27話 私は今音無しの森へと入ります

 小夜世 黒さよせ くろ達3人はクエストを達成すべく、音無しの森へ向かっている。ここまでの道のりは何事もなく、もうすぐ1日が終わろうとしていた。


 「ここら辺で今日は休んでおこっか」


 黒はそういいながら、走っていた足を止めて後ろの2人へ問いかける。


 「そうじゃの、そう急ぎの用でもないからの」


 「ごめんね...私が2人に追いつけないせいで遅くなっちゃって...」


 シュテンが申し訳なさそうに顔を伏せながら言う。3人のパラメータを考えると、進行速度はシュテンに合わせることになるのでそれを気にしているようだ。


 「気にしないでよシュテンちゃん。みんなで楽しくお散歩だって思えばいいんだよ、全力疾走のお散歩なんて嫌でしょ?」


 「クロの言う通りじゃぞテン。先ほども言うたが別に急ぎの用ではないからの。気にすることはない」


 「うん...ありがと、クロ、レーちゃん」


 3人は笑いあいながら夕飯の支度を始める。今日の献立は道中仕留めた猪のような獣1頭と果物、川で休憩がてらに捕まえた魚だ。


 シュテンが落ち木を集め、レェーヴが火を付け料理を始めるための下準備を進める。黒は魚を捌いたりしている。

 1人暮らしを始めた当初に色々な料理をしたことが地味に役立っている。最近はまったく料理をしていなかったが腕はそこまで鈍っていないようだ。ちなみに獣はシュテンの要望で丸焼きである。

 






 「美味しかったー」


 「うむ。外で食べるとより一層美味しく感じるものじゃな」


 「ふにゃぁ...」


 シュテンはというと、持ってきていたお酒を飲んでダウンしている。『こんな日はお酒を飲まなきゃ損だよ!』と言ってあっという間に倒れてしまった。何だかんだで外でここまでちゃんと料理をして食べる機会はなかったので楽しかったのだろう。


 いつものように収納空間マイルームの入口をレェーヴの神隠しで外敵から見えなくして、中で休むことにする。


 「そういえば音無しの森って声とかは聞こえるのかな?」


 今黒達は川の字になって布団で横になっている。シュテンを真ん中にしてレェーヴと黒で挟む形だ。


 「ワシもギルドで聞いたようなことしか知らんからの、よくは分からんが特に注意されていないということは大丈夫なのではないか?」


 音無しの森というところについてギルドから説明があったことというと、その森の中は名前の通り全く音がしないのだという。木々が揺れ葉が擦れても、草花が風に流されようと音がしない。その中に入ったものが言うには1人だと気が狂いそうになるとかならないとか。あまり好き好んで近づく者がいないためあまりよく分かっていないらしい。


 「普通に考えて魔法とかがかけられてそうだよね」


 「森全体にか?うーむ...わざわざそのようなことをする意味が分からんが...うむぅ」


 「まぁ、明日には着くし明日確認すればいっか」


 「そうじゃの、今日は寝るとしよう。おやすみじゃクロ」


 「うん、おやすみレェーヴちゃん」


 黒はシュテンのことを抱き枕にしつつ眠りにつく。最近の寝るときのスタイルはこれで決まっている。たまに抱き枕がレェーヴの尻尾になる。



 ◯●◯●



 次の日の朝、いつものように水浴びを済ませ早速出発することにする。何事もなければあと昼を少し過ぎたあたりにはたどり着けるだろう。





 野営地を後にし音無しの森へと出発した黒達3人の道を遮るものはなにもなく、無事に目的の森へとたどり着く。


 「なんか不自然に孤立してるねこの森」


 黒の言う通り、音無しの森の周り数メートルには木々が生えておらず、例えるならば森の中に森があると言った様子だ。


 「クロが言っておった魔法についてはあながち間違いじゃないかもしれんの」


 「魔法?」


 寝ていたシュテンのために昨日寝る前に黒とレェーヴが話したことを教えてあげる。


 「なるほど魔法...私には分からないけど魔法がかかっているんだったらわかったりしないの?」


 「人為的に起こす魔法は魔の動きが分かりやすいが自然的に発生する魔法というものがあっての、それだとほとんど分からん。今見た限り人為的な魔法ではなさそうじゃが...」


 「魔法って自然的に発生するの!?ちょっと驚きの発言なんだけど...」


 「そういえば教えておらんかったかの、まぁ歩きながら話すとしよう」


 「そうだね、入ろっか」


 「うん」


 3人は同時に森へと足を踏み入れる。ちょうど頭が森の中に入ったとき、3人は驚愕の表情を浮かべる。


 「ほんとになにも音がしない...」


 「これほどまでとは...」


 「気持ち悪いー...」


 3人の言う通り、自分たちの声以外の音が全くしない。黙ってしまえば無響室にいるのと変わりがない。


 しかも不思議なことに聞こえるのは声だけなのだ。衣擦れの音や足音なども聞こえない。


 「なんかとんでもない場所だね...」


 「そうじゃの...クロの探知があるから背後から奇襲はされぬだろうが気をつけたほうがいいじゃろうな」


 レェーヴの言う通り、これでは背後に何者かがいても気づけない。黒はいつもよりも探知範囲を広げておく。


 「ちゃちゃっと調べてちゃちゃっとここからでよっか」


 「賛成じゃ」


 「私も」


 黒は静かなところが好きだが度が過ぎると苦痛になる。こんなところに長居をしては確かに気が狂いそうだ。急いで不審人物(魔物)を探すとしよう。


 そうして黒達は森の中へと足を進めるのだった。

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