23話 私は今初のパーティーでの戦闘をします
今、
「てい!」
シュテンが声を発するたびに現れた魔物は殴られ魔魂と化す。
「そい!」
そうしてまた魔魂にされた魔物を眺めながら、黒はその魔魂を拾って
「いやー...ここのダンジョンじゃ練習にならないね...」
「そのようじゃの...」
初めはそれぞれの配置について話し合った。当初の考え通り、シュテンを前衛、黒が中衛、レェーヴが後衛だ。基本的にシュテンが最初に接敵し、状況を見て黒が障壁などでアシスト、シュテンを抜けてきた魔物の対処を行う。レェーヴはその2人を妖術を使ったアシスト且つ状況分析だ。黒とレェーヴどちらを中衛にするか少し話し合ったが、戦闘経験で勝るレェーヴは戦況が見渡しやすい後衛にということになったのである。
それでいざ実践してみようかと思ったのだが、シュテンが一発で魔物を沈めてしまうため、黒とレェーヴはそれを見ているだけになってしまった。
「それよりもシュテンちゃんって戦闘となると人が変わったように活発にならない?」
最初の頃よりも打ち解けてくれたので、最近のシュテンは2人の前では活発だったとは言え、どちらかというと大人しい方だった。
「うーむ。鬼の血が騒ぐというやつかの...相手が人間ではなく、魔物じゃから緊張というか、なんじゃろうな、容赦がないのかもしれん」
「そういうものかー」
2人が話している間にもシュテンがまた新たな魔物を魔魂へと変えている。
ちなみに、今3人が向かっている場所はこのダンジョンのボスのところだ。やはりダンジョンにはボスが付き物のようだ。また、変わったことにこのダンジョンは下へ向かうのではなく、
この世界のダンジョンの内部は空間的に外の世界からは逸脱しており、外から見た大きさは参考にならないらしい。実際に体験してみると納得がいった。
「もうそろそろ3層目の扉が見えてくる頃かの」
「そうだね、ギルドで貰った地図によるとあともう少し」
この野良ダンジョンはギルドの管理下であることもあって、しっかりと地図が作られていた。有料ではあったが、初のダンジョン潜りで道に迷い出られなくなるなど嫌だったので、迷わずに購入していた。ギルドもなかなかに商魂たくましい。
「あっ扉あったよ!」
前にいたシュテンから声が上がる。草木をかき分けて進むと、シュテンの目の前に扉が見える。
2層目の扉を見ていた時から思っていたが、次の層への扉は思っていたよりも小さかった。もっとこう、レェーヴのダンジョンで見たような大きな扉かと思っていたのだ。そのことをレェーヴに聞いて見たところ、ダンジョンによって様々らしい。レェーヴが入るのでもギリギリな扉もあったらしい。『男の大人とか入れなくない?』と聞いてみたところやはりそうらしい。ある意味制限付きダンジョンということだろう。
「よいしょっと」
シュテンが2人が追い付いたことを確認すると、扉を開ける。扉の先に見えるのは今いる2層よりもより緑が濃くなった草木や花々だった。花の色ですらもう緑の物しか見当たらない。進むごとに緑が濃くなっているようである。生えている量もそうだが、色としても。
「なんか当分緑色は見たくなくなってくるね...」
「そうじゃの...」
「私も目が変になりそう...」
「この次がボスの部屋っぽいからちゃちゃっとやっつけて帰ろっか」
「うむ」
「うん」
そう言って、3人は扉を潜り歩を進めた。ちなみに扉は閉めないで放置しておくと勝手に閉まるようである。ちょっとしたホラーを感じた。
それから少し歩いたところで、黒の魔物探知に反応があった。
「シュテンちゃん、5mぐらい先に魔物の反応!1体!」
「分かった!」
一同警戒を強めて先へ進む。5mほど歩いたところで、シュテンが止まる。
「見当たらないね...今もいる?」
「そこの木に反応があるね...たぶん同じ色してるやつがそこにくっついてる」
ちなみに木の幹ですら真緑であるので、色の違う服を着ている3人がこの世界では異質のように感じる。どこぞのアーティストの部屋かと黒は思った。
「改めて言われても全く見えないね...」
「そうじゃの...」
3人はじっと木を見つめる。とうとうその視線に耐えられなくなったのか、魔物が正体をあらわにする。いきなり木の幹に目が現れたのだ。
「ひぇ!?」
シュテンがいきなりのことにびっくりして及び腰になる。その隙を逃すまいと木に張り付いた魔物は舌のようなものを射出する。攻撃の瞬間、魔物の体の色がぶれたので大まかな姿を確認できた。恐らくカメレオンのような魔物だろう。いそうだなとは思っていたがまさか本当にいるとは。これまでは基本的に花の魔物であったり、虫の魔物であったが、さすがボス部屋前の層である。それっぽいのがいる。
シュテンはその魔物の攻撃に反応が遅れる。咄嗟に攻撃を防ごうと腕を出すが、その腕を舌で絡めとられる。
「気持ち悪い!」
シュテンが涙目で叫ぶのと同時、そのまま魔物の元へと引き寄せられる。
「わっ!?」
位置関係的に魔法を使えばシュテンを巻き込んでしまうので、黒は接近戦に切り替える。魔物の元へと急迫する。
しかし、シュテンが魔物に引き寄せられる方が早い。黒は嫌な予感を抱き、咄嗟にシュテンと魔物間に障壁を張る。
「
黒が作り出した障壁により、舌による引き寄せが止まる。どうやら障壁によって舌が固定されてしまっているようである。この用途は今後も使えそうだと思ったが、今は目の前の魔物である。
魔物は突然のことに驚いたが、最初からそうする予定だったのかシュテンに向かって口から液体を放つ。障壁はことごとくそれを弾くが、弾かれた液体が地面についた瞬間、そこにある草花が溶け始める。
「うえぇ...」
その様子を守られながら見ていたシュテンは顔を歪める。
「っの!!」
魔物が溶液を放った直後、黒は魔物の頭部に蹴りを入れる。
声を上げる間もなく魔物は絶命し、魔魂へと変わった。
「大丈夫だったシュテンちゃん!」
「無事かテン!」
シュテンは魔物の舌を千切り、こちらに近づいてくる。
「油断しちゃった...ありがと、クロ、レーちゃん」
「全然、そのためのパーティーだからね」
「ワシは何もしとらんがの。それよりも腕は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。ちょっと気持ち悪いぐらい」
そういいながら見せてきた腕は恐らくあの魔物の唾液だろう。べちょべちょだった。
「流しちゃおっか」
「ありがと」
そう言って黒は魔法で水を作り、唾液を流してあげる。
「よし!じゃあこれからは魔物の反応があるところに魔法をぶつけてちゃおっか。見えるやつはシュテンちゃんが対応する感じで」
「わかった!」
「ワシも魔法を撃ってよいかの。このままでは何もせず終わってしまいそうじゃ」
「うん、よろしくね」
そうして、3人はボスの部屋がある方へと歩き出した。
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