29話 私は今話を聞きます
音無しの森で出会った謎の少女に連れられて、
家は森の中心部近くにあり、木で作られた小さいものだった。
「...」
「...」
今は机を挟んで謎の少女と向かい合って座っている形になっている。向かい合って数分間、まだなんの会話もしていない。謎の少女も黒もお互いに黙って座っている。レェーヴとシュテンはその様子を黒の隣に座って見守る。
「...」
「...」
それからまた数分、時間が過ぎる。10分を過ぎようかというところで、謎の少女は口を開いた。
「あの...なんで...何も言わないん...ですか?」
相変わらず彼女の声は小さく、声以外の音がしないこの場所でも聞き取りづらい。
「話してくれるまで待ってよっかなって。私にはそうして欲しそうに見えたから」
黒も合わせて小さな声で返す。大きな声を出すのは先ほどの戦闘のこともあり、得策ではない。
「...」
「...」
そしてまた数分、沈黙が流れる。そして謎の少女は意を決したように口を開いた。
「私の...名前は.....オトナシ。あ、えっと...私の名前だけど...えっと...」
彼女はたどたどしく言葉を紡いで必死にこちらに伝えようとしてくる。
「ゆっくりで大丈夫だよ」
その様子を見守りながら、黒は静かに言葉が出てくるのを待つ。レェーヴも目を閉じながら静かに聞いている。シュテンも見た目では同じだが、こっちは寝ている。
「人と...話したの...久しぶりだから...ごめんなさい」
「うん」
「えっと...私の一族はオトナシって名前。オトナシの名前はみんなオトナシなの」
「うん」
恐らく個別に名前が設けられているのではなく、オトナシ一族として生まれた人はみんなオトナシという名前が付けられるということだろう。
それから彼女は長い時間をかけゆっくりと今の状況を説明してくれた。なぜ冒険者を襲ったのか。なぜここに1人でいるのか。なぜこの森は音がしないのかなど。
まずなぜこの森に音がしないのかだが、オトナシ一族の封印魔法によるものだという。この森の中心には音喰いの獣と呼ばれた魔物が封印されているらしい。黒が魔物探知で感じた気配はその獣のものだろう。
その獣はどんな封印魔法を施しても周りに音がある限りそれを喰らい力とし、封印を破ってしまう。討伐をしようにも困難を極めたのだという。そこで立ち上がったのがオトナシ一族であった。オトナシ一族は変わったスキルを持ち、それは音をなくすものであった。それを封印魔法に組み込みなんとかその獣を封印したという。
ここまで聞けば万事解決とまではいかないが、その時は事なきを得たのではないかと思えるかもしれない。しかし、オトナシ一族の悲しい運命はここから始まった。
まずオトナシ一族が持つスキル使用の代償は使用者の命であった。それ故に禁忌とされたスキルであったが、音喰いの獣による被害は凄まじく、一族の総意で封印をすることを決意したという。
封印魔法に組み込んだことで、スキルの代償である命の消費は激しくなり、耐えられたとしても大人では5年が最長だったという。1人が死に代わりに新たなオトナシが魔法に自身のスキルを施す。封印魔法にスキルによる修繕を施すので、魔法が使えるかどうかは関係なく、歳を取ったオトナシから順に命を捧げていったという。
元々オトナシ一族の女は子を成し辛いという体質があったせいもあり、長い年月をかけ、オトナシ一族の数は減っていった。そんな中でも、好きではない相手と子を成す必要がなかったのは封印を決めた当時の長が定めた掟のおかげである。
そしてとうとう目の前にいる少女の家族だけが生き残りとなった。子を持つ大人は暗黙の了解で最後の方に順番が回されたのだという。そして、その両親も3年前に力尽き今は彼女が最後の生き残りだという。
しかし最近になって、封印が弱まったせいでスキルによる効力が落ちてしまったらしい。そのため今のように声だけは伝わってしまうのだという。そこで、本来は別の場所に住み見守ってきたがここに家を建て、何も知らずに侵入してきたうるさいやつらを追い払っているのだという。
「じゃあオトナシちゃんは今命を削ってるってこと?」
オトナシによる話が終わり、ずっと聞き手に回っていた黒はすぐさまオトナシに問いかける。
「...はい」
「うーん...」
その返答を聞き、黒は唸る。レェーヴはそんな黒の横顔を黙って見つめる。シュテンはその横で寝返りをうつ。
「そもそもなんでこの事態をギルドが知らないのかは今は置いておくとして...レェーヴちゃん、いいかな」
「わかっておる。好きにしたらいいと思うぞ、ワシはついていく。テンも同じじゃと思うぞ」
「うん、ありがと」
少ない言葉で意思疎通する2人を見て、意味が分からずにオトナシは首を傾げる。
「じゃあ、獣狩りを始めたいと思います!!!」
そう黒は高らかに宣言した。
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