第26話・のろし台横在住の魔女は歯を出してニッと笑う。

「ドールブラーイス山脈か…。」

ションシャンシャンの都のキンティールは、ポンポンから次はドールブラーイス山脈に桃色を取りに行くと聞いて難しい顔をしました。

「あの山脈にはのろし台がいくつかあってね、桃色が取れるとしたら1つ目と2つ目ののろし台のちょうど真ん中の所。そこが夕焼けの時にいちばん桃色に見えるよ。桃色になるのは陽が落ちる直前だけだから、絶対にタイミングを逃しちゃいけないよ。」

キンティールが難しい顔をし続けているので、ポンポンは少し不安になってきました。

「そんなに難しいの?」

「ああ、桃色をつかまえるのは難しくないはずだよ。」キンティールは笑ってポンポンに答えました。「ただ、あそこののろし台には魔女がいてね。はっきり言って、あんまりいい魔女じゃないんだよ。あんたなんか、簡単に騙されそうだから、あそこの魔女には絶対に会わないようにするんだよ。もし会っても絶対に話しちゃいけないからね。」

「うーん…わかった。会わないように、頑張ります。」

ポンポンは悪い魔法使いにも悪い魔女にも会ったことがないので、キンティールの言うことが、少しよく分かりませんでした。

「いいかいポンポン、くれぐれも気を付けて行っといで。ああ、耳飾りはちゃんと着けてるね。絶対に耳飾りをはずさないようにね。」

「はーい。いってきまーす。」


「キンティールのおばば様ったら、なんであんなに心配してたんだろうねー。」

「バェェェ」

「うーん…。なんかわかんないけど、キンティールのおばば様の言う通りにした方が良さそうだよね。」

「バェ!」

バェェが高いところを飛ぶのが苦手なのと、夕焼けの桃色の時間まで、まだたっぷりと時間があったので、ポンポンとバェェはドールブラーイス山脈をのんびり歩きながら登っていきました。

「バェェ、見て!見て!珍しいお花や草がいっぱい生えてるよ。おじじ様に持って帰ったら喜ぶかな?」

「バェ…」バェェは舌を出して、うつろな顔をしていました。

「バェェ!!どうしたの!?大丈夫!?」近付いてみると、バェェはなんだか薄く見えました。

「あんたのバェェちゃんは空気が薄い所が苦手みたいだね。」

ポンポンは突然声をかけられ、ビックリして振り返りました。

そこには真っ黒い服に、とがった帽子をかぶったおばあさんが立っていました。

「山の上は空気が薄いから、ほら、さっきから、あんたのバェェちゃんは息が苦しそうだよ。」

「そうなの、バェェ?」ポンポンはバェェのモクモクした体にさわってみました。

いつもならポンポンが乗ったらボヨンと弾力があるのですが、今は雲みたいにスカスカしています。

「バェ…」バェェはコクコクと、うなずきました。

「大丈夫だよ、お嬢ちゃん。あんたのバェェちゃんは何か、この山の物でも食べりゃすぐに元気になるよ。」

そう言って、おばあさんはどこかに行ってしまいました。

「あのおばあちゃん、この山の人かなあ…?」

「バェ…」

「あっ、大変!バェェ、待っててね!すぐ戻るから!」

そう言ってポンポンは、バェェが好きそうな苔を探しに行きました。

山なので苔は至る所にあります。ポンポンはバェェが喜びそうな木にびっしりはりついた苔をナイフでそぎおとして、急いでバェェのところに戻りました。


「バェェ!バェェ!」

バェェは苔を一口食べるとすぐに元気になって、自分でも山の苔を食べに飛んで行き、すぐに大きくなって戻ってきました。バェェはさっきまでのスカスカの雲みたいな体ではなく、いつもみたいにボヨンと弾力のある体に戻っていて、もうポンポンを乗せて飛ぶこともできるくらい元気になりました。

「バェェ、よかったね!あたし、あんたが消えちゃうんじゃないかって心配しちゃったよ!」

「バェェェェ」

ポンポンとバェェはぴょんぴょんボヨンと跳ねて喜びました。


ポンポンとバェェはのろし台とのろし台の間のいちばん桃色に見える場所を目指して、また歩き始めました。まだ太陽が真上にあるので急ぐ必要はないのですが、山がいちばん桃色になるタイミングを逃したら大変なので、ポンポンとバェェは早めに行って待つことにしました。

しばらく山を登ると、一つ目ののろし台が見えてきました。

のろし台の横には小さい山小屋があって、さっきのおばあさんが出てきました。

「おや、さっきのお嬢ちゃんだね。あんたのバェェちゃんはすっかり元気みたいだね。」

「バェェ」バェェはボヨンボヨンと跳ねました。

「おばあちゃん、さっきはどうもありがとう。バェェも元気になったよ。」

「そうかい、よかったね。お嬢ちゃん、小屋でお茶でも飲んでいかないかい?」

「この小屋、おばあちゃんの小屋なの?」

「そうだよ。」おばあさんは小屋のドアを開けてポンポンを手招きしました。

「それじゃ、おばあちゃんは、のろし台の魔女なの?」

「そうだよ。あたしゃこの一つ目ののろし台の魔女だよ。」

ポンポンはパッと両手で口をおさえました。バェェもサッと全部の口を閉じました。

「どうしたんだい?」一つ目ののろし台の魔女が不思議そうにポンポンを見ました。

ポンポンは両手で口をおさえたまま答えました。「あたし、あなたとお話しちゃダメなの。もう行かなきゃ。さようなら。」

バェェも口を閉じたままうなづいています。

「どうしてだい?誰かに言われたのかい?」

ポンポンは言うかどうか迷いましたが、一つ目ののろし台の魔女に話しました。もちろん口はおさえたままです。

「ションシャンシャンのキンティールのおばば様が、のろし台の魔女と話しちゃダメって言ったの。」

「あの、ばばか!!」一つ目ののろし台の魔女は目を三角にして怒りました。

「あのキンティールのばばは、昔っからあたしたちのろし台の魔女3姉妹に意地悪するんだよ!あたしたちはこんな山で寂しくおとなしく暮らしてるっていうのに、あのキンティールのばばは、あたしたちが誰かと仲良くしようとするのが気に入らないんだよ!」そして、一つ目ののろし台の魔女はさめざめと泣き始めました。

「この山はとっても寂しい山でね、次ののろし台にはあたしの妹がいるんだが、こんなばばの足じゃとても山は登れないもんだから、ちっとも会いにも行けないし、毎日毎日退屈しているんだよ。」

ポンポンとバェェはなんだか一つ目ののろし台の魔女がとってもかわいそうに見えてきました。

「だけど、あんたはキンティールのばばと仲良しみたいだから、あたしと仲良くすんのは嫌だろう?」

ポンポンは両手を口から離して答えました。

「嫌じゃないよ。嫌じゃないけど、あたし、この山には桃色を取りに来たから、山がいちばん桃色になる時に、一つ目ののろし台と二つ目ののろし台の間にいなくちゃいけないの。だから、ゆっくりお茶を飲んでいる時間はないの。」

「バェェ」バェェも舌を出して1回だけボヨンとしました。

「そうかい。それじゃあ、引きとめちゃ悪いね。」一つ目ののろし台の魔女は歯を出してニッと笑いました。

「だけど、まだ夕焼けまで時間があるから、すまないけど、2つ目ののろし台にいるあたしの妹に届けもんをしてくれないかい?それで持っていってから、ここと二つ目ののろし台の間に戻っても、まだ時間はたっぷりあるよ。」

「それならいいよ。」

「すまないね。このお菓子を持って行っとくれ。」そういって一つ目ののろし台の魔女は紙袋に入ったお菓子をポンポンに渡しました。

「お嬢ちゃんとバェェちゃんにはお礼をしたいから、また帰りにあたしんとこに寄っとくれよ。」

「わかった、行ってくるね。」ポンポンは、一つ目ののろし台の魔女の言うとおり、二つ目ののろし台にいる魔女のところへ向かいました。

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