第34話・不機嫌な王様をビスケットで飼い慣らす。

ゴマーベールの塔の六階は、三階の白くまのおばあちゃんの部屋とよく似ていましたが、あんなに居心地良さそうな部屋ではありませんでした。

白くまのおばあちゃんの部屋には暖炉のとなりにロッキングチェアがありましたが、この部屋には王様が座っていそうな立派なイスがひとつ置いてあって、そこに不機嫌そうな男の子が座っていました。

男の子はポンポンを一目見るなり怒鳴りちらしました。

「なんだお前は!なんで勝手にどんどん入ってくるんだ!!」

「あたし、ここに紫色を探しに来たんだよ。あるでしょ?」

「うるさい、帰れ!そんな、紫色なんかあるもんか!!ここはボクんちだ!帰れ!出てけ!!」

「ボクんちって、それじゃあなたがヌボチさん?」

「うるさい!出てけ!!」

おそらくヌボチはヒステリックにポンポンに怒鳴りちらし、王様のイスに座ったままで手が届くものを掴んでは手当たり次第ポンポンに投げてきました。

「わかったよ!出ていくから、色だけちょうだい?紫色なんだけど。」

ポンポンはおそらくヌボチが投げてくるものがぶつからないように、おそらくヌボチから一番遠くへ移動しながら、そう言いました。

「うるさい!ないったらないんだ!帰れ!!」

投げるものがなくなったおそらくヌボチは王様のイスに座ったまま足をドンドン踏み鳴らしました。

「だって、ここにあるんだもん!あんたが知らないだけじゃないの?」

ポンポンはキョロキョロと部屋の中を見回しました。

おそらくヌボチは顔を真っ赤にしながら怒鳴り続けます。

「うるさい!ここはボクんちだ!ボクが知らないわけあるか!ないったらないんだ!!」

ポンポンはおそらくヌボチがあんまりうるさいので、思わず耳を両手でふさいでしまいました。そして、おそらくヌボチが怒鳴りちらすのを上の空で聞いているうちに、だんだんお腹がすいてきたことに気が付きました。

「あんた、お腹すいてない?」

ポンポンの突然の問いかけに、おそらくヌボチは一瞬言葉につまってしまいました。

「お、お腹なんかすくもんか!この塔のものは全部ボクのもんなんだから、お前なんかになんにもやらないからな!!」

お腹がすいたポンポンは、おそらくヌボチになんかかまってられません。

「あたし、さっき白くまさんにビスケットもらったの。とってもおいしいんだよ。あんたも食べたいでしょ?これね、ジャムをつけるともっとおいしくなるんだよ!あたし、あんたの分もお茶を入れたげるね。」

「勝手にさわるな!」そう言いながらおそらくヌボチは王様のイスからちっとも離れようとしないので、ポンポンは大丈夫だろうと思ってお茶を入れてやって、おそらくヌボチの王様のイスのとなりのテーブルにお茶とジャムをつけたビスケットを置いてやりました。

「これ、さっきね、白くまさんのとこでも食べたんだけど、焼きたてもおいしかったけど、冷めてからでもおいしいよ。あんたも食べなよ?」

「うるさい、命令するな!ボクは食べたいときに食べたいものを食べるんだ!今、ボクが食べるって自分で決めたから食べるんだ!!」

ずっと不機嫌な顔をしていたおそらくヌボチはビスケットがおいしかったからか、さっきよりも機嫌がなおったような顔をしました。

「それで、あんたがヌボチさんなの?」

「そうだ。ボクはヌボチだ。お前は誰だ?」ヌボチがそっぽを向いて答えました。

「あたしはポンポンだよ。紫色を探しに来たの。」

ヌボチは悪い魔法使いではなく、不機嫌な子供でした。キンティールの話で、もっと悪い人だと思っていたポンポンは少し拍子抜けしてしまいました。

ヌボチがポンポンの方を見て尋ねました。

「お前のその、耳につけているのは、なんだ?」

「これ?」ポンポンは耳飾りをさわって答えました。「これはションシャンシャンの都のキンティールのおばば様に作ってもらったの。ダイヤはキンティールのおばば様の印で、この色が七色なのは、あたしの髪の毛の色なの。」

「それ、ボクにくれ。」ヌボチはポンポンの耳飾りを欲しがりました。

「えー…でもこれ、ずっとつけてろって言われたんだけど…」ポンポンはちょっと嫌な顔をしました。

「それをくれたら紫色をやる。」

あんなにないって言っていた紫色はやっぱりあるみたいです。ポンポンはおじじ様やキンティールが、ゴマーベールの塔で耳飾りが役に立つと言っていたのを思い出しました。

「役に立つって、こうゆう意味かなー…うーん……いいよ、あげる。」

ポンポンは耳飾りをはずして、にっこり笑いながらヌボチに渡しました。

「あんたが紫色をくれるなら、プレゼント交換だね。」

「プレゼント…?」ヌボチが怪訝そうな顔をしました。

「お友だち同士はプレゼントし合うんだよ。村のおばばが言ってた。」

「友だち…」ヌボチは、少しだけボーッとしたような、なんとも不思議な顔をしました。

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