第25話・砂漠の旅。麻袋から愛を送る。

「わらわは帰らぬ。そもそも、わらわはシャチーハタに連れ去られたのではない。わらわはシクオースの第八王子であるレヴィナ殿下に嫁ぐために自らこのシクオースに参ったのだ。」

「姫様!!」キャプレ6世は絶望的な顔をしました。

「キャプレ6世よ、そなたも知っておろうが、このシクオースではシャチーハタの良質な朱の油が採れる。わらわはここに来て、1年近く経つが、わらわの手腕により朱の油で莫大な富を築いたのだ。わらわは今となっては、このシクオースになくてはならぬ存在となった。わらわはシクオースを離れるつもりはないぞ。」

「そんな…姫様…。家臣一堂、姫様のお帰りを首を長くして待っておりますぞ…!」

「そんなにわらわに会いたくば、そなたらもシクオースに移り住めば良いではないか。繰り返し申すが、わらわは帰らぬぞ。」

「姫様…。」キャプレ6世はさめざめと泣き始めました。

「あの、ディアレ姫様。」ポンポンがおずおずと手をあげました。

「おお、すまぬなポンポン殿。どうされた?」

「あの、あたし、朱の油が必要なんです。キャプレ6世さんが、シクオースまで来れば朱の油が手に入るって言ってたの。」

「そうか。それでは、ポンポン殿に朱の油をお渡ししよう。かわりと言ってはなんだが、ここで女々しくうずくまっているキャプレ6世をモンタルタルまで連れ帰ってくれんか?」

「うん、いいよ。ありがとう、ディアレ姫様。」

ディアレ姫は召使いに朱の油を持ってこさせ、ポンポンに渡してくれました。

「キャプレ6世よ、道中ポンポン殿に迷惑をかけぬようにな。モンタルタルの皆に、わらわは元気にやっていると伝えるが良い。」

「姫様…。」やっぱりキャプレ6世はさめざめと泣いています。

「キャプレ6世さん、帰ろうよ。

ディアレ姫様、朱の油をありがとうございました。」

キャプレ6世はポンポンに手を引かれて、ようやっと立ち上がりました。

「姫様…お体にはお気を付けてお過ごしください…。」

「ああ。

ポンポン殿、すまないがキャプレ6世をよろしく頼む。」

「はい。ディアレ姫様、さようなら。」

後ろ髪をひかれるように何度も立ち止まっては振り返るキャプレ6世を引きずって、ポンポンはバェェの待つ地上に戻っていきました。


ポンッ!!

地上に出た途端、ポンポンは元の大きさに戻りました。

「バェェ!!!」暑い中待ちくたびれて顔が4つになってしまったバェェはポンポンにポヨンポヨンと体をぶつけてすり寄ってきました。

「バェェ、ただいま!朱の油が手に入ったよ!モンタルタルの砂漠まで戻ろう!ほら、キャプレ6世さんもおいで!」

ポンポンはキャプレ6世に手を出して、ポンポンの手をつかんできたキャプレ6世をスカートのポケットに入れてからバェェに乗りました。


「そんな・・・!!」

「うそだろ・・・。」

「姫様…。」

モンタルタルの砂漠の小人達は、ディアレ姫が帰らないと聞いて、揃いも揃ってさめざめと泣いて嘆き悲しみました。

「私が何度言っても、姫様は帰らぬの一点張りで…。そんなに会いたくば、シクオースに移り住めとおっしゃるのだ…。」

「そんな・・・!!」

「うそだろ・・・。」

「姫様…。」

いつまでたってもこの調子なので、日が暮れそうだなあと思いポンポンは小人達をその場に残して、大サボテンに向かいました。

もし小人達がシクオースに移り住むなら、朱の油の事を教えてくれたお礼に小人達をシクオースに連れてってあげようと思ったので、またあとで戻って来ると、小人達に伝えておきました。

「バェェ、大サボテンが見えてきたよ。」

「バェェェ」バェェは大サボテンの上にゆっくり降りて行きました。

「じゃあ、朱の油をかけるね。」

「バェ!」

ポンポンは大サボテンの上から朱の油をポトポトっと振りかけました。

朱の油を全部かけ終わって少し様子を見ていると、朱の油を吸った大サボテンは少しフルフルっと震えてから、チクチクのトゲが生えているところからジワーっと朱色の汗を出しました。そして、その汗は、ポンポンがかかげた杖にスーっと入っていって、ちゃんと杖の魔石の一部が橙色になり、ポンポンの髪の毛もまた、少し七色が増えました。

「バェェ、見て!もう髪の毛が耳の下まで七色になったよ!もうすぐだね!」

「バェェェェ!!」ポンポンとバェェはボヨンボヨンと跳ねて喜びました。

「さあ、小人さん達のところに戻ろう。もう泣きやんでると良いんだけど。」

「バェェ~」


オアシスまで戻ると、小人達は砂漠の歌を泣きながら歌っていました。ポンポンとバェェの姿を見て、キャプレ6世は膝をついてポンポンに言いました。

「ポンポン殿、我等モンタルタルの小人をシクオースのディアレ姫様のところまで連れて行ってはくれぬだろうか?」

「うん。いいよね、バェェ?」

「バェェ」バェェはボヨンと一回跳ねました。

「じゃあ、ちょっと人数が多いから、この袋にみんな入ってね。」ポンポンは鞄から出した麻の袋を地面に置きました。

小人達は、モンタルタルの砂漠を離れるのと、ディアレ姫に会えるのとで、嬉しいような悲しいような、自分達でもよくわからない顔をして麻の袋に入っていきました。


シャチーハタの巣の入口でポンポンとバェェは小人達とお別れをしました。

「ポンポン殿、そなたのご好意を我等小人族は生涯忘れないでしょう。お礼といたしまして小人族の秘宝であるリピスターリピマックスをもう一粒差し上げましょう。」

キャプレ6世はポンポンにリピスターリピマックスが1粒入った小さな瓶を渡しました。

「ありがとう、キャプレ6世さん。小人さん達も、みんな元気でね。」

「バェェ」

小人達はシャチーハタの巣の入口でポンポンとバェェが見えなくなるまでいつまでも手を振り続けていました。ポンポンとバェェは小人達が小さいので本当はすぐに見えなくなっていたのですが、シャチーハタの巣が見えなくなるまで、ポンポンは小人達に手を振り続けたのでした。

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