第45話・モコモコよ潮風に 吹かれピンクの毛玉を食べる

離れスミレ諸島は、カンドンゴラ海をずっと南に行ったところにあります。

オシーゲの大渦を渡った時と違って、どのくらい行ったら辿り着くのか正確な距離がわからないので、ポンポンはバェェがちゃんと飛べるのか心配になりました。

「バェェ、あんた大丈夫?海はなんにもないから、休憩もできないんだよ?」

「バェ!バェ!」バェェはいつも通りボヨンボヨンと2回跳ねました。

「ピョンピョンしんぱい。バェェ、かざんで、ちっさくなった。」

ピョンピョンも耳をタランと垂らして心配しています。

「試しに、バェェさんに少しだけ海を飛んでもらうのは、どうでしょうか?」

「バェェェ!!」バェェは一回だけボヨンと跳ねて、海に飛び出して行ってしまいました。


「どこまで行っちゃったんだろう…。」

ポンポンたちが今いるトイトイトー小岬は海の彼方の遠くまで見渡せるのですが、右を見ても左を見てもバェェの姿は見当たりません。

「バェェ、とけちゃった?」ピョンピョンがコロコロ転がりながら言いました。

「ピョンピョンちゃん、やめてよ!!」ポンポンはビックリして大きな声を出しました。

「あ!見てください!あれは多分バェェさんですよ!」ロロさんが海の方を指差しました。

そこにはたしかに雲みたいにフワフワプカプカ浮かんだバェェがいました。

ただし、バェェはとっても小さくなっていて、2つになった顔で必死にこっちに向かって飛んできています。

「バェ…バェ…」

ヨダレをいっぱいたらしながら、なんとか戻ってこれたバェェは、2つしか残っていない顔を地面にこすり付けて、生えている草をモシャモシャ食べ始めました。

すると、バェェの体はみるみる大きくなって、あっという間にいつものサイズに戻り、顔もちゃんと5つになりました。

「バェェェェェェ…」バェェが5つの口からため息を5つつきました。

「バェェ、危なかったねー!」ポンポンはバェェの体をボヨンボヨンとなでました。

「バェバェ」バェェはポンポンの方を見て、いつも通りボヨンボヨンと2回跳ねました。

「バェェ、もどった!バェェ、もどった!」ピョンピョンもうれしそうに、バェェのまわりをコロコロ転がっています。

「しかし、バェェさんで行けないとすると、どうしましょうか…。」

ロロさんがあごに手をあてて考え込みました。

「離れスミレ諸島まで船で行けないの?」と、ポンポンはロロさんに尋ねました。

「離れスミレ諸島には昔から、怪魚伝説があるので、行ってくれる船があるかどうか…。」

「バェェ…。」バェェは、自分じゃ海を飛べないからか、しょんぼりしています。

「バェェ、気にしなくていいよ!バェェのせいじゃないもん。」

ポンポンはバェェににっこり笑いました。

「じゃあ、バンパルネールの森のギムナージュの泉から行こうか。あと一回分あるし。」

「ぎむなじゅ?」ピョンピョンがピョコンピョコンと首をかしげました。

ポンポンはカバンから、バンパルネールの妖精にもらった移動ができる液体のビンを出して、ピョンピョンとロロさんに見せました。

「これを飲むと、どこでも好きな場所に行けるの。ギムナージュの泉でしか使えないんだけどね。

あたしだけしか飲まなくても、バェェと一緒に移動できたから多分大丈夫だと思うの。

でも、バンパルネールの森には妖精さんがいて、あたしの髪の毛を食べたがるから、あんまり行きたくないんだ。」

ポンポンは、妖精のことを思い出して、少しイヤな顔をしました。

「では、髪の毛を見られないようにしてはどうでしょうか?ポンポン様の髪の毛を食べたがる不届き者には、その美しいおぐしを見せてやらなければいいのです。」

ロロさんがにっこり笑って言いました。

「そっか!なんか布…。」ポンポンはカバンにビンをしまってから、白くまのおばあちゃんにもらったマフラーを取り出しました。

それをロロさんに手伝ってもらいながら頭をグルグル巻きにしました。髪の毛は全部見えなくなりましたが、バラの種を入れた髪の毛の籠の上からグルグル巻きにしているので、頭がとっても大きくなってしまって、両手でおさえていないとバランスを崩して倒れてしまいそうになってしまいます。

ポンポンとピョンピョンとロロさんは、バェェに乗り込みました。

ポーツネールの村からバンパルネールの森までは、そんなに遠くはないのですが、ポンポンがバェェの上から転がっていかないように、ロロさんがちゃんと後ろからぽんぽんの頭をしっかりとおさえました。


ポンポンたちはバンパルネールの森に到着しました。

バンパルネールの森は、やっぱりとっても暗い森なので、ピョンピョンはとってもこわがって、丸い体を小刻みに震わせてプルプルと震えています。

ポンポンは、そんなピョンピョンをギュッと抱っこしてあげて、ピョンピョンが落ち着くようにピョンピョンのモコモコした体をモミモミしました。

今回はポンポンの髪の毛を隠せているせいか、妖精に出会うことなく、ギムナージュの泉に辿り着きました。

「やったあ!妖精さんに会わなかったね!」ポンポンはニコニコしながら言いました。

「バェバェ」バェェもうれしそうに、でもみんなが乗っているので、静かに1回だけボヨンとしました。

ポンポン、ピョンピョン、ロロさんは、泉の前でバェェから降りました。

「ピョンピョンちゃんは、このままあたしが抱っこして、ロロさんもあたしの頭をおさえたままで、あたしから手をはなさないでね?

あ!移動できるやつ、飲まなきゃないから、ピョンピョンちゃん、一回おろすね。」

ポンポンが地面にピョンピョンをおろすと、ピョンピョンは、まだ森がこわいのか、ポンポンの足に耳を巻きつけてピタッとくっつきました。

ポンポンは、そんなピョンピョンを見て、クスッと笑うと、カバンから出した移動できる液体を残っている分、全部を一気に飲みました。

それからピョンピョンを抱っこして、バェェに言いました。

「みんなでちゃんと移動できるといいんだけど…。バェェ、おいで!!」

「バェェ!」

バェェは、ピョンピョンを抱いているポンポンと、ポンポンの頭をおさえているロロさんをまとめて自分の体でグルグル巻きにして、ボヨンと大きく跳ねて泉の中に飛び込みました。

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