第8話・ベリー漬けのキノコでお腹に顔がある妖精を釣り上げる。
こうしてポンポンは色の辞書を作るべく、色を集める旅(その前に色の杖を作る旅でしたね。)に出発したのでした。
バェェも一緒です。
「バェェェェ」バェェは外に出られて、なんだかとっても嬉しそうです。ポンポンは道端に落ちていた木の棒を拾って振り回しながらバェェに聞きました。
「あんた、バェェっていうの?」
「バェェ」
「あんた、なんなの?煙?綿?」
「バェェェ」
「あんた、バェェしか言わないの?」
「バェェ」
ポンポンはため息をひとつついてから地図を広げました。
「まず、杖に使う木を取りにバンパルネールの森に行かなきゃないんだよね。」
「バェェェ」
「杖って、どんなのがいいかなー?」
「バェェェェ」
ポンポンはうーん、と考えます。バェェも一緒に考えます。
「うーん。おじじ様の杖って細くってそんなに長くないでしょ?あたしは、おっきい杖がいいなー。あたしの背とおんなじくらいの」
「バェェェ」
「そんでね、濃い茶色がいいな。黒に近い茶色でウネウネした木なの。」
「バェェェ」
「あっ。魔石をつけなきゃないんだよね!じゃーあ、杖の上に魔石をつけるのに、魔石を入れる用の、杖の上のとこを、こう、籠みたいな、あみあみにしたいなー。そしたら木のあみあみの隙間から魔石が見えるでしょ?」
「バェェェェ」
「あんた、ちゃんと分かってるの?返事ばっかり立派なんだから。」
「バェェ」バェェはなんだか嬉しそうにボヨンボヨンとしました。
ポンポンはそんなバェェを見て、クスッと笑いました。
「まあ、いいわ。」
メリーベール村から半日くらい行った所にバンパルネールの森はあります。
「この森、おじじ様とは一緒に来たことあるけど、1人で来るのは初めてだな…。」
少しだけ不安そうなポンポンを元気づけるようにバェェが「バェェ」と言い、ボヨンボヨンと跳ねました。
「1人じゃなくて、あんたも一緒だったね。」ポンポンが少し、緊張がとけたように笑いました。
「おじじ様と来たときはね、森の奥に泉があったの。たしかギムナージュの泉。そこにね、木がいっぱい生えてたの。いろんな色のきれいな木だったんだよ。そこに行ってみよっか。」
「バェェェ」
バンパルネールの森は、このアンギンザラー大陸でいちばん暗い森です。ポンポンもそう言ってましたね。なので、おじじ様と一緒に来たときにはすぐにギムナージュの泉に辿り着けたのに、今回はちっとも泉が見付かりません。ポンポンとバェェはお腹もすいてきたし、少し休憩をすることにしました。
「あすこの、陽が当たってるとこがいいね。そこで休憩しよう?おじじ様がね、ベリーとキノコのサンドイッチを持たせてくれたんだよ。バェェも食べる?」
「バェェェェ」バェェは左右に揺れました。多分サンドイッチはいらないんだと思います。
「バェェはなんも食べないの?」
バェェはキョロキョロとあたりを見回して、何かに気付きすごい速さで飛んでいきました。そして、そこに生えている木に近付き、木にくっついている苔をバェェについている5つの口の前歯を使ってガシガシと食べ始めたのです。
「あー。バェェは苔を食べるんだ!口がいっぱいついてて良かったね!」
「バェェェェ」バェェはとても嬉しそうです。
ポンポンもサンドイッチを食べます。おじじ様特製のベリーとキノコのサンドイッチです。でもポンポンはこのサンドイッチに入っているベリーで漬けたキノコが実は嫌いだったので、こっそりとキノコだけ抜き出して、キョロキョロとあたりを見回し、誰にも見られていないと確認してからキノコをそこら辺に投げてしまいました。
すると、そのキノコめがけて何かが飛び出してきて、キノコを口でキャッチしました。
この森に住む妖精です。
妖精と聞くと、透明の羽が生えた小さな美しい女の子かと思いますが、この森の妖精は、とても気持ち悪い姿をしています。
体の大きさは、小さめのコップくらいなので妖精らしいのですが、頭は真ん中がはげていて、頭にはりついた髪の毛が横からヒョロヒョロっとのびていて、細長い三つ編みが1本さがっています。
普通の妖精みたいに、とがった耳と透明な羽が生えていますが、小さい目が2つ、いいえ、目に見えるほっぺたのシミが2つ、その上に縦についた大きな目が1つ。お腹がポッコリと出ていて、そのお腹には別の顔がついています。そのもう1つの顔は妖精の三つ編みの先をモグモグと噛んでいます。妖精にはしっぽが生えていて、その先にはもう1つの大きい目がついていて、時々まばたきをしています。
妖精のあまりの気持ち悪さにポンポンは声も出せずにサンドイッチをそのまま妖精に投げつけました。
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