32話 私は今派手にやります
(ここまで下がっても声は出ないか...)
もしかしたらと思ったがそうは上手くいかないらしい。仕方なく地面に文字を書いて意思疎通を図る。音喰いの獣はというと、今のところ手当たり次第に暴れまわっているらしく咆哮だけが黒たちの耳に届く。
先ほどまで相手をしていた私達を無視して走り去るとは思えないが、もしそうなったら最悪の事態である。早く何とか手をうたねばならない。
(私だって少しは力になれる。魔法が使えないなら尚更だよ)
シュテンが戦う意思を黒達に書いて見せる。確かに現状は手数が多い方がいい。まだ見たことはないが、シュテンのスキルである狂化を使うと筋力が上昇するらしい。そうなれば黒の筋力数値を上回るため、ダメージを与えられる可能性は大きく上がる。
そのあと数分話し合い、基本は2人1組のパーティーで行動することになった。先ほど黒が氷の礫による攻撃を受けたことが大きい理由だ。1人で孤立した場合、あの攻撃を避けるのは困難だ。
組み合わせとしては、黒とレェーヴ、シュテンとオトナシで、シュテン組が前衛を務め引きつけ役、黒組がサポート兼フィニッシャーを務めることになった。イチかバチかだが、レェーヴの提案した作戦にすべてをかけることにしたのである。
獣はすでにこちらに向かって走って来ており、もう時間はない。4人は各々の顔を見た後、頷き行動に移る。
このとき黒は内心、結局3人を危険な目に合わせてしまっている自分に嫌気がさしていたが、今はそんなことを考えている場合ではないと気持ちを切り替える。チャンスは一回、絶対に決めて見せる。
先に走り出していたシュテン組が獣と接敵したのが黒の魔法の魔物探知と生物探知から分かる。常時発動しておいてよかったと本当に思う。
黒とレェーヴは顔を見合わせ、行動を開始する。獣の動きに注意しつつ、離れすぎないように目標地点に向かう。
一方そのころ、シュテン組はというとかなりギリギリな戦いをしていた。囮役というのもあるが、シュテンが身を顧みず、相手の懐に突っ込んでいくからである。
(っ!!)
オトナシがどうにかシュテンへと飛来する氷の礫を弾いていく。シュテンはというと、狂気に満ちた表情で嬉々として獣へと突っ込んでいく。その体の節々は血で濡れている。恐らく声が聞こえていたとしたら、シュテンの高らかな笑い声が戦場を埋めていたことだろうとオトナシはシュテンを少々畏れるが、しっかりと守る。
シュテンからは前もって、『たぶん迷惑かけるけど、お願いします!』と
(....)
黒は集中するために目を閉じている。シュテン達が気になるが、やるべきことをやらねばならない。シュテンはそんな黒を狙う氷の礫を対処する。流石にここまで近づくと、静かにしていても離れているこちらの居場所が分かるらしい。
(来た!)
黒は目を開けると、視界に獣の姿を捉える。同時に、血だらけのシュテンとオトナシの姿も確認する。
(っ...)
反省は後だ。黒は心の内に力を込める。すると、黒の身体は光に包まれ、その光が収まるとそこには純白の髪を持つ黒が立っていた。レェーヴとの初対面の時に会得した白化である。身体の内から魔が溢れ出してくるのを感じる。
(上手くいってよかった...)
黒化もそうだが、どうすればこの状態になれるのかがなんとなく分かるのだ。しかし、黒化と違い白化にはあれ以来なっていなかったので成功するかはある意味賭けだった。
(っ!)
獣からの明確な殺意を感じる。どうやら黒のことを危険因子として認識したらしい。シュテンとオトナシのことを無視して、こちらへと突っ込んでくる。
しかし、その直後獣は硬直する。それと同時に声が出せるようになる。
「今じゃクロ!長くは持たん!」
レェーヴはボロボロのシュテンとオトナシを回収して、その場を離れる。そのあと黒は3人を巻き込まない様に
今獣はレェーヴの妖術にかかっている。黒はすっかり忘れていたのだが、レェーヴはオトナシとの初接触の時に仕掛けを施していた。これの設置には時間がかかるが、無詠唱で発動できるものなので、先ほどの声が出せない状況でも発動できたのだ。
この獣がまた
これまで使ってきた魔法では足りないだろう。もっと強力な魔法を。せっかく魔量が100000以上もあるのだ、出し惜しみする必要はない。
黒は魔法の詠唱というにはお粗末だが、心を込めた言葉を紡いでいく。この世界ではそれこそが強い力となる。
「光り 照らせ 黒く染まったその身体を 黒く染めているその本体を 友を傷つけたお前を 私は許さない 私は容赦しない 天を裂くほどに 地を貫くほどに 光 照らせ 浄化の光」
獣を包んでいる黒い何かが黒には視えていた。恐らくあれが諸悪の根源だろう。最初はオーラ的な何かだと思っていたが、今ならわかる。あれは呪いに近いなにかだ。あの呪いは生きている。例え獣を殺したとしても、あいつが死なねば恐らくまた同じ悲劇を生むだろう。
「クロ!」
レェーヴが叫ぶ。それと同時に、黒は魔法を解き放つ。
「
魔法名を考える暇はなかった。
黒がそう唱えると、獣の地面から光が溢れ、それは次第に勢いを増し獣を飲み込む。それはまるで光り輝く塔となり、地と天を繋いだ。
その光の中から黒い靄が飛び出してくる。完全に浄化される前に身体を捨て、逃げ延びたようだ。しかし、先ほども言ったが容赦するつもりはない。獣から離れた今、
「逃がさないって言ったでしょ!
靄の上に黒い猫の球が現れ、靄は地面に叩きつけられる。魔法での攻撃も通るようだ。しかし、靄は消えることなく、重力の影響から逃れようともがいている。
どうせだから派手にいこうと黒は口端を吊り上げる。
「赤 青 緑 茶 白 黒 すべての色を内包する大いなる魔法 大いなる術 我が敵を 破壊し 破壊し 破壊しつくせ!」
「
そうして、半径3kmにも及ぶ範囲に大きなクレーターが生まれた。
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