第12話・暗い暗い泉の底で藻から届いたハート。
「おばば、おじじ様のキノコだよ。」
「おや、ポンポンかい?あがってきなさい。」
ポンポンの住むメリーベール村は魔女や魔法使いの隠れ里です。おばばも魔女です。
おばばは見るからに魔女みたいな鷲のクチバシみたいな鼻をしていて、笑うと口が横にいっぱい開きますし、笑い声は「ケヘヘ」なんて高いので、悪い魔女みたいに見えますが、実はとってもいい魔女です。
いつもポンポンにおもしろいおまじないや、古い魔法使いや神様の話をしてくれます。
「ポンポン、こっちにおいで。後ろを向いてね。苔塚の苔を魔法でかためた髪飾りだよ。
あー、よく似合う。すっかりお姉さんだね。」
「おばば、ありがとう!」
「これはクドゥリ様の苔でできてるから大事にするんだよ。」
「うん!あっ!バェェ、食べちゃダメだよ!」
「バェェェ」
バェェはちょっと残念そうな顔をしました。
さあ、これでようやっと色集めの旅に行けますね。
まずはバンパルネールの森に黒を取りに行きます。
バンパルネールの森は、やっぱり暗い森です。そこかしこに黒がありそうなくらい暗い森です。
でも今度は大丈夫。陽が当たっている所で、また妖精にキノコをあげたら、きっと黒がありそうな、この森でいちばん暗い場所がどこか教えてもらえるはずです。
ポンポンはサンドイッチを持って妖精を呼びました。
「妖精さーん。キノコだよー。」
妖精はキノコのにおいにつられてすぐに出てきました。
やっぱり気持ち悪い見た目をしているし、お腹の顔と半分ずつサンドイッチを食べる姿も気持ち悪いです。
「この森でいちばん暗いのは、ギムナージュの泉の中だ。」お腹いっぱいになった妖精が教えてくれました。
ポンポンは、また髪の毛が欲しいと言われたらイヤなので、急いで妖精にお礼を言って泉に向かいました。
ギムナージュの泉はとってもキレイな泉です。前におじじ様と来た時に泉の水を飲んだらとってもおいしかったし、コンコルド鉱山に行った時に入ったので、妖精にこのバンパルネールの森でいちばん暗い場所だと言われましたが、ポンポンは不安に思わず泉の中に入っていきました。泉の水はとっても冷たいけれど、外が暑かったので気持ちいいくらいでした。
ポンポンは泉の真ん中に向かって水をこいで行きました。水の深さは腰くらいです。
本当に黒がこの泉の中にあるのかな…?そう思った瞬間に、
ドプンッ。
泉が急に足もつかないくらい深くなって、ポンポンは泉の中に全身入ってしまいました。
あんなに透明に光っていた泉なのに、中に入ってみると真っ暗で、まわりがろくに見えません。移動する薬を飲んだ時と泉の中は全然違います。
でも妖精は泉の中がいちばん暗い場所だと言っていたので、きっとどこかに黒があるはずです。
ポンポンはあたりをキョロキョロと見回しました。
すると、目が慣れてきて、まわりに浮かぶ藻がたくさん見えてきました。
藻からは泡がたくさん出ています。ハートのカタチの泡です。そのハートの泡はどんどんどんどんいっぱい出てポンポンの体にまとわりついてきます。もう、目の前はハートまみれです。
首も顔のまわりも全部ハートまみれなので、ポンポンはがむしゃらに杖を振り回しました。
すると、ハートの泡がポンポンの杖の魔石に吸い込まれていき、振り回した杖で藻がふわっふわっとどかされて、その奥にある黒を発見しました。
黒はまるい玉でした。藻の中でふわふわただよっています。
ポンポンが黒の玉に杖を当ててみると、杖の魔石の中にすーっと、黒が入っていって、黒い玉はなくなってしまいました。
ザバーッ!
ポンポンは泉の中から、外に出てきました。
「バェェ、取ったよ!杖の魔石に黒が入ったよ!」ポンポンはそう言って泉のほとりで待っていたバェェに杖を見せました。
「バェェェェ」バェェは嬉しそうにボヨンボヨンとしました。
杖を見てみると、杖の魔石の一部だけ黒くなっていて、ポンポンの髪の毛は先のところが少しだけ七色になっていました。
「あれ!?黒を入れたからかな?」
「バェェ!!」
バェェが大きな声をあげたので、ポンポンが顔を上げてみると、泉のまわりに妖精がいっぱい集まってきてて、みんなポンポンの髪の毛を見ています。
たいへんです。妖精はやっぱり気持ち悪いです。
「バェェ、おいで!!」
ポンポンはあわててバェェを呼んで、泉から移動できる液体を瓶の半分だけ飲んで泉にもぐりました。
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