第31話・弾ける星と白くまのおばあちゃんの焼きたてビスケット。
ドアを開けてみると真っ白な部屋が目に入りました。ポンポンはドアの鍵穴から鍵を抜いて鞄にちゃんとしまってから塔の中へ入りました。
ポンッ!!
塔の中に入った瞬間、ポンポンは元の大きさに戻ってしまいました。
ポンポンが大きくなった拍子にぶつかったドアは閉まってしまい、塔の中はドアがあった場所もわからないくらい、上も下も右も左も、全部最初に見た時よりも一面真っ白な部屋になりました。
「うわー…、すごい真っ白…。」
ポンポンの声がポワンと部屋に響いて、すぐに消えてしまいました。
色も音もない、不思議な部屋です。
ポンポンは部屋の真ん中に行ってみようと、足を一歩動かすと、コロンっと足の下から小さな小さな星が一粒飛び出してきました。もう一歩動かしてみると、またコロンっと足の下から星が一粒飛び出します。最初の星よりも少しだけ大きい感じがします。
「うわーっ!なにこれ、すごーい!!」
ポンポンは今度は両足でジャンプしてみました。するとまたコロンっコロンっと両方の足の下から、さっきよりも大きい星が一粒ずつ飛び出しました。ポンポンは楽しくなって、いっぱいジャンプして、いっぱい星を出しました。次から次へと、どんどん大きくなる星が増えていくので、塔の二階の部屋はあっという間にいろんな大きさの星でいっぱいになってしまいました。
もうすぐ天井までついてしまいそうなところまできてしまい、ポンポンは立っていられなくなったので、寝っ転がってみることにしました。ポンポンがそこら辺から星を一粒取って別の星のところに投げてみると、ぶつかってまた大きな星が一粒増えました。すると、横になっているせいでしょうか、ポンポンはだんだん眠くなってきてしまい、うとうとと夢の中へと入っていってしまいました。
夢の中でもポンポンはたくさんの星の中でフワフワプカプカと浮かんでいます。
フワフワプカプカユラユラしています。
フワフワプカプカユラユラ
フワフワプカプカユラユラ
トプンッ
気が付いたらポンポンは水の中にいました。
なんだかとっても重たい水の中でポンポンはぼんやりと「息ができないなー」と思っていました。
息もできないし、水がとっても重たいので、体がろくに動きません。
すると、どこからともなく、ハートの泡が出てきました。バンパルネールの森のギムナージュの泉の藻から出ていたのと同じハートの泡です。ハートの泡はどんどんポンポンの体にまとわりついてきます。夢の中だからでしょうか、不思議とポンポンは杖を持っていないのでハートの泡を減らすことができません。
さすがにポンポンもちょっと苦しくなってきたので、なんとかハートの泡をどかせようと重たい腕を目一杯動かしました。
パチンッ!
まとわりついていたハートの泡がポンポンのつけていたトンギース島でもらった七色柳の腕輪にぶつかって弾けました。
七色柳の腕輪にぶつかったハートの泡は次から次へと弾けて、全部弾けてなくなったところで、急に重力を思い出したようにバシャッという大きい音とともにポンポンは地面に落ちて水が全部消えてしまいました。
どうやら夢から覚めたようです。ポンポンは汗びっしょりになってしまいました。
呆然として、ポンポンがまわりを見渡してみると、あんなに真っ白だった部屋は水でペンキが落とされたみたいに普通の部屋になっていました。(少しだけ白い部分は残っていましたが。)
ポンポンは上の階に行ける階段を見つけ、塔の三階へと向かいました。
階段をのぼり、三階の部屋に入ってみると、「はぁー、はぁー」と、とっても退屈そうなため息が聞こえてきました。
塔の三階は、とっても居心地の良さそうな部屋で、石造りの立派なかまどと暖炉があって、かわいらしい窓が3つにちゃんとレースがかかっています。床にはモコモコのまあるいじゅうたんが敷いてあって、フカフカのソファーと濃い色のツヤツヤなテーブルがあります。暖炉のすぐ横に小さいテーブルとロッキングチェアに座って揺られている白くまのおばあちゃんがいます。退屈そうなため息の正体は、この白くまのおばあちゃんのようで、おばあちゃんみたいな眼鏡とエプロンをつけて、退屈そうに編み物をしています。
「白くまさん、こんにちは。」
白くまのおばあちゃんは、ポンポンをチラッと見てからすぐに編み物に目を戻して、「はぁー、こんにちは。」と、退屈そうにため息をついて言いました。
「白くまさん、あたしこの塔に紫色を探しに来たの。」
「紫色?おじょうちゃんは、侵入者なの?」白くまのおばあちゃんが、編み物をする手を止めてポンポンの方を見ながら尋ねました。
「しんにゅーしゃ?それ、なあに?」ポンポンは首をかしげました。
「あたしもよく分からないわ。侵入者は入れちゃダメだって言われてるのよ。」
「あたし、色の魔法使いだよ。ポンポンっていうの。」
白くまのおばあちゃんは眼鏡をちょっとあげて、ポンポンを上から下までじっくりと見ました。「…なら、違うのかしらねぇ~?」
「うーん、多分違うと思うよ?」ポンポンはヘラっと笑いました。
「あなた、お茶でもしていかない?」白くまのおばあちゃんが編み物を置いて立ち上がって、かまどの方に行きました。「ちょうど焼き上がったばっかりのビスケットがあるのよ。」
焼きたてのビスケットは、とってもいい匂いだったのでポンポンはお茶を飲んで行くことにしました。「あたし、ジャム持ってるよ。」
「あら、ビスケットにちょうどいいわね。」
「おいしいね!」
「ホント!おいしいわね。」
ポンポンと白くまのおばあちゃんはニコニコ笑いながらお茶を飲んでビスケットを食べました。
「この塔に紫色があるとしたら、いちばん上にヌボチさんがいるから、聞いてみるといいわよ。」白くまのおばあちゃんは、さっきポンポンが紫色を探しに来たと言ったのを思い出して言いました。
「ヌボチさん?」
「そう、ヌボチさん。あたしもよく知らないけど、今はヌボチさんがこの塔の六階にいるみたいよ。」
「今は、ヌボチさん…?」ポンポンは、そういえば、この塔には悪い魔法使いがいるのを思い出しました。
「ヌボチさんって、おっかないの?」
「さあ、あたしも会ったことがないから、よく分からないわ。」白くまのおばあちゃんは、ビスケットの最後の一口にジャムを少し多目につけながら、そう言いました。
別れ際に白くまのおばあちゃんはジャムのお礼にポンポンにマフラーをくれました。
「いっぱいあるから持っていきなさい。退屈で編み物ばっかりしてるのよ。このマフラーはとってもよくのびる糸でできてるのよ。」
「ありがとう。でも、今つけたら暑いから鞄に入れといて、冬になったら使うね。」
「あんたみたいな子が遊びに来てくれたら、もうちょっと退屈しないですむんだけどねぇ…。」白くまのおばあちゃんはちょっぴり寂しそうに言いました。
「あたし、色集めが終わったら、白くまさんに会いにまた来るよ。」
「あら、うれしい!」白くまのおばあちゃんはにっこり笑いました。「またビスケットを用意しておくわ。」
「じゃああたし、メリーベール村の、おじじ様のキノコのベリー漬けを持ってくるね。」
ポンポンもにっこり笑いました。
「そうだわ。途中でお腹がすくかもしれないから、ビスケットを少し持っていきなさい。」
そう言って、白くまのおばあちゃんはポンポンにビスケットを持たせてくれました。
「ありがとう、白くまさん。またね!」
ポンポンはマフラーとビスケットを鞄にしまいこんでから、四階への階段をのぼっていきました。
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