14話 私は今ご飯を食べます

 小夜世 黒さよせ くろとレェーヴが宿に戻ってから少しして、シュテンが目を覚ました。

 どうやら本人の中ではいつの間にかお酒を飲んで寝てしまったことになっているらしい。勝手にお酒を飲んでしまってごめんなさいと言ってきたときは黒とレェーヴは首を傾げた。


 「じゃあシュテンちゃんも起きたことだし、ご飯食べにいこっか」


 「そうじゃの。4大国の1つだけあって美味しいものが多そうじゃ」


 「私も....いい?」


 「当たり前だよシュテンちゃん~」


 「ありがとう...です」




 ここ東の国イルミールには人間界に4本あるうちの1本の層ダンジョンが丁度中心にそびえ立っている。見た目からすると、螺旋階段しか入っていないのではないかと思うほど細い塔なのだが、中には広大な空間が広がっているらしい。外と中とでは空間の有りようが違うということだ。

 それはさておき、イルミールは大まかに4つの地域に分けられている。歓楽街、宿泊街、商品街、飲食街だ。

 中心の層ダンジョンに向けて東西南北の入口からメインストリートが4本伸び、それに囲まれた場所に区分けされている。東南を宿泊外、西南を歓楽街、北東を飲食街、北西を商品街だ。黒達は今、北東の飲食街を歩いていた。


 「うひゃー...すごいね...」


 「そうじゃの...圧巻じゃ」


 「.....人間多い...」


 丁度夕飯時ということもあり、飲食街はかなりの賑わいを見せていた。特に酒場が多く見受けられ、冒険帰りの冒険者らしき男達が豪快に飲み物をあおっている。食事もその豪快さに合わせるように、巨大な骨付き肉などがずらりと並んでいる。

 黒はあんな肉を現実でみることになるとは思わなかったと結構感動していた。


 「クロもテンも大丈夫か?」


 「私はまぁ...ちょっとくらくらするけど大丈夫」


 「私は....うぷっ」


 「ちょっテンここで出すなよ!?」


 「だいじょ...うぷっ」


 「わわわっ、一旦路地裏に行こうか」

 

 「そうじゃの」


 そう言って3人は路地裏へ移動して、人込みから外れる。


 「ごめんなさい....です...」


 「いやいやしょうがないよ。食べ物の匂いとかも凄かったから余計にね」


 「そうじゃぞ。今朝も言ったが少しずつでいいんじゃ」


 「うん....」


 「持ち帰りが大丈夫な店があったらそこで買って宿で食べようか?」


 「そうじゃのぅ。それがいいじゃろ」


 「シュテンちゃんなにか食べたいものある?」


 「.....」


 「?どうかした?」


 黒がシュテンに問いかけると、シュテンは路地裏の奥を見つめていた。


 「あそこのお店....なら。人間....少なそう....です」


 そう言われて、黒とレェーヴは視線を路地裏の奥に移す。丁度そこにはこじんまりとした建物がある。灯りが小さすぎるので、路地裏に入ったときには見えなかったらしい。

 天気がいい道路を車で走っていて、トンネルに入ると目がくらむのと同じだ。表通りはそれほどに賑わっていて、明りが凄い。


 「確かに何かあるのぅ。やっているかは分からんが」


 「行ってみよっか」


 レェーヴが言う通り、ここから見ただけでは店が開いているのかどうか怪しいところである。それに飲食店とも限らない。ここは基本的には飲食街の中なので、立っている建物は飲食に関わるものばかりだが、宿も点在したりしている。


 「えっと...安らぎの店ルーヘンだって」


 「一応店っぽいの」


 「入ってみようか」


 「じゃな」

 

 「....はい」


 そう言って扉を開き中に入ってみる。外装からも察していたが、どうやら2階立ての店らしい。1階にはほどほどに人がテーブルに座っているのが見える。外の騒がしさとは打って変わってかなり静かだ。だが、普通に喋っているところを見ると、お喋り禁止というわけではないらしい。


 「いらっしゃいませ。3名様で宜しいですか?」


 店の中をきょろきょろしていたらいつの間にか目の前にウェイターが立っていた。


 「あ、はい」


 「ではお2階へどうぞ。初めてのお客様にはそちらをおすすめしております」


 そう言われて2階へ通される。そこは1階とほとんど内装が変わらないが、1階よりも人が少なくより落ち着ける雰囲気だった。


 「こちらがメニューになります。本日のおすすめは中央海から取り入れた新鮮な魚を使ったお刺身となっております。宜しければどうぞ」


 そう言い残してウェイターは去っていく。

 黒は吹きだしそうになるのをどうにか抑えていた。どう見ても西洋風な店であったし、まさか異世界の店で最初におすすめされるのが刺身だとは思っていなかった。やはり元の世界とは少し価値観が違うのだろうか。


 「ほぅ。そのオサシミというのはなんなのじゃ?」


 「魚を生で捌いた身のことだよ。それを食べるの」


 「人間も生で魚を食べれるようになっておったのか...」


 「たぶんレェーヴちゃんが想像してるのとは違うと思う...シュテンちゃんは分かる?」


 「分からない...です」


 「そっかー。じゃあ頼んでみようか」


 「そうじゃの」


 「それにしても落ち着いてご飯が食べられそうでよかったね。穴場ってやつかな」


 「ほんとにの。運がよかったの」


 「...はい」


 そういいながら黒はメニューをめくる。そこには見慣れない名前の料理や見知った名前の料理が並んでいる。


 「このマルヴァンヌっていう料理なにか分かる?」


 「確かそれは麺料理だった気がするの。麺を茹でたものにトマトをベースとしたソースがかかっておってな。そこに怪鳥の卵を焼いて固めたものをスライスしてのっけてあったきがするのぅ」


 (かいちょう...かいちょうってあれだよね、怪しい鳥って書いて怪鳥...それおいしいの...)


 「どうしたんじゃ?」


 「怪鳥っておいしいの?」


 「怪鳥自体は毒があって普通の人間には食えんぞ?そやつの卵が毒もなく美味なんじゃ」


 「そうなんだ...」


 「食べてみたらどうじゃ?」


 「じゃあ私はこのマルヴァンヌってやつでいいかな(聞いた感じトマトパスタだし大丈夫だよね)」


 「ワシはどうしようかのぅ...テンは決まったか?」


 「私は....ムーポの丸焼き食べたい...」


 「相変わらず好きじゃなぁ」


 「うん...」


 そう答えるシュテンの顔には笑顔が見える。相当好きなようだ。


 「そういえばお金は大丈夫かの?クロ。申し訳ないんじゃがまだワシらはお金を持っておらんのじゃ...きちんとクエストを受けて返すのでな、今は貸してくれると助かるのじゃが...」


 「何言ってるのレェーヴちゃん。2人は私が養うんだよ?」


 「真顔で何言っとるんじゃ....」


 「....ありがとう...です」


 「それでよいのかテン....」


 「クロ....さんは優しい...から。一緒に...いたい」


 それを聞いた黒の身に電流では生ぬるいほどの雷撃が奔る。


 「シュテンちゅぁん!!!!」


 「その顔は.....ちょっと....」


 ズガーーン!!!雷撃の次は脳天に爆撃と同等の衝撃が走り、膝をつく。


 「ちょっ、クロ恥ずかしいじゃろ、ちゃんと席につけ。余計テンに嫌われるぞ」


 「何を言ってるのかな?レェーヴちゃん?私はちゃんとしてるよ?」


 「はぁ...」


 一瞬で席に戻り背筋を正している黒を見てレェーヴはため息をつく。


 「ふふっ...」


 「まぁよいか」


 そんな様子を眺めていたシュテンが笑い、それをみたレェーヴも笑顔になる。


 「それじゃあワシは握り飯と野菜盛り合わせでよいかの」


 「飲み物はどうする?私は水でいいかなって」


 「ワシもそうしよう」


 「じゃあ...私も」



 3人は料理を頼み、料理が来るまでの間これからのことと、パーティー名を話し合うことにした。

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