第33話・もうひとりの自分のウソとホント。

もうそろそろ、ヌボチが出て来てほしいな、と思いながら、ポンポンはため息をつきつつ五階への階段をのぼりました。残念ながら、五階の部屋の真ん中にいたのは、ヌボチではありませんでした。そこにいたのは――

「…あたし…?」

なんと部屋の真ん中にはポンポン、いいえ、ポンポンそっくりの女の子がいました。違うところがあるとすれば、髪の毛が色集めを始める前と同じ真っ黒なことと、色の杖を持っていないところだけです。

「あ、あなた、だあれ…?」ポンポンは、おっかなびっくり目の前にいる自分そっくりの女の子に尋ねました。

「あたしはポンポンよ!あんたこそ誰よ!?」なんと、その女の子は自分こそがポンポンだというのです。これには、ポンポンも黙っていられません。

「あたしがポンポンだよ!あたしが本物だもん!」

「あんたなんか偽物よ!」と、黒髪のポンポンが言います。

「本物だよ!ちゃんと髪の毛の色だって七色だし、色の杖だって持ってるもん!」七色の髪の毛のポンポンが杖をギュッと握って言いました。

すると、黒髪のポンポンが意地の悪い顔でこう言いました。

「そんなの嘘だよ。ほんとのあたしは黒い髪の毛をしてるし、そんな変な色の杖なんて持ってないもの。こんな色集めなんて、ほんとはやりたくないし、早く帰りたいんだもの。おじじはうるさいし、キノコはまずいし、バェェも妖精もトンギルポヨスもみんなみんな気持ち悪いもん。みんなみんなだーいっきらいだもーん。」

「ち、ちがうよ!」ポンポンは泣きそうになるのを必死で我慢して言いました。

「ちがうよ!おじじ様は優しいし、キノコはベリーがついてなきゃおいしいし、バェェの鼻毛だってもう見慣れたし、妖精さんなんかもう会わないもん!」

黒髪のポンポンはさっきよりも意地悪くニヤニヤしながらポンポンの口まねをして、こう言います。

「ほんとはこんな変な色の髪の毛やだもん!大っきらいだもん!行きたくもないのに、トンギース島とか、ドールブラーイス山脈とか、サンサーン火山とか行かせるおじじも大っきらい!もうつかれたもん!色なんか知らない!みんなみんな大っきらいだもん!!」

七色の髪の毛のポンポンは、なんだかだんだん本当に自分がそう思っているような気がしてきてしまって、黙ってしまいました。

黒髪のポンポンは更にニヤニヤしながら続けます。

「あたしは色の魔法使いなんて、もううんざりなの。こんな一人ぼっちの魔法使いなんかじゃなくて普通の魔法使いの家に生まれてりゃ今頃こーんな苦労だってしてないし、おじじのまずいキノコも食べさせられなかったし、杖でポカポカ叩かれなかったもーん。」

七色の髪の毛のポンポンはついに我慢できなくなってポロポロポロポロ涙をこぼして泣き始めてしまいました。

「ほーら、やっぱりそう思ってたんだ!あんたはずーっとそうやって思って生きてきたんだよ!ほんとはなんもかもやめて今すぐ家に帰ってのんびりしたいんだよ!バーカ!バーカ!」

黒髪のポンポンはあんまりニタニタ笑っていたので、もうその顔はポンポンに似ても似つかない顔になっていたのですが、ポンポンは涙をいっぱい流して目の前がよく見えなくなっていたので、ちっとも気付きませんでした。

「あんたは普通のごはんが出てくる普通の家に生まれたかったんだよ。そしたら――」

「……普通の家…?」七色の髪の毛のポンポンが黒髪のポンポンの言葉をさえぎりました。

「普通の家ったら、普通の家よ!お父さんとお母さんがいて、普通のごはんが出てくる家よ!」黒髪のポンポンがバカにしたように言いました。

「おとーさん?おかーさん?…それ、なあに?」

ポンポンは生まれてすぐからおじじ様と一緒に住んでいますし、メリーベール村はひとりで暮らすお年寄りの魔法使いと魔女しかいないので、お父さんとお母さんを知らないのです。

「そんなことも知らないなんて、バッカじゃないの!?」黒髪のポンポンは勝ち誇ったように言いました。

「あなた、あたしなんでしょ?なら、なんであたしの知らないものを知ってて、欲しがってるの?」ポンポンは不思議そうに首をかしげました。

「そんなもん、普通はそう思うからよ!」

ポンポンは目の前にいる自分そっくりのもう一人のポンポンが何を言っているのか、ちっとも分かりません。

それで少し冷静になれたのかもしれません。

ポンポンの顔は涙でグシャグシャになってしまいましたが、両手で涙をぬぐいました。

すると、その涙は少しだけキンティールがくれた耳飾りについて、その瞬間、ピカーっと耳飾りが強い光りを放ちました。

「ギャー!!!」

目の前にいた黒髪のポンポンに耳飾りの強い光りが当たって、顔の光りが当たったところがやけどをした時みたいにドロドロになってしまいました。

ポンポンはさっきまでの弱気が嘘みたいに、しっかりと立って、杖を両手でしっかりとにぎりしめました。

「あたしの髪の毛は生まれてすぐは七色だったって、おじじ様が言ってたもん!おじじ様はうるさいけど好きだし、キノコだっておじじ様が頑張って漬けてるの知ってるもん!

バェェだってボヨンってするとかわいいし、乗れるし、妖精さんだってトンギルポヨス像だって助けてくれたもん!

色集めだって、全部あたしが自分で決めた場所だし、トンギース島もドールブラーイス山脈も、疲れたけど、知らないとこに行って、知らない人と会って楽しかったもん!

色の物語を作る時だって楽しかったし、色集めが終わったら新しい色を作るんだもん!

ポンポンは色の魔法使いなんだもん!!」

ポンポンの杖からいろいろな色の強い光りがたくさん出てきて、黒髪のポンポンに当たりました。

「ギャー!!!!」

ポンッと煙が出て、にせもののポンポンは消えてしまいました。

ポンポンは息をきらして、また少しだけ出てきた涙をふいて六階への階段をのぼりました。

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