第3話・下手な隠しもんが「バェェ」と鳴いた。
ピッピに押されながら、うんざり顔のあたしは物置に向かった。
物置は地下にある。10段くらいの階段をおりて右側が食料庫で、ママが作ったお菓子とか保存がきく肉だとかが置いてある。左側はママのお裁縫道具で、糸とか毛糸とか布とかいっぱいある。階段からまっすぐ行ったつきあたりにシーツとか毛布とかカーテンとかが置いてある。地下にある物置らしく、ちっちゃい窓が1つだけ上の方についていて、地面とすごく近いのになぜか空が見えて、いつだってオバケが出てきそうなくらいヒンヤリしている。
「ピッピ、あんたなんだって、そもそも物置に入ったりしたのよ?」あたしはピッピにぶーたれた。
ピッピはケロっと言い放った。
「あんたのママがあたしのために焼いたチョコレートケーキが物置にあるから、好きなだけ取ってきて食べていいって言うんだもん。ついでに奥の引き出しに入ってるシマシマのカーテンを持ってこいって言うから。開けたらあんたの下手な隠しもんを見つけたのよ。」
ママは物置の階段をおりるのが嫌いと言って、実はオバケを怖がっているので、誰かかわりに行ってくれる人を捕まえてはジャムだのバターだのベーコンだのを取ってこさせるのだ。
あたしはピッピにせっつかれて下手な隠しもんが入っている下から2番目の引き出しを開けた。
本好きのピッピは、あたしのカモフラージュがお気に召さなかったみたいで、開いて伏せておいた本は閉じられて同じ引き出しに入っていた。その横に鹿の柄の包み紙が入っている。本と包み紙をどけると、薄い色が残ったリボンとかボタンとかが一気に目に飛び込んできて、物置が薄暗いせいか、あたしもピッピもとっても目がチカチカしてしまって、何度もまばたきをした。
「これって、昔はもっと色が濃かったんでしょ?」
「らしいよ。」
「だったら昔の人って、いっつも目がチカチカして、きっと目から星が飛んでたんだろうね。」
「それか、眩しくてなんにも見えてなかったかもね。」
おばあちゃんのおばあちゃんの本は久々に持ってみたら思ってたよりずっと重かった。鍵穴のところの留め金は金属でできていてとってもピカピカ光っていて、ボコボコって蔦みたいに浮き上がってる部分がある。表紙と裏表紙は布張りでツヤツヤのスベスベで角度を変えると金属とは違う光り方をする。表紙には真ん中より少し上にまるくてキラキラしてうっすら赤い色をした大きい石みたいなものが埋め込まれていた。ツヤツヤしてスベスベしてるけど金属とは少し違うみたい。裏表紙の布も真ん中くらいが金属の留め金のボコボコの蔦と同じ感じでちょっと浮かび上がってて、なにか、上の方が膨らんでいるモコモコのワタアメみたいに見える。よく見ると、そのワタアメの所々に目と鼻と口みたいに見えるのが何個かついていて、ちょっと気持ち悪い。そのモコモコの上の方に“Baeeeee”って文字が浮き上がっている。背表紙は濃い土の色の革で、そこにも小さく“Baeeeee”って書いてあった。
「ばぇぇ?」
あたしとピッピは同時に呟いて一緒に首をかしげた。
その瞬間に表紙の真ん中に埋め込まれているピカピカした石みたいのが更にピカって強く光った。
ピカピカの光がすごく強くて、あたしもピッピも両手で目をおさえたけど、ピッピの方があたしより先に目を開けられた。
「ねえ、これ…赤だっけ?さっきよりすごく赤くなってるよ!」
あたしもようやく目を開けれて見てみたら、たしかに本の表紙についているピカピカした石みたいのがさっきまでの薄い赤色じゃなくて濃い赤色になっている。
「ピッピ、これさ、すごい赤いね…」
「…うん、すごいね。これがドキドキ…?」
「…多分。」
あたしもピッピもピカピカした石みたいのに吸い込まれちゃうんじゃないかってくらい、まばたきひとつしないで、ずーっと見つめていた。
「あれ?ねえ、そっちのもすごい赤くなってない?」
ピッピがあたしの首にさげている本の鍵を指差した。鍵の上のハートが本の表紙のピカピカした石みたいのと同じくらい赤くなっている。
「ホントだ…」
「赤いね…」
「赤い。うん…赤いね。」
あたしもピッピも、なんだか頭がまわんなくて鍵と本の赤いとこばっかり交互に見つめてた。
こんなに目をまるくして光るものを見たことがなかったから、だんだん目が痛くなってきて、あたしもピッピも両手で目をゴシゴシとこすってみた。
「ねえ、ピッピ、これ、鍵開けた方がいいかな?」
「もっと光るかもね!」
「もっと?」
「そう。本全体がピカピカーって!」
ピッピがイタズラっぽく笑うから、なんだかあたしは気が抜けちゃって、思いきって本の鍵を開けてみることにした。
「あ、あけるよ…?」
「う、うん…」
あたしもピッピも生唾を飲み込んだ。
鍵穴に鍵をさした瞬間、鍵穴と鍵が合わさったところから明るい金色になって、その金色が金属のところ全部に広がっていった。こんなピカピカ見たことない…。
(赤色じゃなくてもドキドキするんだ…)
あたしは頭の片隅でそんなことをぼんやり考えながら鍵を開けた。
鍵を鍵穴から抜くと、金属の留め金がカチッという音を立てて勝手に開いた。留め金がはずされた本も勝手に開いて、風が吹いたときみたいにページがパラパラパラーってすごい速さでめくられていった。
あたしもピッピも目なんてさっきよりも大きく開いて(目玉がこぼれなかったのが不思議なくらい)口も大きく開けて、ただただめくれる本を見つめていた。
そのうち本がピタッと、あるページで止まった。
あたしとピッピは我に返って本に近付こうとした瞬間に、本の開いたページからモクモクモクと、少しずつ煙が出てきた。そこから小さく何か聞こえてくる。
「…バェェェェ…」
「ばぇぇ?」
あたしとピッピはまた同時に呟いて一緒に首をかしげた。
すると本から出てる煙がどんどん大きくなって、それに合わせて小さかった声も大きくなってくる。
「バェェェェェ!!!!」
「ばぇぇぇぇぇ~~~~!!!」
バェェの登場と同時に、あたしとピッピは絶叫した。
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