第23話・黒き悪魔に拐われし姫君の救出に馳せ参じよう。

火山の次は砂漠です。

火山ほどではありませんが、砂漠もとっても暑い場所なので、砂漠を飛び回っているうちにバェェの顔は4つになっていました。

「うーん、おっきいサボテンはあるけど、杖を当てても何もないし、誰もいないし、困ったねー…。」

「バェェ…」

「あそこのオアシスで休憩しようか。」

ポンポンとバェェはオアシスの泉で一息つきました。バェェはお水をいっぱい飲んだので顔がちゃんと5つに戻っています。

「困ったねー。砂漠の話なんで、おじじ様にもおばばにもキンティールのおばば様にも聞いたことないしね。でもあのおっきいサボテンのところで橙色が取れるはずだから、もう一回あそこに行ってみようか。」

「バェェ」バェェがボヨンと一回だけ跳ねました。

「いたっ!!」ポンポンは突然チクッと痛みが走った腕をおさえました。

「いたっ!いたた!!いたい!なにっ!?虫!?いたい!!」チクッとした痛みは腕だけでなく、首や足や背中でもします。最初に痛くなった腕をもう一度じっくり見てみると、痛みで赤くなったところに小さな針みたいなものが刺さっていました。ボタンをつける時の針の半分くらいの長さです。

「なにこれ、針?」

「貴様!このモンタルタルの砂漠に何をしに来た!?」と、突然小さい声が聞こえてきたので、ポンポンとバェェは、どこから聞こえてくるのかとキョロキョロとあたりを見回しました。

「こっちだ、巨人!!」声はバェェの真下から聞こえてきます。声の正体は小人でした。

バンパルネールの森の妖精の倍くらいの大きさで、一枚の細長い布の真ん中に穴をあけてそこから顔を出したような簡単な服を着て、バェェの下からポンポンに吹き矢を向けていました。ひょっとすると、トンギース島のペヨン・ポロロロヌスのように、ポンポンの話を聞いてくれるまで、すごく時間がかかってしまうかもしれません。ポンポンはすぐに両手をあげました。

「あたし、攻めに来たんでも決闘しに来たんでも修行しに来たんでもないよ!!」

「何を言っているのだ、巨人!貴様は何をしに来たか落ち着いて申してみよ。」

どうやら、ペヨン・ポロロロヌスよりもすぐに話が通じそうです。

「こんにちは、小人さん。あたしはポンポンで、こっちはバェェです。あたしね、色の魔法使いで、モンタルタルの砂漠には橙色を探しに来たの。大きいサボテンから取れるはずなんだけど、何か知らない?」

「貴様…失礼した、ポンポン殿は色の魔法使いであられるか。」そう言って、小人は吹き矢を下ろしてくれました。

「私はキャプレ6世と申します。お前たち、ポンポン殿の腕に刺さった矢を抜いてさしあげろ!」キャプレ6世は家来の小人たちに指示を出しました。家来の小人はポンポンの体によじ登って、腕や首や足や背中に刺さった矢を全部抜いてくれました。

「キャプレ6世さん、あの大きいサボテンから橙色を取る方法を知らない?」ポンポンは改めてキャプレ6世に尋ねました。

「それでしたら、このモンタルタルの砂漠に昔から伝わる歌があります。」


モンタルタルの砂漠は

赤よりも土が多い

橙色の果ても見えぬ熱い砂


モンタルタルの砂漠は

赤よりも土が多い

この血を燃やし尽くす熱い砂


地の底からの渇きを

癒しものはただひとつ

砂の海のエメラルド

青く尖りし大サボテン


砂の奥の地の底より

どこともわからぬ地の底より

顔を覗かす黒き悪魔

長き体と巨大な頭

地中より這い出し

我等砂の民を脅かす


黒き悪魔のその名は

忌まわしき名はシャチーハタ

全てを噛みちぎる鋭い牙

全てを逃さぬ輝く瞳

額の印より出し朱の油


朱の油は砂に溶けて広がり

この砂漠の橙を更に濃くする


モンタルタルの砂漠は

赤よりも土が多い

橙色の果ても見えぬ熱い砂

この血を燃やし尽くす熱い砂


「おそらく橙色は大サボテンにシャチーハタの朱の油をかけることで採ることができるのだと思われます。」

「シャチーハタって、さっきの歌に出てきた黒い悪魔のこと?」

「そうです。このモンタルタルの砂漠から遥か東にあるサンピアーヌ海に面したヨンヨンピーの浜辺に実在する地中の悪魔です。」

「じゃあ、シャチーハタを連れてきて、その朱の油ってのをかければいいの?」

「いいえ。シャチーハタを連れてきても意味はありません。朱の油はシャチーハタの額から採れるのですが、それは満月の夜にしか採れないのです。」

「じゃあ、満月まで待たなきゃないの?」ポンポンは昨日が三日月だったことを思い出しながら尋ねました。

「ヨンヨンピーの浜辺には我等小人族の住む都、シクオースがあります。そこでは良質な朱の油が売られているそうなので、それが使えるかと思われます。」

「じゃあ、あたしシクオースまで行ってみるね。」

そう言ってポンポンはバェェによじ登りました。

「待たれよ、ポンポン殿!!」キャプレ6世がポンポンを呼び止めました。

「なあに?」

「シクオースに行かれるならば、モンタルタルの姫君であるディアレ姫を救いだしてきては貰えないだろうか!?」

「お姫様?シクオースにいるの?」

「左様。シャチーハタは四年に一度、春と秋に地中を移動し、モンタルタルの砂漠とヨンヨンピーの浜辺を行き来するのだが、昨年の秋にディアレ姫が捕らえられ、拐われてしまったのです。我等小人族にはヨンヨンピーの浜辺はあまりに遠く、このモンタルタルの砂漠もユールーリの川も越えることがとてもできないのです。」

ポンポンとバェェはうなづきあってから返事をしました。

「それはいいけど、あたしもバェェもディアレ姫の顔も知らないけど、大丈夫かな?」

「そのご心配にはおよびません。ディアレ姫の救出には、私、キャプレ6世も同行させていただきます!」

「それならいいよ。一緒に行こう。」

「バェェ」バェェはボヨンボヨンと跳ねました。

「ポンポン殿、ディアレ姫救出の際には、その巨体では何かと不便かと思われますので、我等モンタルタルの小人に伝わる秘宝であるリピスターリピマックスを差し上げましょう。これを一粒かじれば、その持て余した巨体が我等小人族と同じサイズになるのです。」

ポンポンは、巨人だとか巨体だとか言われて、ちょっとムッとしましたが、とにもかくにもポンポン、バェェ、キャプレ6世の3人はディアレ姫救出とシャチーハタの朱の油を手に入れるため、ヨンヨンピーの浜辺にあるシクオースの都へと向かいました。

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