28話 私は今接敵します
音無しの森に入り少し進んだところで
「?...どうしたんじゃ?」
「?」
後衛のレェーヴが声をあげ、前衛のシュテンもそれに気づき振り返る。声以外の音が聞こえないので、近くにいたとしても声を出さなければ異変に気づけない。
「ごめん、んー...たぶんこの森の真ん中らへんだと思うんだけど魔物っぽい反応がある」
「っぽい?」
「なんかこう、はっきりとしないというかぼやけるというか。分かりづらいっていうのかな」
黒はうーんと唸りながら魔物探知の魔法から伝わってくる感覚を言葉にして2人に伝える。
「どれぐらいの距離なんじゃ?」
「30mぐらい」
「とにかく行ってみるしかないじゃろうな、テン、気を付けるのじゃぞ」
「わかった」
そう言って改めて森の中を進もうとしたとき
「待って、人の反応!」
黒は声をあげて2人を止める。しかし大声ではなく、出来るだけ小声で。他に音がないこの場所では大声をあげて喋るのは得策ではない。
「右から...回ってこっちの後ろを取るように動いてる」
「こっちの場所が分かっていると考えたほうがいいじゃろうな」
「私はどうする?配置交代する?」
ここでは視界に入らない限り敵が来たとしても気がつくことが出来ない。声を出して指示しなければいけないということはそれだけ反応が遅れるということになる。ギルドから聞いていた不審人物が生物探知の魔法によって視ているこの相手だとしたら危険だ。
「いや、私が前衛にいくね。シュテンちゃんはレェーヴちゃんを守るように配置について」
「わかった」
「ワシはあらかじめ罠を張っておく」
そういいながらレェーヴは周りに妖術による罠を仕掛ける。これは黒と初めて会った時に使っていたものと同じで、無詠唱でも意識すれば発動することができるためかなり強力だ。しかしそれ故に設置に時間がかかるのが難点だ。
「あとどれぐらいでくるのじゃ?」
「あと10m!」
「うむぅ...1つが限界か」
レェーヴはどうにか罠を1つ設置し終える。そして身構えること数秒、黒が動く。
配置的には前方に黒、真ん中にレェーヴ、後方にシュテンというように位置どっていたのだが、黒はシュテンの背後へと飛び、何者かと接敵した。
「!?」
相手の獲物は刀のようなもので、それを両手に纏わせた障壁で黒が弾いた。しかし、刃と障壁がぶつかったことによる音は聞こえない。
「だれ!」
黒が何者かに問いかける。一瞬だけの接敵だったが、恐らくあれは女性だろう。髪が長かったし、何よりもいい匂いがした。間違いない。
.......
返事は帰ってこない。当の本人はもう木々に紛れて姿を消している。しかし、黒にはその場所がはっきりとわかっている。
静寂の中待つこと数秒、また黒が動く。次はレェーヴの背後だ。
「っ...」
また黒によって攻撃は防がれ、敵は後退する。
(うむぅ...何が起きているのか分からん...音が聞こえんというのは不便すぎるのぅ...しかも相手がいる場所を特定できんと罠を発動できん...それどころかこうも背後を狙われていては見ることすら叶わん...)
レェーヴは心の内で愚痴る。戦闘音すら聞こえないため、先ほどから死角を狙って攻撃を仕掛けられているレェーヴやシュテンは相手の姿すら認識できていない。それどころか本当に攻撃されているのかすら分からない。これでは並大抵の冒険者では知らぬ間にやられているだろう。ギルドから派遣された冒険者が全員返り討ちに合うわけだとレェーヴは思った。
ちなみにシュテンはというとおろおろしている。
「なんで攻撃されてるのか分からないんだけど、何か悪いことしっ!?」
黒が大声で話かけていた途中、いきなり黒に襲い掛かってくる。今度は正面からだ。
「ーで」
刃を両手で受け止める。鍔ではないが、いわゆる鍔迫り合いみたいな感じになっているときに相手は口を開く。しかし、声が小さく聞き取れない。
「喋ら...ないで」
辛うじて聞こえたが、話の意図が分からずつい聞き返しそうになる。しかし、相手は人間であるので黒の共感覚は相手の感情や心を黒に視せる。そして、だいたいのことは理解する。
この子は悪い子じゃない。
黒は頷いてこちらの意思を伝える。そうすると、相手は驚いたような表情をしつつも、刀を下げてくれる。
後ろの2人はその様子を見守っていたが、訳が分からず困惑する。
「「ク」」
レェーヴとシュテンがクロと呼びそうになるところを、黒は2人の口に人差し指を当てそれを止める。
今の状況を紙に書いて2人に伝える。そして2人は納得してくれる。
そして黒は振り返り、紙に書いた文字をこちらの様子を窺っている敵だった子に見せる。
『私はクロ。ちょっとお話を聞かせてもらっていいですか?』
しかし、その紙を見てその子は首を振る。
「文字...読めない。小声だったら...大丈夫。たぶん...」
そういうことらしい。
取りあえず家に案内してくれることになり、話はそこですることになった。
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