第4話・お姫様は目玉転がし大レースをご所望。
キーンと耳鳴りがして、いつまでもバェェの叫び声が耳に残る中、バェェはついにふくらむのを止めた。
バェェの煙は本から出てて、本から離れられないみたいで、ワタアメみたいな体をボヨンボヨンって揺らしてる。
ポンッ!!
次の瞬間、バェェの中から女の子が出てきた。
女の子は体長30センチくらいで、なんとも幼児体形をしている。バェェみたいにモコモコした髪の毛に、お姫様みたいなヒラヒラふわふわした服を着てる。
ちなみに女の子が出てきた時、バェェは一度はじけて消えたけど、本から出てくる煙でまたふくらんで元の大きさに戻った。
女の子は宙に浮かんだままで、目を開けてから、あたし、ピッピ、バェェ、ピッピ、あたし、ピッピ、バェェの順で見てからバェェにこう聞いた。
「バェェよ、我が寝入ってからどれ程経ったのだ?」
「バェェ」
「そうか。そんなに経ってしまったのか。」
「バェェェェ」
「では、この世界にはどれ程残っておるのだ?」
「バェバェェェ」
「なんと!それはちと、急がねばならぬな。」
「バェェェェェ」
(ば、ばぇぇぇぇぇ?)
女の子とバェェが会話しているのを、あたしとピッピはポカーンと口を開けて見ていた。
女の子があたしとピッピの方を向いて、あたしとピッピを上から下までまじまじと見てきた。
あたしもピッピもなんだか落ち着かなくて、ソワソワと女の子のドレスのレースとか、バェェの鼻毛とか、開いた本のページの角とかをキョロキョロと忙しなく見回した。
「子等よ。」
女の子の声であたしとピッピはシャキッと姿勢を正してお行儀よく前を見た。
「そなたらがこの書物の鍵を開けたのだな?」
「はい!」ピッピが答える。
「我が寝入っておる間に、この世界には茶色と灰色しか無くなってしまったと、このバェェより聞き及んだ。」
「バェェェ」
「ああ、今は土の色と空の色と呼んでおるのか。このままではやがて土の色も無くなり空の色だけになる。そして空の色が次第に濃くなり、やがてこの世界は黒一色、すなわち夜の色だけになってしまうであろう。」
「夜の色って…なんにも見えなくなっちゃうの?」
「左様。全てが夜に包まれてしまうであろう。」
ピッピの質問であたしはふと、疑問が浮かんできた。
「あの、あの、お姫様?」
「姫?我のことか?なんだ、子よ。」
「あの、あたし、おばあちゃんから、ずーっと昔の王様が色を禁止しちゃったから土の色と空の色しか無くなっちゃったって聞いたんですけど…」
「王様?」
「はい。フィンガーブレット大王の時代らしいです。」
「フィンガーブレット!!なつかしいな!あの小僧が大王と呼ばれる程になったのか!」
「バェバェバェェェ」
「そうだな!あの目玉転がし大レースは、それはそれは愉快であった!まだあの大レースはやっておるのか?」
「…いえ、やってません…」ピッピが顔をひきつらせて答えた。
「そうか。しかし、この世界には、今は赤色すらないのであろうから、たしかにあの大レースをやるには、ちと面白味に欠けるであろうな。」
「バェェェェ」
「そうだな!色が戻った暁にはあの大レースを是非とも復活させるべきだな!」
「あ、あのぉ…」完全に忘れられてるあたしはビクビクしながらお姫様に声をかけた。
「おお、すまん。色はな、色は禁止されたのではない。禁止せざるを得んかったのだ。」
「え!?」あたしとピッピはビックリしてお姫様の顔を見た。
「かつてケルーンの反乱よりこの国を救いしモンサッサルーノ大王は青き太陽の池より現れし七色柳の女神の遣いの化身であるペヨン・ポロロロヌスの血脈によりもたらされし…」
「バェェェェェ!!」
突如始まったお姫様の語りにあたしとピッピがポカンとしてたらバェェがお姫様を止めに入った。
「うむ、そうか…。まあよかろう。簡単に説明すると、色の化身である我は、かつて悪しき者に毒を盛られた。その毒から救うため、フィンガーブレットが我をこの書物の中にバェェと共に封じ込めた。長き時を経て我の毒は浄化されたが、我と共に色も封じ込められていたため、この世界には色が無くなったのだ。」
「毒を盛った悪い奴ってどうなったの?」
「じゃあ、お姫様が出てきたから、この世界に色は戻るの?」
あたしとピッピは同時にお姫様に聞いた。
「あの悪しき者は、毒を盛られた時に我が始末したので問題はない。今頃、白き魔法使いと共に地底で蒸しあげられているはずであろう。これだけ長き年月をかけたのだ。今頃さぞ香ばしく仕上がっておるはずだ。完成が楽しみだな、バェェよ。」
「バ、バ、バ、バェェェェ」
「色については分からぬ。我が寝入ってる間にどうやら置いてきてしまったようだ。」
「置いて…どこに…?」
「この書物の中だ。我は目覚めたばかりで、まだこの世界と色をうまく繋げれぬ。子等よ。そなたら、この書物の中に入って色を取り戻してまいれ。」
「え?」
あたしとピッピが同時に言った瞬間に、目の前が今までで一番まぶしくて強い光でいっぱいになった。
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