第19話・御身は魚の化身たる苔玉。苔の舞を奉納せよ。

「バェェ!食べちゃダメだよ!バェェ、やめて!」

ポンポンの不安は的中して、バェェはクドゥリ苔塚に着いて早々片っ端から苔を食べ始めました。

「バェ!バェ!」

バェェは苔に夢中でポンポンがいくら止めてもちっとも聞いてくれません。

あっという間に苔塚の階段の苔は全部バェェが食べ尽くしてしまいました。

バェェはお腹いっぱいになったのか、満足そうに5つの顔を上にして「バェェェェ」と言いながら寝っ転がりました。

「バェェったら!ダメって言ったでしょ!?クドゥリ様に怒られちゃうよ!」

ポンポンはカンカンになってバェェを怒りました。バェェもさすがに悪いことをしたと思ったからか、ポンポンに怒られたからかは分かりませんが、しょんぼりして苔でふくらんだ体をなんとか小さく見せようとしました。

「バェェ、クドゥリ様に謝りに行こう!おいで!」

「バェェ…」

ポンポンとバェェは、バェェが苔を全部食べてしまったせいで今となってはバェェのヨダレまみれのヌメヌメの階段をなんとかよじ登ってクドゥリ像のところまで来ました。

クドゥリ像はドワーフの奥さん達がかたまった時よりも立派な苔玉だったので、当然といえば当然、バェェはまた夢中でかじりついてしまいました。

「バェェ!やめてよ!ダメだってば!!」

ポンポンが泣いてバェェを叩いても、もうバェェの耳にはポンポンの声は届きません。またしても、あっという間にバェェはクドゥリ像の苔を全部食べてしまったのでした。

ポンポンはおじじ様や村のおばばとクドゥリ苔塚にはよく来ていたので、クドゥリ像はよく見ていましたが、クドゥリ像はいつだって苔にまみれているので、苔がなくなった姿はポンポンは初めて目にしました。

クドゥリ像は手足が生えていて、直立している魚の姿をしていました。大きい目と大きい口と大きい舌がついています。

「バ、バェ…」

さすがのバェェも悪いことをしてしまったと、さっきよりも大きくなった体をまたなんとか小さく見せようとしながら、ポンポンの様子をうかがっていました。

「バェェ、ユンユルガーの川から水をくんできて。階段もクドゥリ様も、あんたのヨダレだらけなんだならキレイにしなきゃ。」ポンポンはバェェをにらみつけて命令しました。

「バェェェェ!!!」

バェェは一目散にユンユルガーの川まで水をくみに飛んで行きました。

食べてしまったものは仕方がないので、せめてキレイにすればクドゥリ様は許してくれるかもしれない。そう思ってポンポンはバェェが水と苔を口から出したところを、鞄から出した布を使ってゴシゴシと拭きました。

「ほらバェェ、おいで!クドゥリ様にごめんなさいしよう!」

「バェェェェ…」

ポンポンとバェェはピカピカになったクドゥリ像の前に立って、一緒にクドゥリ像に謝りました。

「クドゥリ様、ごめんなさい。」

「バェェ、バェェェェ」

ポンポンとバェェはクドゥリ像にぴょこっと頭を下げました。

すると、クドゥリ像がピカーっとみどり色に光り、静かに首を動かしてポンポンとバェェを順に見つめました。

「バェェよ、あなたは苔が好きなのですね?」クドゥリ像はとっても高い声でバェェに尋ねました。

「バェェ!!」バェェはコクンコクンとうなづきました。

「クドゥリ様、ごめんなさい。あたしじゃバェェを止められませんでした。」

「バェェ…」バェェがまた小さくなろうとしています。

「いいのです。苔はまたすぐに育ちましょう。それにご覧なさい。あそこにさっきバェェが水をかけたでしょう?あの苔は水を浴びてとっても喜んでいますよ。」

そう言ってクドゥリ像はバェェが食べ残した苔を指差しました。たしかにキラキラ輝いて、とってもキレイでした。

「このところ雨がなかったので苔たちもあの喜びようです。

バェェよ、あなたはまだ残っている苔たちに水をお与えなさい。さすればその罪には問いません。」

「バェェ!」バェェは一目散にユンユルガーの川へ飛んで行きました。

「バェェ、頑張ってー!!」

バェェが水やりをしている間にクドゥリ像はポンポンに尋ねました。

「ポンポンよ、あなたは色の魔法使いですね?」

「そうです。今、色を集めていて、みどり色を探しに来ました。」

「それでは、あなたの着けている、その苔の髪飾りを私に渡してください。そして、私の満足のいく苔の踊りを踊るのです。

さすれば、あなたの杖にこの苔塚のいちばんみどり色の苔よりも更にみどり色を授けましょう。」

ポンポンはまずクドゥリ像におばばの苔の髪飾りをあげました。

クドゥリ像はそれをじっと見つめてから、大きい口からはみ出している大きな舌に乗せ、まるで飴玉でも舐めるかのように口の中でコロコロ転がしながら、ポンポンにはやく踊るように言いました。

メリーベール村には昔から苔の舞という踊りがあり、ポンポンは村でいちばん苔が好きなおばばからその苔の舞を仕込まれていたので、とってもじょうずに苔の舞をクドゥリ像に見せることができました。

「素晴らしい!!」

クドゥリ像はとても嬉しそうにポンポンに拍手を送りました。

水やりが終わったバェェはポンポンのそばに来て、クドゥリ像にほめられたことを2人でとても喜びました。

「色の魔法使いポンポンよ、ついて来なさい。バェェよ、あなたも放っておくとまた苔を食べてしまいそうなので、あなたもついて来なさい。」

そう言ってクドゥリ像は立っていた台座から降りて、ポンポンとバェェを案内しました。

一面苔だらけで、すき間から陽の光が射し込む苔のトンネルを抜けると広場になっていて、真ん中にキレイな苔玉が1つ置いてありました。

「ポンポンよ、この苔玉に杖をかかげなさい。」

「はい。」

ポンポンがクドゥリ像の言うとおり苔玉の前で杖をかかげると、苔玉からみどり色がすーっと杖の魔石に入っていき、また魔石の一部がみどり色になって、ポンポンの髪の毛もまたもう少し七色になりました。もうポンポンの髪の毛は半分は七色になっています。

「クドゥリ様、バェェ、やったよ!みどり色だよ!」

ポンポンは嬉しそうにクドゥリ像とバェェの方を見ました。

「では、大急ぎで戻りましょう。」

クドゥリ像がそう言って、バェェの方を見ました。

たしかにバェェは「バェ…バェ…」と言いながら目を丸くしてヨダレをいっぱいたらして、もう今にもそこらじゅうの苔を全部食べてしまいそうでした。

「うわっ、大変!バェェ、我慢してね!」

「バェェェェ」

こうしてポンポンとバェェはクドゥリ苔塚をあとにして、一旦メリーベール村に帰ることにしました。

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