第28話・ほんの1時間ばかしお願い事をさせてもらう。

のろし台の魔女は昨日と同じように大急ぎでポンポンよりも早く山小屋に来て、ポンポンのことを待っていました。

「ああ、すまないね。あたしの好きなお菓子だよ。お嬢ちゃん。今日はまだまだ時間はたっぷりあるし、ちょっと早いけどお昼ご飯を食べてっとくれ。」

「えー、でも…」ポンポンはソワソワと外を見ました。

「なあに、まだお昼前だから太陽だって真上まで行ってないだろう?それに、昨日あたしたちがあんたに色々頼んじまったもんだから、結局夕焼けの時間に間に合わなかったろう?そのお詫びをさせてくれんかねえ?」

「うーん…」たしかに夕焼けまではまだまだ時間はたっぷりありました。

でもポンポンは、やっぱりキンティールの言葉を思い出して、早く立ち去った方がいいような気になっていたのです。それでものろし台の魔女はポンポンよりもうわてでした。

「あたしはこの山小屋で毎日毎日一人で寂しく過ごしてるんだよ。あんたみたいなかわいい子がせめて今日くらい一緒にご飯を食べてってくれたら、少しは慰めになるんだがねえ。」

そう言ってのろし台の魔女は泣きまねをしました。のろし台の魔女の泣きまねに気付かないポンポンは結局お昼ご飯を食べることになってしまいました。


「おばあちゃん、ごちそうさま。あたしもう行くね。」

「あいてててててて」のろし台の魔女がお腹をおさえながらポンポンに言いました。

「お嬢ちゃん、すまないけど、ほんの1時間ばかしでいいからお腹をさすってくれないかい?久々に誰かと一緒にご飯を食べたら、あんまり楽しかったもんだから食べすぎちまったみたいでね。どうもお腹のおさまりが悪いんだよ。」

のろし台の魔女はお腹が痛いふりをしたのですが、ポンポンにはそれが嘘だとわからなかったので、結局お腹をさすってやることになってしまいました。

「1時間だけだよ?」

「ああ、1時間だけ頼むよ。まだ太陽がようやっと真上に来たくらいだから。今日はたっぷり時間があるからね。」

のろし台の魔女は歯を出してニッと笑いました。


のろし台の魔女のお腹を1時間さすったポンポンは今度こそ引きとめられないように慌ててドアの方に行きました。

「じゃあね、おばあちゃん。あたしもう行くね!」

「ああ、そしたらこの飲物を一つ目ののろし台の姉に届けておくれ。」

「え~…」ポンポンはとっても嫌な顔をしました。

「一つ目ののろし台の姉は昨日あたしにお菓子を持たせてくれたろう?あたしも一つ目ののろし台の姉に何かお礼がしたいんだよ。普段は腰が悪いもんだからちっとも会いに行けないからねえ。それにまだ今日は太陽も上の方にあるから時間は昨日よりたっぷりあるよ。今日だったら一つ目ののろし台まで行ってから戻ってきてもたっぷり時間があるから、ゆっくり行ってきたって遅れやしないよ。どうか、あたしの頼みを聞いてくれんかねえ?」

「うーん…、いいよ。今日はまだ時間があるしね。」

またしてもポンポンはのろし台の魔女の意地悪に引っかかってしまいました。


「こんにちは、おばあちゃん。二つ目ののろし台のおばあちゃんが、この飲物を一つ目ののろし台のおばあちゃんに持ってけって言うから、持ってきたよ。」

ポンポンは早く立ち去りたくてソワソワしながらのろし台の魔女に飲物を渡しました。

「あ、ああ、すまないね、お嬢ちゃん。」

のろし台の魔女はゼーゼー言いながらポンポンから飲物を受け取りました。やはりのろし台の魔女はもう若くないので、1日に2回ものろし台を移動したら疲れてしまうみたいです。

でもポンポンはそんなことを知らないので、またしてもうっかりのろし台の魔女を心配してしまいました。

「おばあちゃん、大丈夫?」

「ああ、また昨日みたいにこの飲物をコップにそそいどくれ。」

「え?昨日みたいに?」ポンポンはのろし台の魔女に飲物を入れたコップを渡しながら、おかしいなと思いました。

のろし台の魔女は飲物をゴクゴクと一気に飲んで、すぐに答えなくていいようにごまかしました。

「ねえ、おばあちゃん、昨日みたいにってどういう意味?」ポンポンはのろし台の魔女にもう一度尋ねました。

「それは、ほら、それはあれだよ、そうだ、お嬢ちゃんは昨日あたしに親切にしてくれたろう?二つ目ののろし台にいる妹にお菓子を届けてくれただろう?」

「うん…、ちゃんと届けたよ。」

ポンポンはなんとなく納得できなかったけれど、のろし台の魔女がそう言うなら、そういう意味なのかなあと思いました。

「バェェェェ~」

「あ!もう行かなきゃね!」バェェに呼ばれて、ポンポンは時間がないことを思い出しました。「早く行かなきゃ、桃色の時間に間に合わなくなっちゃうの!」

「ちょっと待っとくれ!あいた!!」ポンポンが出ていくのをむりやり止めようとして、のろし台の魔女は転んでしまいました。

「えっ!おばあちゃん、大丈夫?」

「あいてててててて。ちょっと、立つのを手伝っとくれよ。」

「うん、大丈夫?」ポンポンはのろし台の魔女に手をかして椅子に座らせてやりました。

「あー、痛い、痛い。おじょうちゃん、すまないけど、ほんの1時間ばかしでいいから、足をさすってくれないかい?とてもじゃないけど、痛くて耐えられないよ。」

「うん…、1時間だけだよ?」

「ああ、1時間だけ頼むよ。まだ陽も傾いてないから、すんだ後からゆっくり行ってもちゃんと夕焼けの時間に間に合うよ。」

そう言ってのろし台の魔女は歯を出してニッと笑いました。

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