色の始まりの物語

苔海苔

第1話・内緒で隠したため息は、土の色と空の色のせい。

こっそり入った地下室にある小さい窓から、濃い土の色をした夕空を見上げ、息をひそめて3日分のため息を飲み込んだ。


どうやらピンク色と水色とラベンダー色がこの世界にあればみんな幸せになれるらしい。

だけどママのママのママのママの世代のアンクルペッパー大王の時代からこの国には茶色と灰色しかなくなってしまった。だから茶色のことは土の色、灰色のことは空の色と呼んでいる。あとは肌の色くらいしかない。

ママのママのママのママのママのママの世代のフィンガーブレット大王の時代からこの国では明るい色が禁止されてしまい、ママのママのママの世代のみの虫丸々大王の時代からは明るい色を直接見たことがない人がたくさん増えてきて、ママの世代のバックンパック大王の時代では明るい色を知らない人がほとんどで、あたしの世代のつむじワウワウ大王の時代では色って概念すら知らない人ばっかりになった。


なんであたしがそんなことを知っているかっていったら、あたしんちは代々チョコレートの包み紙とか、チョコレートの箱を包むリボンとかレースだとか、チョコレートの箱に貼るシールとかボタンだとかを昔々のおとぎ話のお姫様の時代からそうゆう細々した物を作っていたから、あたしはおばあちゃんちの屋根裏でそうゆうキラキラした物をいっぱい見つけたんだ。

そうゆう物を昔は“かわいい”っていってたらしい。

でも、そうゆう物は、おばあちゃんのおばあちゃんがこっそり隠していたもので、見つかっちゃうと兵隊さんがいっぱいやってきて全部持ってかれちゃうし、持ってけないものは全部土の色にされちゃうんだって言ってた。

だからあたしは、おばあちゃんのおばあちゃんの形見の昔はピンク色という色がついていたらしいサテンのリボンだとか、昔はいろんな色がついてたらしい鹿の絵が描いた包み紙だとか、昔は金色という色で縁取りされていた貝殻のボタンだとか、おばあちゃんが言うにはいつの間にか色がなくなっちゃったそうゆう細々した物のことが全部書いてあるらしい鍵がついた布張りの分厚い本を誰にも見られちゃダメなのに、おばあちゃんに貰った時に絶対全部誰にもバレない場所に隠したのに、幼なじみのピッピに見られてしまったあの日は、生まれて初めて呼吸の仕方を忘れてしまったんだ。

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