンの方に近付いてきました。
―――なんだろう…?
ポンポンが目をこらしてみると、その黒い点はついにポンポンの目の前まで来て、ピタッと止まりました。
その黒い点は、ポンポンが『色の始まりの物語』で書いた黒でした。
黒は物語に出てきた時のように、涙をいっぱい流しています。
ポンポンは、心の中で黒に話しかけました。
―――黒…黒…なんで泣いているの…?
黒は答えます。
―――いつまでたっても一人ぼっちなんだよ…。
ポンポンは、自分の書いた物語で黒を一人ぼっちにしてしまったのを思い出して、黒のためにこう言いました。
―――そりゃ、あんたは一人ぼっちだけど、黒はいろんな色と仲が良いんだよ?
黒は涙をとめてポンポンを見ます。
―――本当?みんな、いなくなっちゃったよ?
ポンポンは両手いっぱい広げて答えます。
―――だって、よく見て?この海の色はホントはもっと薄い青色なんだよ。それが黒がいるだけで、こんなに濃いきれいな深い青色になってるもん。夜空だってそうだよ。黒がいなくちゃ、星はあんなにキラキラ光らないよ。
黒は、ポンポンの話を聞いて大粒の涙を一粒落としました。
それはそれは、とてもきれいな七色の涙で、海の中の泡とぶつかっては増え、ぶつかっては増え、あっという間に海の中は一面、七色になりました。
ポンポンがビックリして、大きく開いた目で黒を見ると、黒はニコッと笑って手を大きく上に目いっぱい伸ばしました。
すると、黒とポンポンのまわりだけ七色の海がなくなってしまいました。
となりにいたロロさんや、上にいたバェェやピョンピョンも一緒に七色の海がない場所にいます。
黒がさらに背伸びをして目いっぱい手を伸ばすと、金色の星が黒のまわりにいっぱい集まってきました。
ポンポンは、黒が力いっぱい手を伸ばしているので、黒が倒れてしまわないか心配になり、黒に手を伸ばして、黒を支えようとしました。
すると、ポンポンが黒にふれた瞬間に、黒はもう一度ポンポンにニコッと笑いました。
そして、気が付くと、ポンポンの目の前から消えてしまいました。かわりにポンポンの両手にはとてもとても大きな星が一つありました。
それは、七色の星の涙でした。
「黒…いなくなっちゃったね…。」ポンポンは少し呆然としてフワフワと言いました。
「ほし、おっきい!おっきい!」
「バェ!バェ!バェェ!!」
ピョンピョンとバェェの大きな声にポンポンはハッとして手の中の星に目をおろしました。
たしかに星は、どんどん大きくなって、横幅がバェェと同じくらいになってしまったので、ポンポンは持ちきれなくなり、星を海の上におろしました。星は海の上でぷかぷか浮いています。
星は大きくなったので、細かいところまでよく見えるようになりましたが、とってもとってもきれいで、ツヤツヤでピカピカした金色です。尖っている部分が6つあって、それぞれの先に七色の丸い玉がついています。
星の真ん中もまるく七色になっていて、少しへこんでいる部分があります。
「これ、とってもかたくて丈夫そうだから、乗れそう…。」
ポンポンは、星をペチペチさわって、かたさをたしかめてから、星の真ん中のへこんだまるいところにおしりを乗せて座ってみました。
「うわっ!」ポンポンが座ったとたん、星はフワッと少しだけ浮かびました。
「うわー!これ、飛べるよ!」星はポンポンが思うだけで、高く飛んだり、右に行ったり、左に行ったりします。
「すごい!すごい!」ピョンピョンがバェェの上でピョコンと跳ねました。
「バェ!バェ!」バェェも、なんだかうれしそうですが、よく見ると、バェェはもう顔が3つしか残っていません。
「バェェ!大変!この星で大陸まで戻ろう!」
ポンポンは、一度島までおりてから、ロロさんが乗れるように場所をちょっとあけました。
ロロさんも無事に星に乗ることができたので、バェェとピョンピョンはロロさんが抱えました。みんなが星に乗ったのを確認したポンポンは星をさわる手に力を込めて、すぐに大陸まで戻ろうとしました。
だけど、ポンポンが地面を蹴り上げようとした瞬間に、七色の海の壁から何かが目の前をすごい速さで飛んできて、また七色の海の壁の中にすぐに消えてしまいました。
「うわっ!なに!?」みんなビックリして、あたりをキョロキョロしました。
すると今度は、後ろの方や、左の方から次々に飛んできます。
あっちこっちから飛んでくるその何かは、とっても速くてその正体が何なのか、ちっとも見えません。
「キャー!!」
そのうち、その何かは、ポンポンのすぐ正面から飛んできて、ポンポンがぶつかるっ!と思って、目を閉じた瞬間にパチンッと大きな音を立てて地面にボタッと転がりました。
七色の星の涙がバリアをはって、ポンポンたちを守ってくれたのでした。
ロロさんが地面に落ちたものを見て言いました。
「これは・・・怪魚ワシーノジです!この速さで海を跳ぶように泳ぐので、船底に穴を開けてしまうそうですよ!」
怪魚ワシーノジは、船底に刺さって大きな穴を開けてしまいそうな尖った長いくちばしに、一度開けたらそのまま全部ひらいて取れてしまいそうなくらい大きく開いた口に、何でも噛み千切れそうなガタガタの歯がたくさん付いていました。背びれと尾びれは手足のように大きくて指のようになっています。
「きもちわるい!!」ピョンピョンがモコモコの毛を逆立てて叫びました。
ポンポンは急いで地面を蹴り上げ、離れスミレ諸島をあとにしました。
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