第5話・黒の涙が海になるから太陽が泣く。

深く深く広がる漆黒に落とされた一雫の涙がこの世界の始まりでした。

黒はどこまでも黒く、どこまでも広がります。

見渡す限り上も下も前も後ろも全て黒。

深くて濃い漆黒がどこまでも続いていきます。

いつまでたっても、どこまでいっても黒はひとりぼっちでした。

黒はただたださびしくて、このさびしいと思う心までもがいつか黒く染められて、何もないただの黒い世界になってしまうのかと思うと、黒はただただ恐ろしく、あふれでる涙を抑えることができなくなりました。

あふれた涙はひざをかかえる黒の足元にポタリ、ポタリと落ち、一つ落ちるとその雫が波紋となって広がっていきます。

だけど黒はひざをかかえているので、涙の雫が足元にどんどんたまっていることにちっとも気が付きません。

黒がようやく気付いた時には、涙の雫は涙の池になっていました。ビックリした黒はさらに涙をこぼしました。

そうして黒の涙はどんどんどんどん増えていき、やがてこの世界に海ができたのでした。

黒があんまりたくさんの涙を流すので、その涙粒は大きなかたまりになって落ちていきました。

涙の海はとても黒かったのですが、涙のかたまりと合わさると海の黒い色が少しずつ薄くなってきました。

薄い色は少しずつ少しずつ広がっていき、黒は、この薄い色は黒とは違う色だと気が付きました。

黒は薄い色のことを青と呼びました。

青はどんどんどんどん広がって、涙の海全部を青く染めました。

黒はとても喜び、もう一粒、涙のかたまりを落としました。

そのかたまりはとても大きかったので、海に落ちずに跳ね返り、ずーっとずーっと上の方に飛んでいきました。

それが真上にきたときに弾けていっぱい広がったので、海の青よりも薄い、空になりました。

青も黒と一緒に喜んで、青はたくさん手を叩いて喜びました。青が手を叩くたび、パチンパチンと星が弾け飛びます。

パチンパチン・星はたくさん増えていきます。

黒も楽しくなって一緒にパチンパチンと手を叩きます。

黒の手からもパチンパチンと星がたくさん出てきます。

黒の星と青の星がぶつかると、きいろい星になって、ヒューっと空にたくさん飛んでいきます。

パチンパチン。ヒュー。

パチンパチン。ヒュー。

空は一面、星になってキラキラピカピカになりました。

そのうち星があんまり増えすぎたものだから、空におさまりきらなくなって、少しずつ大きなかたまりになっていきました。

星のかたまりはどんどんかたまって大きくなっていって、黒がこぼした涙のかたまりよりもずっとずっと大きくなって、ついには太陽になってしまいました。

太陽はとっても大きくて、とってもあたたかくて、とってもキラキラしているので、黒も青もとても喜びました。黒と青が喜んでいるのを見て、太陽も嬉しくなって大きなまばたきをしました。

太陽がまばたきを一つするごとに、海の底から、ポコッポコッと太陽のかけらが浮かんできます。

ポコッポコッ。

太陽のかけらはどんどん増えて、ついには島ができあがりました。島は太陽のかけらと海の色を合わせた茶色でした。

茶色の島はあたたかくてフワフワしてたので太陽と青はとても喜んで、手をまたパチンパチンと叩いて星を飛ばしました。

その星は今度は島に飛んでいき、ポコンッポコンッとみどり色の草が生えてきました。

太陽と青が仲良く手をパチンパチンと叩く度に星が飛んでみどりの草がどんどん増えていきます。

太陽と青はとても仲が良くて、弾け飛ぶ星はたまに赤いのが混ざっています。

横で見てた黒はその赤い星を少しだけ飲み込んでしまいました。

なんだかお腹が少しだけ痛いような気がしたのですが、一瞬だったので、黒は気のせいかな?と思って、太陽と青と一緒になってパチンパチンと手を叩いて星を飛ばしました。

黒も一緒に叩くようになったので、とてもたくさんの色の星が生まれました。

黄色の星、みどり色の星、赤色の星、青色の星、橙色の星、桃色の星、紫色の星…。

たくさんの星たちはみどり色の草のところに飛んでいって、お花や果物になりました。

そうしてこの世界にはたくさんの色が生まれました。

色たちはたくさん増えて、たくさん大きくなります。

色たちはみんな手をパチンパチンとするのが好きでした。そうすると新しい色がたくさん生まれるのです。

みんなとても楽しそうなので、黒もみんなと一緒に手をパチンパチンとします。

でも、不思議と黒が近付いていくと、みんな少しだけ遠くに行ってしまい、他の色と一緒に手をパチンパチンとしています。

あれ?どうしてだろう?

そのうち、黒と一緒に手をパチンパチンとしてくれる色はどこにもいなくなってしまいました。

横で見てる黒のところに、赤と紫の星の小さな小さなカケラがいっぱい飛んできます。

黒はまた少し飲み込んでしまい、また少しお腹が痛くなります。

もう、お腹が痛くなるのは気のせいではないと気付いていましたが、仲間はずれにされた黒はさびしくて、小さい赤と紫の星のカケラを飲み込むのをやめることができません。

他の色たちは黒のことなんか気にしないで、どんどんどんどん新しい色を生んでいます。

そうして最後に生まれたのが、白でした。

白は、みんなに好かれました。

みんな、白と新しい色をつくりたかったのです。

白はとっても、とくいになりました。

そのうち、白は黒を見付けました。

黒は、白は新しい色だから、きっと一緒に手をパチンパチンとしてくれると期待しました。

ところが白は黒に、こっちに来るな!と言いました。

黒はビックリしました。

とってもビックリして、飲み込んでいた赤と紫の小さな小さな星のカケラを全部、口から出してしまいました。

みんなビックリして遠くに行ってしまいました。

白が遠くから叫びます。

こっちにくるな!出ていけ!!

黒はとっても悲しくなって、とってもたくさん涙が出ました。

とってもとってもたくさん涙が出ました。

海ができた時よりもたくさんの涙が出ました。

黒が気付いた時には、もうまわりには他の色はいませんでした。

それどころか、黒の涙は黒の肩までたまっています。それでも黒は涙を止められません。

空と太陽だけが、悲しそうに黒を見ています。

空と太陽も一緒になって涙を流し、その涙は黒の海に落ちていきます。

空と太陽の涙では、黒の海の色を薄くすることができません。

黒の涙はやっぱり止まりません。

いつまでもいつまでも泣き続け、ついには黒は涙の海の中にすっぽりと入ってしまいました。

もう、空も太陽も見えません。

すべてがただの黒い世界になってしまいました。

空と太陽は、いつまでもいつまでも黒のために涙を流し続けました。

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