第15話・我は色を司りし者。モコモコのバェェをハートのカタチにしてくれようぞ。

サンボーラの祠はアメーリアの祠と同じ造りをしていました。

ただ、小さい柱に乗っているものと、祠の屋根の部分と、祠の真ん中にあるもののカタチが違います。

サンボーラの祠では、ゴツゴツした四角いものが小さい柱の上に乗っていましたが、アメーリアの祠では同じ大きさのキレイな丸いものが乗っていました。祠の屋根もまるい扇状になっていて、祠の真ん中にもツヤツヤして丸くて大きいのが置いてあります。それから祠の屋根を支える柱はアメーリアの祠とは逆に真ん中が膨らんだ柱が何本かたっていました。

小さい柱の横を通る時は、アメーリアの祠と同じように小さい柱の上の丸いものがポンっと順に明るくなっていきます。

ここもアメーリアの祠と同じように、なんともおごそかな場所で、声や咳、足音1つ立ててもいけない気分になりました。やっぱりポンポンはなるべく足音を立てないように爪先だけで歩き、バェェも可能な限り体を小さくして、2人とも息をひそめて祠まで移動しました。

祠に到着すると、真ん中にある丸くて大きいものは、触ってみるとやっぱり体がフワッと浮き上がります。やっぱり丸くて大きいものは、ポンポンが触ったところからジワーっと明るい光が広がっていき、ポンポンの口からアメーリアの祠の時と同じ言葉が自然と出てきました。


我は色を司りし者なり

我に支えし者よ

我の命に従い

我の求める鍵を与えよ


アメーリアの祠の時と同じように丸くて大きいものは、強く光りました。そして静かに金色の鍵が飛び出してきました。

ポンポンは鍵を手にしたあとは、やっぱりゆっくり地面に降り立ち、まだふわふわした感覚のまま、丸くて大きいものをボーッと眺めましたが、アメーリアの祠の時とは違い、先程の言葉の意味を考えていました。

「色を司りし者」だとか、「我に支えし者」だとかです。

ポンポンは、もちろん自分が色の魔法使いであることは重々分かっているつもりですが、「色を司る」とは実際のところ、どういった意味なのだろうか。何ができて、何をすべきなのか、といったことを考え、また、「我に支えし者」とは誰のことだろうか、鍵そのものがポンポンに支える者なのか、それともポンポンに支える者が鍵を与えてくれたのか…。

いろいろ考えたところでちっとも分からないので、ポンポンはとりあえず考えるのは後回しにして、今は先に進むことに決めました。



オシーゲの大渦はその名の通り、見たこともないくらい大きな渦でした。

これではたしかに船で行くことはできなそうです。

「バェェに乗ったら越えれないかなぁ?」

「バェェ!」

オシーゲの大渦はとっても大きな渦です。下を見るのが恐かったので、ポンポンはバェェにしっかりとつかまって、ギュっと目をつぶりました。バェェも緊張しているのか、いつもより多くヨダレが出て、いつもより目がいっぱい開いています。

渦の真ん中まで来たとき、突然強い風が吹いて、ポンポンとバェェは元いた岸に戻されてしまいました。

ポンポンもバェェも突風のせいでゴロンゴロンと地面に転がってしまいました。

「あいててて…、ダメだね。」

「バェェ…。」バェェはとっても悲しそうです。

「うーん、どうしよっかー。やっぱりハートがなにか考えないとダメだね。」

「バェェ」

「ハートねー。ハート…。うーん、ハート…。」

「バェェ。バェェェ。」

ポンポンとバェェはうんうん考え込みましたが、さっぱり分かりません。

「そういや、ギムナージュの泉で、藻から出たハートのカタチの泡が杖にいっぱい入ってったんだった!あれ、なんとか出せないかな!?」

「バェェ!」バェェはボヨンボヨンと嬉しそうに跳ねました。

ポンポンは杖から出てくるように「ハート…ハート…」と、頭でいっぱい考えて、ハートのカタチと、ハートが杖から出てくるのを目一杯イメージしました。

「バェェェェ…」バェェもハートが出てくるように、自分のモコモコの体をハートのカタチにして、全部の目で力一杯杖を見ています。

「うーん…………ダメだー!!!」

「バェェェェ」

いくらがんばっても杖からハートが出てきてくれません。ポンポンとバェェは地面に寝ころがって、空を見上げました。

「うーん…あの泡のハートのことじゃないのかなぁー?」

ポンポンは寝っころがったまま、何の気なしに杖でハートのカタチをいくつか宙に描きました。

すると、あんなにがんばっても出てこなかったハートの泡が次から次へとポコポコポコっと出てきて、大渦の真ん中に入っていきました。

ポンポンとバェェは互いに見つめ合ってから、ハートがどうなるのかと、大渦の方に黙って目をやりました。

しばらくすると大渦の真ん中が、まるでまばたきでもするかのように小さく横に閉じられて、そこから黄色くなったハートがバチンッと音を立てて出てきて、それからポンポンの杖めがけてまっすぐ飛んできました。

ポンポンの書いた『色の始まりの物語』の太陽のまばたきのようにバチンッバチンッとたくさんのハートが出てきて、ポンポンの杖にむかって飛んできます。それはそれは小さなハートだったのですが、杖の魔石にたくさん入っていき、魔石の一部が黒や青と同じように黄色になり、ポンポンの髪の毛もまた少しだけ七色の部分が増えました。

「バェェ、やったよ!黄色だよ!」

「バェェェ」

ポンポンとバェェはぴょんぴょんボヨンと跳ねて喜びました。

大渦を見てみると、渦の真ん中がハートを出した時と同じく閉じられて静かな渦になっています。今なら渡れるような気がします。

「バェェ、行ってみようか!」

「バェェ」

ポンポンとバェェはうなづき合ってから思いきって、また大渦の上に飛び立ちました。今度は大丈夫です。大渦の真ん中にきても風で飛ばされたりしません。

ポンポンとバェェは無事にトンギース島に上陸することができました。

オシーゲの大渦の方をもう一度見てみると、大渦の真ん中は元のように開かれ、また元の大渦に戻っていました。

「あー、帰りはまたハートを飛ばさなきゃね。」

「バェェ」

ガチャッ。

その時、ポンポンとバェェの耳のすぐ横で何か音がしました。

見てみると、とっても大きなよく切れそうな槍がポンポンとバェェに向けられています。

ポンポンは静かに両手を上げました。バェェも口を閉じてヨダレをたらすのをやめました。

槍を向けてきた人は、奇妙な仮面をつけていて、ポンポンとバェェにこう言いました。

「お前たち、ついてまいれ」

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